パリのマダムの・・・ volume69

『Paris Was - エジプト編 』

Parisは魔法の言葉……と親友は言うけれど、大方のフランス人にとって、パリはストレスフルな街でしかない(と思う)。コロナ禍ではパリ脱出組が増えて、地方の不動産の値が上がった。
夫は、アパルトマンの売却を計画しているようだが、私はそこまで吹っ切れないでいる。

パリのマダムの… なのに、なかなかパリの話が出て来ないじゃないという声に…、確かにそうね、久しぶりにパリにまつわるお話を……となったのですが、とは言っても、Paris Nowを語る人は大勢いるしなぁ、ということで、私はパリの今と昔の物語、題してParis Wasを。

パリの象徴の一つにノートルダム寺院があるが、ここは東京でいうところの日本橋で、パリの起点。それぞれ海上交通でたどり着いた人々の軌跡と結びついていて、Parisのネーミングにも何らか関係しているはず。

なぜパリと呼ばれるようになったのか、3つの説がある。

・セーヌ川のシテ島に辿り着いた「黒づくめの女性」一団の伝説があって、その船を“Baris”と呼び、それが訛って“Paris”になったという説。

・ケルト系ガリア人の“Parisii”パリシイ部族が起源だという説
(この辺りは、ラテン語でLutetia Patisiorumパリシイ族の沼沢地と呼ばれていた)

・キリスト教以後、異教とされたIsisイシス信仰から“Paris, Per-Isis ”説。
(古代エジプト語のPerは、家の中を表し“イシスの家”とも読める)

Isisの表記を見ると、イスラム過激派を連想する人もいるだろうが、エジプトの女神イシスのこと。パリの有名校の一つHenri IV(アンリ四世)には、パリの守護聖女サント・ジュヌヴィエーヴ修道院があった。そこも含めて、サンジェルマンデプレ教会、パンテオン、ノートルダム寺院など、教会の多くは古代異教の崇拝の場所に建てられ、そこにイシス信仰があった。

ヨーロッパ人は、自らの歴史がローマ帝国から始まると捉えている人が多いようだが、カエサルの影響が大きい? カエサルは、エジプトをローマ帝国に併合し、クレオパトラと4度目?!の結婚をして“イシス”信仰の信捧者となったらしい。

カエサルの名前Gaius Julius Caesar(ガイス・ユリウス・カエサル)は、Gaiusが名、Juliusが氏(生まれ月を当てはめたもの)、Caesarが姓で、これが後に皇帝を意味するようになり、カイザーやツァーリなどに変形する。高級宝飾店が並ぶヴァンドーム広場の記念柱(大砲を使って造られた)の上はローマ帝国を意識してカエサルに扮したナポレオン像が立っている。

ノートルダムとは聖母マリアという意味だが、黒い聖母子像は、マリアとキリスト以前に、エジプトのイシスとその子ホルスという言われもある。黒いマリア像は、ヨーロッパ各地に約450体もあるという。三位一体ではないマリア信仰というのが、キリスト教では許し難いという側面もあるようで、教会を見物する時に、ペテロ的な側面とマリア的な側面で見るのも面白いのではと思う。

話は飛ぶが、マルセイユタロットについて、マグダラのマリアの秘密が隠されているという話がある。マグダラのマリアはキリストの妻であり、二人の間には娘がいたと言われ、そういう話がダヴィンチコードのシナリオに繋がっている。

その秘密を読み取る鍵……月のカードには、上部に太陽を覆い隠す月が描かれ、2つの塔がそびえている(今の世にたくさんあるツインタワーの元祖?!)。マグダラの意味は「塔」だが、2つの塔はマリアとその娘。娘はメルヴィング王家の血筋の始まり、2匹の犬は教会と政治権力。ザリガニは男性と女性の性の統合で、蟹座は神々の母を表す。

ところで、千葉県の木更津市に真理(まり)という地名があって、JR久留里線には真来田(まくた)という駅があり、木更津市には真里谷(まりやつ)という地名もあり…、真来田の真里谷って“マグダラのマリア”と読めないこともないでしょう?
こういう系の話の好きな私はちょっとワクワクしてしまった。

話を戻して…革命後にノートルダムが重要になって行くのだが、それはナポレオンが戴冠式を行ったり、ビクトル・ユゴーがNotre Dame de Parisノートルダムドゥパリ「ノートルダムのせむし男」を書いたりした功績によると思う。以前、ナポレオンのエルメススカーフのお話をしたが(37話)、エルメス本店の屋上には、「えっ、ナポレオン?!」となる様な騎馬軍人像がある。

お気づきの方もいるかと思うが、パリにはエジプト関連のオブジェが多い。
中でもエジプトモノとして真っ先に思いつくのは、コンコルド広場のオベリスクだろう。

3200年以上も前に、ラムセスII世が建てたルクソール神殿の入口を飾っていたもので、パリで最も古い記念物。クレオパトラの針と呼ばれている。エジプト総督ムハンマド・アリから国の近代化に貢献したお礼としてフランスに寄贈されたもので、寄贈式では、モーツアルト最後のオペラ『イシスの神秘』(魔笛)が演奏されている。ここでもまたイシスなの。

オベリスクの運搬は、海軍省の将校の働きで実現したという。広場に面して、Hôtel de la Marine(オテル ドゥ ラ マリーヌ)と言う歴史建造物が建っている(写真右)。ここは王室お抱え建築家Ange-Jacques Gabriel(アンジュ・ジャック・ガブリエル)(何と!天使が二人も入った名前)が18世紀に造ったもので、1798年まで200年以上にも渡って王室の家具や調度品の倉庫だったものが、後に海軍省の本部になった。2021年にリニューアルオープン、パリのベルサイユ宮殿と呼ばれることもある絢爛豪華な博物館となった。お薦め観光スポットの一つ。

実は私、写真左のパラスHôtel de Crillonオテルドゥクリヨンのカフェでお茶をしててブローチを盗まれたことがあります(涙)。観光気分でフワフワしていると…こういう目に合う事も。パリはスリや置き引きがそこそこ居ますので改めてご注意を。

次はコンコルド広場について…。パリ観光において、通り過ぎることはあってもじっくり散策というのはあまりないかもしれないが、結構興味深い場所。
ここには、8体の女性像が立っている。それぞれの方角の先には、ブレスト、ルーアン、リル、ストラスブール、リヨン、マルセイユ、ボルドー、ナントの8都市、要塞を暗示、川と海の航海を象徴しているのです。

さらにエジプトを探すと、2区にLe passage du Caireルパサージュデュケール(カイロアーケード)という場所がある。ハトホル女神に、ヒエログリフのフレスコ、ロータスの柱、1798年建造のパリで最も古いアーケードで衣類の卸店なんかもある。

ルーブル美術館のピラミッドの対面の建物の壁には、1805年、エジプトのシンボルが彫刻されている。クレオパトラの手には蛇、イシス女神の肩には鷲がいる。

1921年、Magenta(マジェンタ)通り70番地に建造された映画館。ネオエジプト様式の色とりどりのモザイク、花のモチーフ、コガネムシのシンボルの装飾が見られる。R.カニュードが『第七芸術宣言』で“映画”を、建築、絵画、彫刻、音楽、舞踏、文学に次ぐ“第7番目の芸術”としたため、他とは一線を画した作りになっている。

ナポレオン1世〜3世の時代に、パリ市内に多くの噴水が作られた。地下のミネラル水を利用したもので、大部分は英国人Wallaceウォレス方式の噴水、現在では104以上あるという。
市民に水を提供する、という表向きの話の他に、革命期には噴水が諜報の暗号にもなったらしい。邸内から操作できる仲間内でわかる通信手段だったという。

シャトレーにあるFontaine du Palmierフォンテーヌデュパルミエ(ヤシの木の噴水)。ヤシの葉の装飾の柱の上に勝利のブロンズ像があり、Fontaine de la Victoireフォンテーヌドゥラヴィクトワー(勝利の噴水)とも呼ばれる。4つのスフィンクスから噴水が出る。

ボンマルシェデパートから遠くないセーブル通り42番地、地下鉄Vanneau(ヴァノー)駅入り口の横にあるFontaine du Fellahフェラーの噴水。1739年に発掘され、本物はバチカン美術館保存され、パリのものは1806年建造のレプリカ。

ルーブルの北側パレ・ロワイヤルのConseil Constitutionnelコンセイユコンスティチュショネル憲法評議会の正面入り口のドアにはスフィンクスの彫刻がある。意外に新しく、1972年にFenosa歩フェノーザという人が手がけた。その謎解きは?

パリのエジプトをざっくりご紹介したが、実は私、エジプトとは少なからぬ縁がある。
初めての一人旅で英仏を巡り、エジプトマニアではなかったが、ロンドンの大英博物館でエジプトコーナーだけを見て回り、唯一ロゼッタストーンのポスターを買った。

その私が、夫に出会ったのは、カイロのクフ王のピラミッドに近いホテルだった。
二人とも仕事で来ていて帰国便がたまたま同じ、詳細は端折るが、その後、パリで一緒に生活するようになって結婚。我が家ではこの出会いをピラミッドパワーと呼んでいる。

夫は1回、私は5回もエジプトに行っているが、各自で購入した(夫は物々交換だったらしい~笑)が、パピルスを持っていた。中にはバナナの皮という紛い物もある(苦笑)。

アパルトマンは購入した時に改装をして、その後も2回改装をした。その度にインテリアを変えたのだが、2019年に改装した時には、廊下を濃紫に塗って、スポットをつけ、パピルスを飾ってみた。パリの我が家のエジプトはこんな感じになっています。

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