パリのマダムの・・・ volume71

『シオンと聞いて…』

シオンと聞いて、何を想い浮かべますか?
私は先ず、キク科シオン属の多年草 “紫苑”を思い浮かべた。
宝塚大好きな親友は元宝塚歌劇団星組トップスター“紫苑ゆう”さんを思い浮かべたと…本当に、言葉に対するイメージは人ぞれぞれだ。で、今回のテーマのシオンは、聖書に150回も登場するエルサレムの丘 “Sionシオン”のこと。

シオンという言葉を私が初めて耳にしたのは、実家近くの通称“シオン学園”というキリスト教系女子校だった。結局、県立高校に進学したものの、実は私、ここを受験し、合格をいただいていた。

その後、青学に進学すると、短大には“シオン寮”というのがあった。(2020年3月に閉寮)
仏文を専攻したが、そこはミッション系の大学、当然ながらキリスト教概論が必修科目。礼拝に出てレポート提出をした。当時の私は、課題をこなすだけでイッパイ。“シオン”という言葉を想い浮かべることもなかった。

アメリカズカップの仕事でサンディエゴに4ヶ月住んだことがある。
レース期間の合間の休暇を利用して、ラスベガス経由で、ザイオン並びにブライス国立公園に遊びに行った。
浸食した土柱の世界が強烈な印象として残ったが、Zion=Sion、と気づいたのはずっとずっと後になってから。

さて日本の話。エルサレムとは平和の町という意味。京都には平安京があったことから、海外では京都は極東のJerusalemエルサレムと言われることがある。八坂神社は祇園ギオンに、お隣には知恩院も…チオン…シオン?! まるで言葉遊びの様だが、それなりに意味があると私は思ってしまうのだが…

旧約聖書には、アブラハムが神の命を受けてMoriahモリヤでイサクを生贄にしようとした話がある。ヘブライ語でモリヤは「ヤハウェが見る」という意。
日本にもモリヤという音がある。漢字で表記すると守屋、守谷、森屋守矢…モリヤ‐マ 守山、森山、盛山……かなりある。
モリヤ=シオンという説もあり…。

もちろん、こういう類の話は諸説あり、どれがホントでどれが嘘と言い切ることは、学術的専門家でも難しい。となれば素人には尚の事だが、日本もシオンに関する話は他の国々に劣らないほどあるのは事実だ。

シオニズム、日本では高校の世界史教科書に出てくることで知る人が多いと思う。最近は世界史を選択しなくてよい高校も多くなっているので、人生で全く触れないワードな人もいるかも。
授業では、『迫害を逃れたユダヤ人がパレスチナの地に故郷を再建しようとした民族運動。ユダヤ教徒以外を容認しない排他的宗教的民族主義という一面を持つ思考を含む』と習う。宗教、民族、政治など、複雑な要素が絡むだけに、教えるのも、学ぶのも一筋縄ではいかない中の着地点なのだろう。

その難解な“シオニズム”の結果、第二次世界大戦後、遂にイスラエルが建国されたわけだが、はたしてシオニズムはユダヤ人だけのものだろうか?  答えはNoだ。

よく耳にする政教分離という言葉、こちらも日本では、実生活で耳にしたり実感したりする言葉というよりは、授業で習うの方が身近かも。文字から受ける印象は政治と宗教を切り離す、となりがちだが、ご存じの通り、国教を定めず、自由な宗教活動を認める、ということである。

憲法で宗教の自由が認められると、実際の社会でも、政治でも、宗教が大きな影響力を持つようになった。これには教会権力があまりに強かった歴史と、異端への迫害が大きかった過去に負うところが大きいと考えるのが一般的だろう。

近代にユダヤ人が迫害されていくのは、金融業をはじめとする新ビジネスの時代になり、それまで卑しい職業とされていたものが、どんどん社会の中心的な役割を果たすようになったから、という側面もあるだろう。

ヨーロッパのユダヤ人は住み慣れた土地を離れてパレスチナに移住しようとはしなかった。ポーランド、ウクライナ、ソ連でポグロム(ユダヤ人排斥運動)が起きていく。体制に同化して政府や国のために動くユダヤ人と、そうでないユダヤ人も対立した。

ナチズムが起きなければ、ユダヤ人側のシオニズムでイスラエル建国は実現しなかったかもしれない。「ヨーロッパ列強がユダヤ教徒の目的達成に力を貸すこと」としてシオニズムを唱えたチャーチル。彼は英国の軍需産業に火をつけた好戦派で、世界一の投資家だった。

アメリカの福音伝道師として有名な人物にビリー・グラハムという人がいる。Arteという独仏合作TV局で、彼のドキュメンタリーを見た。彼の宣教旅行は、ビートルズもびっくりの熱狂ぶりで受け入れられ“十字軍”と呼ばれた。
43代大統領J.W.ブッシュがテロとの戦いで 使用した“十字軍”という表現、もちろん引用を決めたのは内閣であり、その内閣には様々な宗派の人がいたことも事実だが“十字軍”という単語は福音派の用語だ。

アメリカに渡った福音派の中には、キリスト教原理主義者という過激派もいて、ハルマゲドン(核兵器による人類最終戦争)を待ち望んでいると言われたりもする。私はそうした狂信的なシオニズムというものが、世で起きる様々な”事”を大きくしている気がしてならない。

ユダヤ人と連携したアメリカの福音派は、スピリチュアル(日本語訳の霊的であるという意味)である以上にプラグマティズム(日本語訳の実用主義という意味)なのではないかと思う。
イスラエルの右派に福音派の資金が投入され、ユダヤ-キリスト教こそが唯一の救済宗教であるとして、トランプ大統領にエルサレムへの大使館移設を決めさせたと言う話もある。ヨーロッパで右傾する国も、福音派の影響を受けているのではないか…と感じてしまう。

ウクライナvsロシア、スーダンでの軍の対立と見紛う事態も、戦いが起きるのは、資源エネルギーが豊富な場所ばかり。話し合いで解決するなんて夢のまた夢と思えるこの事態、略奪が手っ取り早いと考えるリーダーたちが多いからだろうか。

そこにどんなきれいごとでモラルを語っても、教義とは関係のない別の欲望で、巨大ビジネスが動いているのだと思う。戦争が続けば続くほど潤う軍需産業や金融投資もある。日本が 同盟国として動かなければならない状況もわかるが、どうも何かを充てにされている気がしてならない。

厄介なのは、日本を含めて世界には、世代を超えた過去の“ルサンチマン”があることではないだろうか。
そこに間違った歴史解釈があったとしても、もはや長年のDNAに刷り込まれた気持ちを消すことはできないのかもしれない。

紫苑という花には今昔物語からの引用で鬼の醜草(しこくさ)の異名がある。鬼が何を表すのか…鬼にはどんなパワーがあったのか…深読みすればするほど、世界中、何処も同じ秋のゆうぐれ…かな

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