パリのマダムの・・・ volume64
『L’Origine ルーツ』
以前、『氏が半分、育ちが半分?』というエッセイ(volume5)を書いたが
今回は、別の切り口でルーツについて取り上げることにした。
私は高貴な出自ではないので、先祖の系図は持たされていない。
残念ながら、名前も祖父母までしか知らないが、母方の祖父母の名前が結構笑える。
苗字は伏せるが、名前をアルフベット表記にすると
祖父がRyukoで、祖母がToshio。
音として聞くと、男女逆のように聞こえるでしょ?
実際は “龍虎” と “としを” なの(大笑)。
祖父は、まあ確かに体格の良い人だったけど
とは言え、この名前
物凄く強い相撲取りみたい。
祖母なんてひらがな、しかも〆が ”を”って…
祖父は宮城県のとある田舎町で、郵便局長をしていたから、それなりの家柄だったんだろうけれど、名前に龍と虎と両方を並べてつけようなんて、親は息子をどんだけ強くしたかったのか(失笑)
父方は、福島に本籍があったので、戊辰戦争では徳川の味方だったのか?!
祖父の代は兄弟に3人も医者がいたので、こっちの家もそこそこ以上のお家柄だったのかもしれない。
祖父は軍医として戦没したが、お墓に刻まれた年齢を見ると、40歳で亡くなっている。
ゲッ! 私よりかなり若い…
祖母は昔の流行病、結核で亡くなり、私は二人に会うこともなかったのだが、子供の頃はよくこの祖母に似ている、と言われた。
会ってみたかったなあ。
父は、祖父の仇をとる、と、軍人を目指し、士官学校に入った。
戦争末期に、外地に出航する予定の船が舞鶴で爆撃を受け、命から柄逃げ伸びて、結局疎開先で終戦を迎え、戦後は長男として家業を受け継ぐべく?! かどうかはわからないが、医者になった。
実家の両親には、3人の女の子が生まれ、私が末っ子。
父は、最後の望みで男の子を期待したのが、また女か…でガックリ、私が生まれたその晩は飲みに行ってしまったらしい(笑)。
でもね、三姉妹で唯一人、私だけが子(そしてまた女の子)を産んだ。
実は、ひょんなキッカケで家族3人で遺伝子解析を申し込んだ。
フランスでは禁止されているので、国外の機関に依頼。宣伝にならぬよう会社の名前は伏せるが、
遺伝子解析なんて、怪しい、怖い、と思う向きもあると思うが、今の世の中、思わぬ所で
既に遺伝子情報が盗まれている可能性もある。
“飛んで火に入る夏の虫”
ではないが、自分は元より日本人のルーツも探れる?!
という好奇心と探究心がそれに駆り立てた。
検査キットは、綿棒が入ったプラスチック容器が2個。
綿棒を口の中に入れて、頬の奥、各々右と左の唾液を擦り付ける。
それを2回繰り返すのだが、2回摂取は担保と思う。
夫の従兄弟の時は送り先はアメリカだったのが、私たちはドイツの研究所になっていた。
待つこと約2ヶ月……結果は、実に面白い、興味深いものだった。
まず夫。
アンダルシア出身の父とバレンシア出身の母の次男としてパリ郊外で生まれ育った。
当たり前にイベリア半島の遺伝子が濃厚と出たが、スペイン南部からカタルーニア地方が色濃く、フランス南部も入っている。
さらに、アルジェリアのオランがピンポイントで入って、これら地域の遺伝子総合74.5%。
血統は正にスペイン人だった(苦笑)。
次に、なんと12.3%も北欧のスエーデン、ノルウェー、デンマークの遺伝子が混じってた!
なるほど肌が白いわけだ。
ん? では、先祖はバイキングだったのか?!
夫はよくイタリア人にも間違えられるが、地中海のサルディーニヤ島が10.5%。
従兄弟が
「俺たちの祖先バイキングが地中海の女を射止めた」
と笑う。
一方レバノンの友人が
「サルディーニヤが入っているなら、フェニキア人の血統もありだよ」
と。
うーむ、やっぱり…(って何が…という話だが)。
さらに、ユダヤ人の遺伝子が2.7%と出た。
でも中東・北アフリカ系セファラディではなく、東欧系アシュケナージ。
地域的には、北はバルト三国から、東はベラルーシ、ウクライナ、西はドイツにイタリア、南は、ボスニア、ブルガリア、までの東欧がカバーされている。
ヘブライ大学の某博士のDNA研究では、アシュケナージ系ユダヤ人のゲノムは40%がモンゴル人で、40%がトルコ人と結論づけている。
中東のセム族ではなく、むしろ、クルド、トルコ、アルメニア人に近い。
ジョン・ホプキンス大学のDNAプロジェクトでも、全欧州ユダヤ人はコーカサス祖先であり、ハザリア(ハザール?)に起源を確認している。
次に私。当たり前だけど、94.9%が日本人(笑)
ところで、このデータバンクでは、日本と朝鮮半島がエスニック上、一緒の地域グループになっている。
確かに、現在の国境からルーツを考える方が間違っているとも言える。
北畠親房『親皇正統記』にも、「むかし日本は三韓と同種なりと云事有し」とある。
両親の家系では東北に親族が多かったが、私の遺伝子解析では、意外にも、瀬戸内海に接した地域が色濃く指摘されていた。
山陰は、松江や鳥取を除き、出雲から神戸辺りまで。
山陽は、広島、岡山、四国の松山や徳島などの北部に集中。
山口県は入っていなかった。
ここから国外で、北欧はスエーデンから、東はロシアのサンクトペテルグブルグ辺りまで、フィンランド国境沿いを網羅し、エストニアも入っている。
中でもフィンランド系が1.8%と出たが、ウラル系モンゴロイド民族の血よね。
さらに、わずか1%ながら、ユーラシアの中央部から西部にかけての地域で、トルクメニスタンからアフガニスタンの一部、イラン、イラク、シリア、レバノン、トルコまですっぽり入り、キプロスも網羅し、北はアルメニアからグルジアの黒海、カスピ海地域、南はクウェート、バーレーン、カタールからアラブ首長国連邦までがカバーされていた。
この辺りは、随分前から行ってみたいと思っている地域だったので、何かワクワクした。
シュメールとか、ウバイドとか、日本人の一祖先?! 西アジアの霊が呼ぶのかもしれない。
夫は、私が日本人ぽくない、というが、こういうことなのかもね、と、妙に納得。
最後に娘。
さすがにEuro-asian、東西混じって、実に興味深い。
まず、父親の血統でイベリア半島が46%、母親の血統で日本・朝鮮半島が40.6%。と言うことは、やっぱり夫の遺伝子の方が多いから、父親似?!(苦笑)
イベリア半島南部、グラナダ、アルメリア、ロルカ、ムルシア辺り、が色濃く、北はアンドラからバスク地方、東は南仏モナコまで、西はボルドー、ラ・ロシェル、中央部はリモージュまで。
そして地中海は、夫と同じくサルデーニヤ島も入っているが、夫と違ったのは、娘にはコルシカ島も入っていたこと。
バルト3国からベラルーシまでの地域が4.9%。
ここら辺は、夫の遺伝子にもあったし、エストニア辺りは私の遺伝子もある。
東欧地域が1,8%で、ポーランドからチェコ、オーストリア、ハンガリー、ルーマニア、ボスニアヘルツ、ブルガリア、東はウクライナまで。
興味深いのが、中央アジアが2.9%で、南はアフガニスタン北部から、トルクメニスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、カスピ海地域を含め、北はカザフスタンまで。
私の西アジア地域と比較すると、トルクメニスタンあたりが私と重なる。
そして、夫にはないが、私と娘にはイヌイットの遺伝子が入ってた。
比重は私が2.3%だったのに娘は3%。
娘は、Netflixでデンマークのドラマを見ていて、グリーンランドのイヌイットが自分に似ている、と笑ったが、うん、確かにうなづける。
驚きは、娘には、夫にも私にもなかった、南アジアのインド、パキスタンが0.8%出てきたこと。
笑ったのが、娘は、夫の従兄弟と、何と6.9%も共通の遺伝子を保有していた。
もちろん、私は間違いを起こしていませんよぉ!!
ところで、こうした事を書き綴りながら、ふと気づいた。
これらの遺伝子分布からは、先祖のルーツも探れるが、子孫の軌跡、居場所がわかる、というもの。
要は、自分と同じか、近い遺伝子を分つ人が、昔どこにいたか、今どこにいるか、の、答えにもなる……?!
実は、フランスのTV番組で、母親が精子バンクを利用して産んだ子供たちが、父親探し
の遺伝子検査をしたら、あろうことか、兄弟姉妹が思いの外たくさんいることが発覚、というドキュメンタリーを見た。
番組では、出会って仲良くしている様子を報道していたが、心境は結構複雑なものではないのだろうか。
今の世の中、移動も恋愛も出産も自由だから、“ルーツの混じり合い”はますます増え、一見、人類皆兄弟時代になっている。
そこには差別される人種や民族問題も関わって、もう一つの格差社会がある。
グローバル化があまりに進むと、国粋主義が台頭するのも当たり前かも知れない。
村八分的思考だって未だ概念的に世界中に存在するのに、国別対抗意識がなくなるはずもない。
元より、血統って何だろうと改めて考えさせられる。