パリのマダムの・・・ volume43

『Palme d’Or パルムドール』


 
第74回カンヌ映画祭が、2021年7月6〜17日まで開催された。
本来は5月のイベントとして70年以上続いてきたが、Covid-19の影響で昨年は中止、今年、バカンス客で賑わうこの時期に延期された。

スパイク・リー監督が黒人初の審査委員長を務め、女優のジョディ・フォスターが名誉パルムドール賞を受賞し開幕宣言。完璧なフランス語を話すのにも驚いたが、レスビアンというのも知らなかった。前妻との間に二人の子供もいる。現在の妻、写真家のアレクサンドラ・ヘディソンとラブラブを披露。
先の欧州サッカー選手権もそうだったが、カンヌ映画祭もLGBTアピール?!

カンヌ発展の経緯や、映画祭の歴史や様相を語る、2016年制作の5分間のビデオ(仏語)

街を歩けば、様々な人々の往来が目を惹いた。厳戒態勢の中、銃を携帯した兵士たちも歩く。上半身裸の若者もいれば、サマードレスの下にT-バックが透けて見える女性、この機をビジネスチャンスと見たシンジケートか、老若男女の物乞い、お金持ちを狙った泥棒やらコールガールも高級ホテルに出入し、黒塗りのハイヤーもあちこちに出没していた。

世界中のジャーナリストが顔写真付きパスを首からぶら下げ闊歩していたのも目立った。コロナ禍がなければ、カンヌ映画祭はオリンピックに次ぐプレスの多さだというから驚く。プレスパスにもランクがあり、記者会見も取材もその”階級制”に基づいて施行されるらしい。まあ確かに、そうでもしなきゃ多すぎて示しがつかないのだろう。

近くに住んでいるので、毎日、上空のヘリの音が騒々しくなると、そろそろ赤い絨毯の時間だとわかる。浜辺に設けられた野外の映画館では、夜9時半から上映、入場フリーだが行かなかった(苦笑)。
ご参考:https://www.festival-cannes.com/fr/festival/

結果、最高賞のPalme d’Orは、フランスのJulia Ducournauジュリア・デュクルノーの作品”Titane”が受賞した。女性監督の受賞は史上2回目。
濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」は、日本作品として初めて脚本賞を受賞した他、国際映画批評家連盟賞、エキュメニカル審査員賞(キリスト教関連団体)、AFCAE賞(独立興行主組織)も受賞した。各賞の提供も以前より増えている。
ご参考:https://fansvoice.jp/2021/07/18/cannes74-comp-results/
https://www.asahi.com/articles/ASP7D1BZQP7CUCVL00J.html?iref=pc_rellink_01

最高賞がグランプリでなくPalme d’Orになったのは、かなり後のことだが、ベネチア映画祭(獅子)やベルリン映画祭(熊)のロゴ同様、市章に由来。歩道の敷石の所々にも”Palme”が刻印されている。

“ヤシの葉”には大きく分けて羽状型と掌状型があるが、Palmeという言葉自体に”掌”の意味があり、「”勝利”を手にする」ことをremporter “la palme “と表現する。

Palme d’Orは、日本語では”金のシュロ”と訳されるようだが、実際は”ナツメヤシ”。
シュロもナツメヤシもヤシ科には違いないが、属は異なる。シュロは棕櫚族で中国原産、高さは3〜5m程で、幹の繊維が固着し棕櫚毛で包まれている。ナツメヤシ属は20〜30mにもなり、葉形など姿形が大きく異なる。椰子は何と世界中に3000種以上あるという。

ここからは、もう少し詳しい”Palmeナツメヤシ”の話をする。
まず、ナツメヤシは、茎から砂糖をとり、酒を作り、果実は食用、その殻はラクダの飼料に、木材は建築材、葉でかご、ムシロ、網を編む。こうして、葉や茎や実も有用であったこの木は、生命と繁栄のシンボルになった。

特筆すべきは、ナツメヤシの果実デーツ、ミネラルが豊富で、鉄分、カルシウム、カリウム、リンなどを含有し、貧血、疲労、不眠の解消、滋養強壮、精神安定、糖尿病や老化の予防にも効果を発揮するという。食物繊維はバナナの7倍とかで、腸に溜まった宿便をスルリと出すミラクルフルーツ?!のダイエット食品とか。食指が動くでしょ?

さらに、ナツメヤシは、優美、勝利、祝福の象徴とされ、花輪はオリーヴ同様、戦勝者に祝いとして与えられた。これが後に、ローマにも受け継がれたが、キリストに象徴される生命の木、キリストの復活を象徴する永遠の勝利とみなされたのだった。

ナツメヤシは、死んだ葉の落ちた場所から新しい葉が現れる。そこで、ほとんど不死と信じられ、原始キリスト教、コプト、シリア、エジプト教会にとって復活と再生の場、十字架の原型とされたイコンだった。何より、聖書にも登場する。地の七産物として、ピスタチオ、アーモンド、すいか、ざくろ、干しぶどう、イチジク、ナツメヤシ、が出てくる。
ご参考:https://www.seinan-gu.ac.jp/shokubutsu/aboutus/

イエス・キリストは、1週間続く過越の祭の前に、弟子たちとともにエルサレムの町に入る。エルサレム入城”Palm Sunday”と言われ、受難を前にした出来事だった。祭に来ていた大勢の人は、椰子の葉を道に敷いて出迎えた。しかしイエスは、祭の最中に十字架に架けられ死後3日目に復活、それがイースター。

キリストの逸話が祭りになって、信者はそれぞれ祝福された枝を持ち行列をする。その枝は家を火災から守ってくれるとされ、家に持ち帰る習慣ができた。
ご参考:http://www.asahi.com/special/mukeiisan/TKY200911300282.html

ところで、宗派によって呼び方が異なり、カトリックでは「枝の主日」、プロテスタントでは「棕櫚の主日」、正教会では、「聖枝祭」と言われるそうだ。ナツメヤシがないところでは、シュロ、オリーブの枝、そして、ネコヤナギがつかわれる、というのが、面白い。

思い出したのは、トゥールーズのジャコバン修道院。2018年に訪れたが、円柱上部から放射線状に広がった建築法が、22本の支柱が、まるで椰子の木を見ているようになっている。13世紀に建てられたゴチック様式で、ドミニコ会が最初に立てた。

トゥールーズには、カトリック教会とは大きく異なる教義や儀式体系を備えたカタリ派が活動していた。カトリックは、信者獲得のために、カタリ派を改宗させるべく、ドミニコ会という説教者会を設立し、ソルボンヌ大学に次ぐフランス最古の大学の本拠地とした。
ご参考:http://www.dominiko.or.jp/shogai.html

ドミニコ会は、1206年ドミニクス・デ・グスマンにより建てられ、1216年にローマ教皇ホノリウス3世によって認可されたカトリックの修道会。熱心な信仰で巧妙な神学者を輩出し、異端の改宗と取締りの先頭に立って活動した。
アリストテレス哲学をキリスト教神学に統合しようとした「神学大全」の著者で、スコラ哲学の代表的な神学者トマス・アクィナスの遺骨の棺がここに託されている。
ご参考:https://www.dominic.ed.jp/office/calendar/pages/tomas.html

ついでに、ジャコバン(ジャコバイト)というのは、元々イングランドで起こった名誉革命の反革命勢力の通称だった。スチュアート朝のジェームス2世及びその直系(ジャコバイトの語源はジェームスのラテン語)がフランスに亡命。ジャコバン派クラブはパリのジャコバン修道院を本部とし、元々は様々な思想を持つ人々が集まる政治クラブだった。その「憲法友の会」が、革命期の急進派の結社となるのだが、絶対王政→立憲君主制→共和制の流れを理解することで、英・仏・米を軸とした西側主導の今が見えてくる。

話は尽きないが、最後に、我が家の”Palme d’Or”?! をご紹介。
実は、夫が、嵐の翌日、”拾ってきた”ものを金色に塗った”うちわ”ヤシ!
壁の高さからわかるように、全長2,5m以上ある。
根っこも完全に残っていて、オブジェとして面白いでしょ。

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