パリのマダムの・・・ volume38

『Gourmet & Gourmand』

Gourmetグルメというのは、中世では、ワインを味わいながら、その産地や、年代、特徴などを言い当てる、今で言う”ソムリエ”のことを言った言葉だった。

そこから、”食通”という意味合いが出てきて、料理の味や料理の知識に詳しい人物を指し、”美食家”などとも形容されるようになった。一方、美味しいものを貪欲に食べるのが好きな”大食漢”、所謂”食いしん坊”をGourmandグルマンとして区別するようになった。

いずれも美味しい料理を愛する人であり、食べるのが好きな”食道楽”でもある。

あえて違いは、量の概念かも。グルメは質の完璧さと絶対性を求めるが、グルマンは味も大切だが、それが平均的なものであっても、その絶対性は量にある(苦笑)。

そういう意味では、フランス人の多くは、時にグルメで、時にグルマンだと思う。
家での食事は案外質素なのに、レストランに行くと途端にグルメになり、しかも、招待される側だったりすると、すごいグルマンになる(苦笑)。

そして我が家、夫の職業に拘らず、グルメではなく、グルマンな食事をしている。そこで今回は、何を食べているかの一部レポートをお届け!

しばらく前から、お寿司が世界的に流行って、マグロの捕獲も大変になった。
四季を問わず食べられる日本では、近畿大の養殖マグロ以外は、遠洋の冷凍が多いだろうと思うが、カンヌでは、シーズンになると地中海産の天然生マグロが魚屋さんに並ぶ。

フランスでお刺身用の魚を買うのは至難の技だが、去年、生マグロを目にして、お刺身にしてみたら、”ほっぺた落ちる”の美味しさ。一部冷凍にして1週間後、娘が来た時に一緒に食べて一緒に顔がほころんだ。こういうのを幸せって、言うのよね。

今年もそろそろ? と魚屋さんと話して数日後……切り身になっているマグロを発見。
赤身の部分とトロの部分が選べる。トロが多い部分を選んだら「うん、なま肉のように(苦笑)美味しいよ〜」と。「皮の部分を外すと、あとで小さく切るのが大変になるから、このままにするね」で、お刺身のように小さく切ってはくれない……(泣)

仕方がないので、家で、切れない包丁と格闘することになる。日本では、切り身で買う場合でも、家庭で切りやすいように成形カットされているが、こっちのは、ごっついまま。こうなると、どう切れば美味しく頂けるかまで、考える余裕などない。

すっごく恥ずかしいが、悪戦苦闘の結果がこれ。まるで、漁師鍋にでも入れるような”ブツ”になっている。日本円で7000円くらいしたけど、これを夫と二人で、魚を得た猫のように、ガツガツ食す。
こっちで売っているお醤油に選択肢なし、生のわさびは、あろうはずもなく、かろうじてチューブのわさび練りを使う。
お刺身のツマもなし(恥) でも、おっ、おっ、おいしい!!!

 
白いご飯があれば尚良いが、日本米はないので、カマルグ産の発芽米で我慢する。
カマルグはお塩で知っている人も多いと思うが、稲作地域もあり、お米も取れるのだ。

次に、別の日、マルシェで、グロテスクな”イカ”を発見。
sècheと表記があるが、調理したこともない姿……
850gで16ユーロ、2000円くらい。

お姉さんに、内臓を取ってくれるか聞いたら、
「墨が出て大変なことになるから、無理、無理」(えーっ?!)と言われ、

一応「調理バサミか包丁で、墨袋を壊さないよう切れ」とアドバイスを受けたが、すでに、
墨は出てしまっていた。卵も入っていてびっくり! 格闘すること30分。終わってみれば、手の指は洗っても洗っても爪の隙間に墨が残り、二度と捌きたくない気分になった。

でも、でも、ニンニク、エシャロット、パセリを入れ、オリーブオイルで炒めたイカは、極上の美味しさ! 夫もチョーご満悦。

後日、検索したら、簡単に準備できるビデオを発見。

私の格闘はなんだったんだ……
勇気づけられ、仕方ない、また作るか、という気分になる。

イカは、フランス語で、Calamarカラマー(またはenornetアンコルネ)とSècheセッシュの違いがある。いつもはCalamarを食べていて、Sècheの下準備をするのは初めてだった。
調べてみたら、日本でもツツイカ類とコウイカ類に分かれていた。ウィキペディアは日本語より英語版の方が面白い。それにしても、なんと種類の多いことか……
ご参考:https://en.wikipedia.org/wiki/Squid

さて、食通のフランス人、昔は生の魚は食べなかった。魚屋さんがトロを”なま肉のように”と例えたが、そう、フランス人はタルタルステーキ(なまの挽肉を香辛料で味付けしたもの)は好きだし、ステーキも、通はBleuブルー(青色の意で静脈?!)かsaigantセニャン(血の滴る)、つまり超レアを好む。

一方、スペイン人は、しっかり焼いた肉を好む。そうして硬くなった肉を、フランス人は「まるで靴底のよう」と揶揄する。スペイン系フランス人の夫も、その血をひく娘も、絶対的にbien cuit=well done派で、私は辛うじてà point=medium。

そもそも夫は、お肉が難しい人。鶏肉はもっぱら白身の胸肉かささ身。羊肉は全く食べないので、私は、レストランに行った時だけ食べる。そして牛肉のチョイスがまた厄介だ。
牛が何を食べて育ったかによって、乳やバターやお肉の味が変わるが、夫はそれを敏感に感じ取るのである。熟成肉も好まないし、和牛も脂肪が苦手である。

日本だと、薄く切ったお肉を買って来る事が多いと思う。従ってフィレかロースかの違いはあっても部位まで気にすることは少ないと思うが、フランスでは、肉屋はもちろん、スーパーにも薄肉は無い。で、お肉は切ってもらわなければならないのだが、ハムをカットする機械では切ってくれるはずもなく、包丁なので、厚さは期待通りにはいかない。

我が家で買うビーフステーキは、脂身が少なく柔かい部分を選ぶ。パリの肉屋ではとっておきのMerlanを買うが、カンヌの行きつけでは、部位を聞いても”企業秘密”なんて言って、教えてくれなかったりする……んーもう

そして、豚肉は、家族全員結構好きな方だ。
スペインでは生ハムJamon serrano/ibericoやソーセージchorizoも美味しいし、豚肉の加工品に慣れているせい?
ポークソテーには、Echineエシンという、首の後ろの辺りの部位をよく買う。骨つきがそうでないかを選べるが、ロースト用に紐で巻いてある骨なしの塊を好みの厚さに切ってもらう。

最後に、ソムリエだったこともある夫、ワインには少々うるさいが、カンヌに来て、
プロヴァンスのロゼが美味しいと、なんと1000円以下のワインを買ってくる……

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