パリのマダムの・・・

『バターにまつわるアレコレ』

フランス産バターが日本では大人気だという。Echiréエシレが火付け役になったか、今ではバターのオートクチュールとも言われる、BordierボルディエやBeillevaireベイユヴェール、ならばプレタポルテ的な? IsignyイズニーやPamplieパンプリーも出回っている。

バターに関する輸入関税が30%以上というので驚いたが、国内の酪農乳業への保護政策から、独立行政法人が一括購入するシステムらしい。確かに、うーむ、と考えさせられるが、それはさておき、日本もフランスも北米農業のようにだけはなってもらいたくない。
ご参考:https://toyokeizai.net/articles/-/151686
    https://hunade.com/butter-riyu

それにしても、フランスでは、生バターって2週間以内に食べろって話で、国内でも流通が難しいのに、輸入販売できちゃうのはどういうカラクリなんだろう。しかも、醤油だって塩分控えめ路線の日本で、フランスの有塩バターが流行るのはなぜ?
なんて、要らぬことをいろいろ考えてしまう私だが、そういうツッコミはさて置いて、

フランス産ともなれば、スノッブなグルメ志向、”高級品だからこそ喜んで買う客心理”というのもある気がする。実際、ワインの格付けなんてものができたのも、それを見越しての話らしいから、まんざら遠からじの視点かも。

元より、バターだから、高いと言ってもタカが知れてるし、まあ、贅沢も味のうち?!
同じフランス産でも、エルメスのバックと違って(笑)、簡単に手が届くわけで……

かくゆう私も、日本に居た時、スーパーで1400円ぐらいで売ってたカルピスの特選バターを買ってみたりもしたから、味へのこだわりもあると言ってみたい。

フランスには、原産地統制管理されたラベルAOC(仏)/AOP(EU)がある。エシレやパンプリー村のあるCharentes-Poitou地方、ノルマンデイ地方のIsignyイズィニー、Bresse地方という、いずれも昔からの生産地域。我が家では、スーパーでIsignyの無塩バターを買うことが多い。

そもそもバターは、その昔、オイルが作れない貧しい地域でこそ考え出され脂肪成分だったのだ。フランスでは17世紀以降、食用としてポピュラーなものになった。そして、ナポレオン3世の時代に、大量生産できず高級品となったバターの代用品をとコンクールが催され、優勝したのが、薬剤師が発明したマーガリンだったというわけ。

現在、フランスでは一人当たりのバターの消費量が年間8kgと世界一。1日22g食べている
ことになる。日本は年間0,6kg/1日あたり約1,5g。フランス人は日本人の約14倍のバターを食べ、日本人の年間消費量を約1ヶ月弱で消費してしまう計算になる。
もっともこれを誤解してはいけない。バターは料理に使う以上に、クロワッサンやブリ
オッシュなどのパン、各種デザート、クッキーやビスケットなどのお菓子にも使われる。

ところで、1kgのバターを作るのに20リットルの全脂乳が必要で、フランスでは、脂肪分82%(有塩の場合は80%)のものがバターとされる。製法によって3種類 cru/extra-fin/finある。絞ったまま、熱処理を施さない牛乳Lait cruレ・クリュがあり、これで作ったバターが”Beurre cru”になる。extra-fin/ finの表示は、低温殺菌したクリームを使っている。

フランスで出回っている多くのバターは、フランスが誇る世界的な科学者Pasteurパスツールによって編み出された加熱殺菌法を使っている。その名も”Pasteurisation”。加熱殺菌するので、後の行程で新たに乳酸菌を混ぜるという方法も使う。

厳密には、extra-finは搾乳してから72時間以内、攪拌は48時間以内に行わねばならず、冷凍は出来ない。finのものは30%が冷凍されたものが使われている可能性がある。Baratteバラットと表示されているものは、クリームを攪拌する道具に由来する伝統製法。
ご参考:https://otium.blog.fc2.com/blog-entry-2536.html

バターは一般的に無塩/有塩の違いがあるが、フランスでは、douxドゥ/demi selドゥミセル/saléサレの3つのカテゴリーになっている。douxはソフト、saléは塩っぱい、という意味。demi selはその中間的なもので、半塩の意。実際には、無塩バターは100gにつき0〜0,5g未満、半塩バターには0,8〜3g、有塩はそれ以上の塩を含む。サラサラ粒子の細かい精製塩を使うか、ゲランドの天日干し結晶タイプの塩を入れるかで特徴が出る。

ブルターニュで塩バターが作られてきた背景には、まず、塩の生産地でもあったこと。
日本の東北人に似て、塩味に慣れ親しんだ地域で、チーズを食べる時もパンに塩バターをつけるし、塩キャラメルは日本でもお馴染み、私は塩キャラメルヨーグルトが好き。

製造の過程で塩を入れるのは、クリームの水分を飛ばしてコクを出す意味もあるが、何よりも、生鮮品の保存と防腐のために、塩漬けにされてきた伝統がある。

特筆すべきは、バターと塩の関係にはもう一つ別の理由もあったこと。
1343年ヴァロワ家のフィリップ6世は、税収のために王国全体に塩税を一般化したのだ。
しかし、ブルターニュは当時フランス王国ではなかったために税を免れ、安価な商品のまま有塩バターが残った、というわけ。

さて、言わずもがなだが、バターは牛乳から分離したクリームを凝固して作る。すなわち
味は乳次第であり、もっと言えば、牛の品種や、牛が何を食べどう放牧されているか、と
いう点も見逃せない。そこに着目して、高級バターのビジネスに乗り出した人物がいる。
三ツ星シェフ御用達で話題が話題を呼び、需要に供給が追いつかなくなっているらしい。
ご参考:https://www.180c.fr/la-gazette/reportages/beurre-etoile-de-david-akpamagbo/
    https://otium.blog.fc2.com/blog-entry-2542.html

馴染みのチーズ屋さんで尋ねると、Charentes-Poitouのバターを扱っていた。エシレもあったが、どこのスーパーでも手に入り、高級品のイメージはない。チーズ専門店で扱っているのが珍しいくらいの感じ。店のマダムは「お客さんの需要があるので……でも、オススメはこちら」と別の銘柄を紹介された。
せっかくなのでメーカーの包装がない、生バターを買ってみた。バゲットに塗って食すと、特にミルク味が濃厚で、私はOKだが、夫は好まなかった(苦笑)。

フランス人だからってバター好きとは限らない。スペイン系フランス人の夫は、バターで調理するのが大嫌い。パンにもオリーブオイルだ。夫と二人、サンマロに遊びに行った時も、ボルディエの本店にも行かなかった。正直、ボルディエを知らなかった(苦笑)。

郷土料理というのは、その調理法も含めて、生産地としての歴史や伝統があり、それが文化的な嗜好にも繋がってきたと思う。南仏はオリーブオイル派だ。夫が勤めるホテルの2つ星レストランのシェフはイタリア系でオリーブオイル派だそうだが、イタリア料理も基本はオリーブオイルだろう。
ついでに私の一押しオリーヴオイルはChateau Virantで、我が家の常備品。

我が家でバターをたくさん使うのは、ポテト・ピュレを作る時くらい。フランスの家庭料理”Saucisse & Purée”は、我が家の定番メニューでもある。お肉屋さんの手作りソーセージの付け合わせに、バターをたっぷり混ぜたマッシュポテトがよく合う。

ポテト・ピュレと言えば、フランス料理界の巨匠ジョエル・ロブションを想う。夫は11年間ロブション氏と仕事をした。伝説のピュレは、500gのジャガイモに何と125gものバターを入る。温めた生乳を250cc入れて裏ごししたピュレは、滑らかだがこってりタイプ。バターを食べている感じで量は食べられないが、私のピュレは、バターや牛乳はその半分くらいの”目分量”、裏ごしせずポテトの食感がまま残るガサツなモノで量が進む(笑)。

実は、例の生バターでピュレを作ったら、夫が「このバターは好きじゃないって言った
じゃないか、どうして入れたんだよ」とブーブー文句を言う。じゃあ、食べないのか、と
思ったら、いつものようにお代わりしている……これってどうなの?
(って思ったけど、残り物は食べなかったから、やっぱり嫌だったんだ……)

一方の私は、熱々ご飯にバターをのせ、醤油を垂らした”バターご飯”も大好き!
日本には卵かけご飯専用醤油もあるが、”バターめししょうゆ”というのもあるらしい。
さすが日本! ん? でも、じゃあ、そのためのバターは…… “ない”?!
やっぱり日本人にとってのこだわりは、”バター”以前に”醤油”なのね(笑)。

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