パリのマダムの・・・ volume31

『加齢と老化』

西欧に住んでいると、”歳”を意識する事がほとんどない。
“歳”を聞かれることはまずないし、年齢を記載する行為もなし、本当に”歳”を忘れる。

唯一、”歳”を意識するのは年1回の誕生日……2月7日に誕生日を迎え、我に返った(苦笑)

一般的に東洋人は実齢より若く見られるように思う。中でも、 日本人は大人になるのが遅いのかもしれない。日本女性は二十歳過ぎても”小娘”で、西欧では下手すりゃ”子供”と間違われる。蛇足ながら、ロリコン好きでない限り、西欧でモテるのはむしろ熟女だ?!

加齢と老化には大きな隔たりがあるように思う。加齢は「誕生からどれだけ時間が経ったか」、老化は「身体の機能が衰えること」。加齢は平等にやってくるが、老化は平等ではない。で、個人差が出るが、遺伝的要素や生活習慣の違いもあるだろう。

私は、お酒もタバコも常習しないので、そのお陰もあるかもしれないが、下手すりゃ10歳以上若く見られたりして、マドモワゼルと呼ばれた日にゃ、ルンルン気分で益々若返る?!
そうは言っても、最近は老化現象がかなり現実味を帯びてきて、”老い”について意識したり、考えたりすることが多くなった。

まずは白髪が増えた。眉毛にも、産毛にも白毛を見つけたりするが、時には逆に、黒々とした剛毛?が顔の側面に生えていたりして、ギョッとする。そうした微細のチェックには拡大鏡が必須アイテムで、我が家の洗面台には7倍と12倍が取り付けてある。

皮膚も変わってきた。皮膚には、皮脂腺や汗腺があってバリヤ機能、保湿機能があるの
が、老化とともに分泌が少なくなり、乾燥してくる。それが痒みの発生原因にもなる。

皮膚と言っても、構造上は3層から成り立ち、表皮、真皮、皮下組織に分けられるが、
体組成は、大雑把に言えば、大半が水分、そして、たんぱく質とヒアルロン酸などの糖類
でできている。それが、歳をとると、水分も糖質も減り、真皮にあるコラーゲンやエラスチンといった繊維が減って弾力が失われ、しわやたるみといった症状が現れる。

シンプルな布地では面白くないと、わざわざプリーツや刺繍のある枕カバーを選んだら、朝起きて、枕カバーの紋様が顔についていて苦笑い。あれ?もしかして、寝る時は裏返して、装飾のある方は昼間のインテリア用?! まさか、ね。

ではそれを補正すればいいではないか、と、プチ整形のような方法が編み出されたが、外
部から手を加えるに限界がある。何より一度そこに足を踏み入れれば、後は継続しかない。しかも、ボトックスやヒアルロン酸をいくら投入しても自然な仕上がりからはどんどん遠ざかる。いじった人は必ずわかる。とは言え、興味がないとは言わない女心もある。

さらに視力の低下。老眼はもちろん、光にも弱くなり、外出にはサングラスが必需品。飛蚊症もある。若い時は、大きな眼で「出目金」なんてあだ名をつけられて嫌だったのが、萎んで?!小さくなり、目尻も下がって、二重は下手すりゃ三重になってて笑えない。

そしてもちろん、身体の筋力の衰えも身近に感じる。脚が硬直して足を高く引き寄せられず、立ったまま靴下を履くのは辛く、ストッキングを履くにも、座わらないと無理という情けない状況……加齢と老化の二本立て現象は、神経痛も起こし、目も当てられない。

この1年来、プールに通って、水泳で身体の筋力を落とさないように努力し始めたが、先日平泳ぎをしている最中に足がつって、その後も筋肉痛が残った。薬局で相談すると、
マグネシウム不足と診断され、ビタミン・ミネラル薬剤を集中ケアで補給する始末。

ところで、言わずもがな、人間の身体は酸素なしでは生きられない。呼吸によって体内に取り込まれた酸素は、肺から血液に乗り、体の隅々まで送り込まれて、其々の場所でエネルギーになる。体温を上げたり、筋肉を動かしたり……

ところが、その副産物として生まれる「活性酸素」は、酸化力が非常に強く、これが身体
に大きな問題をもたらす。「活性酸素」は、体内に侵入してきたウィルスや細菌をやっつける武器にもなるが、増えすぎると、身体が酸化してサビてしまう。以前に『薬か毒か』の話をしたが、酸化と老化の関連で、「活性酸素」も”薬”にも”毒”にもなるのだ。

運動自体も、老化を防ぐものと増進するものがある。車を使わずなるべく歩くとか、エレ
ベーターやエスカレーターを使わず階段を上り下りするというような適度は運動は良いが、他人と競うスポーツ、激しい運動は逆効果、スポーツ選手は短命だったりもする。

さて、ここまで肉体的な老化の話を書いたが、私が「加齢」を意識する中で一番怖いと思うのは、頭の老化、すべての機能中枢たる「脳」のagingエージングだ。

1昨年母を亡くしたが、間も無く93歳になろうとしている時期だった。90歳頃から、幻覚と妄想という、総合失調症の陽性症状が徐々に現れ、心身ともに衰えていくのを目の当たりした。脳の働きが衰えると顔の表情にも出てくるというのも実感したが、要は、筋肉と同じように、脳も血流が悪くなり柔軟性を失って硬くなるのだと思う。

人生はクレッシェンドでデクレッシェンドだと思えたのも、母がまるで赤ちゃんのように眠っていることが多くなり、下の世話も一人ではできなくなっていった。それでも、トイレに連れて行くと、必ず「ありがとう」と言うので、愛おしくも、切なくもなったものだ。

一方、世の中には、老当益壮(老いて益々盛ん)、様々な分野で活躍している方々は大勢い
らっしゃるが、中には、”老害”という症状が出ているのに、自覚がなく、理不尽な振る舞
いをして迷惑をかけている人もいる。

仔細なことに必要以上に激昂したり、自分が正しいを押し付け、自分が一番、または格上
だと譲らない。短気で怒りっぽく、大クレーマーになったりもする。もちろん、これは年
齢に限った”老い”とは言えない部分もあるとは思うが、そうはなりたくないものだ。

カンヌでも、そういう老人に出会う事がままある。スーパーのレジで言いたい放題の老人、レジの若者は「今の若者はどうのこうの言われるけど、挨拶もしない自分本位の老人はどうなの」と愚痴を漏らしていた。(うん、わかるけどね……)

夫と歩いている時、老齢のカップルの妻の方が、傘を横にして振って歩くので、夫が「後ろが危ないから、立てて持って」と注意した。ところが聞き耳持たず、夫が再度注意したところ、逆ギレされた。

実は、認知機能が低下してくると、怒りっぽくなり……何より、笑えなくなるのである。逆にいえば、笑わない人ほど認知機能が低くなりやすい傾向があるようだ。

浪越徳治郎さんという伝説の”指圧師”がいた。「指圧の心は母心、押せば命の泉湧く」というキャッチフレーズで、日本の”指圧”を世界の”SHIATSU”に広げた。この方の笑いは、ウワーッハッハ、うわーっはっは!と豪快だったが、顔の作りが”笑顔”になっている。
ご参考:http://ihcsacafe.ihcsa.or.jp/news/shiatsu/

「腹を抱えて笑う」行為は、横隔膜の上下運動にもなり、血流の流れも良くなる。免疫のコントロール機能を司る間脳に興奮が伝わり、情報伝達物資の神経ペプチドが活発に生産されるという。大いに笑えば、がんやウィルスに対する抵抗力が高まり、免疫異常の改善にも繋がるらしい。

最後に、私の友人、バルセロナ出身でパリ在住のアーティスト・カメラマンが作った、
自作自演のショートビデオをご紹介したい。題して、“Make up your truth”
ご参考:http://www.sandrawis.com/fr/stories-2/

いかが? ちょっと考えさせられるでしょ?

顔に歴史あり。良い生き方をすれば、きっと良いシワもできるはず…
目指すは、アメリカ発のサクセスフル・エイジング?! 
何より、“歳をとるのを怖がらない”

一覧へ戻る