パリのマダムの・・・ volume29

『Epiphanieエピファニー』

1月6日は、新年最初のカトリックの祝日Epiphanie公現祭。Pâques復活祭、Pentecôte聖霊降臨祭とともに、キリスト教最古の三大祝日の一つとされている。

12月25日のクリスマス以上にエピファニーが重要だ、というのがわかるというもの。
フランス以上にカトリックな国スペインでは、こっちの方がメインな印象さえあるが、
子供達は、エピファニーにもプレゼントがもらえる習慣がある。

このルーツは小アジア(現在のトルコ)とされ、アルメニア教会では、この祭で主の降誕を祝っている。東方教会では「神現祭」というが、épiphaneエピファンは、人間の眼の前に出現した神様の事、元々はギリシャの神を祝う日だったらしい。

三博士がキリストの生誕を知ったのは、星の知らせ。
星の出現に霊感を受けて”東方”からエルサレムまで旅をした、という。
ベツレヘムの星と言って、”八芒星”で表現される。

古代では、天文現象と地上での出来事や人間の運命が関連していると信じられていた。そこから占星術が生まれるのだが、日食・月食、水星や新星の出現、月や惑星同士の接近や食(occultation天体を隠す現象)も同様、英雄や偉人の誕生と日常的に関連づけられていたため、キリストの生誕を星が知らせた、というのも偶然ではない。

バチカンのサン・ピエトロ広場もオベリスクを中心に、八芒星になっている。元より、ノアの箱船に乗った人間は8人とされ、8は救いを象徴する数でもある。数字の8を横にすると無限、神の存在を意味した。
8本の光線は、永遠、揺るぎない安定、パラダイス、聖母の星、天のエルサレム、人間性の究極の変容の印らしい。
ご参考:https://toyokeizai.net/articles/-/210644

ところで、三博士は、英仏ではBiblical Magi/Rois Magesというが、ゾロアスター教、或いは同系の信仰を持っていたと考えられ、ペルシャ系祭司階級の呼称でもある。占星術師/天文学者と推察され、Magiマギの行った奇跡や魔術が手品のようなものに見えて、人知を超える知恵や力を持つ存在を指す言葉となり、英語のmagicなどの語源となった。

三博士は、黄金、没薬、乳香を贈り物として持ってきたが、その由来から7世紀に、それぞれの名前が、Melchiorメルキオール{黄金(王権の象徴、青年の姿の賢者}、Balthasarバルタザール{乳香(神性の象徴)、壮年の姿の賢者}、Caspaerカスパール{没薬(将来の受難である死の象徴)、老人の姿の賢者}とつけられた。

宗教とお香は深い関係にあり、キリスト教でも仏教でもお香を焚く。お香には、焚いて使う焼香と、焚かずに身体に塗る塗香があり、いずれも神聖な領域を作り出すことから、神と交信する手段と考えられていた。
ちなみに、Parfum香水は、ラテン語のper-fumum「煙を通じて」が語源。

話を戻すが、クリスマスのお祝いは、このエピファニーまで続くことになっている。  ツリーは、この前後に処分しなければならず、飾り付けもこの日を境に片付けられる。
ツリーの先端に大きな星が飾られるのも、ベツレヘムの星を模しているのだが、皆が八芒星を意識しているかどうかは疑わしい。星の飾りも、五芒星の方が多いかも。

元より、ツリーは、キリストとはおよそ無関係だった。その原型は、古代ゲルマン民族の「ユール」と言う冬至の祭りで使われていた、常緑高木の樫木で、樹木信仰のあったドイツ民をキリスト教に改宗させる試みで、樅の木に変えたという。

樅の木は横から見ると三角形で、父なる神が頂点、子と精霊が底辺の両端に位置する「三位一体」を表していると教えた。1419年にフライブルグでパン職人の信心会が精霊救貧院にツリーを飾ったのが最初だとか。イギリスには1840年、ヴィクトリア女王が、ドイ
ツ出身の夫アルバートのためにクリスマスツリーを飾ったことから、一般にも広まった。

さて、エピファニーの時期にフランス各地に出回るのが、Galette des Roisガレット・デ・ロワ。甘いケーキはあまり好きではない私だが、このお菓子は大好き! 

地方色豊かで、王冠に似せて飾り付けをしたものなど、様々なケーキがあるのだが、
私が好きなのは、フランス北部地方で作られる、アーモンドを潰したマジパンを織り込んだパイ地のもの。
ご参考:http://www.bourgognissimo.com/Bourgogne/1ARTL/BR_040.htm

ガレット・デ・ロワには、表面の文様がいろいろあるのが、また面白い。

それぞれ意味は、

a – 小麦は、豊穣の象徴。豊かさを祈願する
b – 太陽は、生命力の象徴、健康を祈願する。
c – ひまわりは、陽の光を浴びる、ということで、栄光の象徴、名誉を祈願する。
d – ローリエ(月桂樹)で、古代ローマ帝国で勝者に授けられる冠、勝利を祈願する。

実は、ガレット・デ・ロワの起源は、古代ローマのサートゥルヌスの祭典サートゥルナーリアに遡る。豆を一つ入れたケーキが供され、これが当たった出席者を宴の王ととした。

この慣習から、伝統的には、家族が集まった中で、目隠しをさせて大人の誰かが切り分け、一番小さな子供に、誰に配るかを指名させる、というもの。Fèveフェーヴ(豆)が当たった人は王冠をかぶり、祝福を受けるが、幸運が1年間継続する、といわれる。

Fèveと言っても、今では「豆」ではなく、陶器製など趣向を凝らした小物。アンティークや希少価値の高いものなど、コレクションする人もいれば、それを売っている店もある。
ご参考:https://mi-journey.jp/foodie/17496/

ある年、東京のフォーションでガレットを買ったら、間違って飲み込んだり、歯を折ったりしたら危ないので、フェーヴは中に入れていない、ということだった。確かに、ガリッと歯に当たることもあるが、それじゃ当てる楽しみがない、とちょっとがっかりした。

大晦日から新年を迎えるに、日本なら「年越し蕎麦」だが、実は我が家、ちゃっかり、このガレット・デ・ロワとシャンペン・ロゼでお祝いした。夫が切り分けた配分を、テーブルの下に隠れた娘が指名……王冠をかぶったのは、夫だった。

年明け、夫と二人で、北部・南部2種類のガレット・デ・ロワを試食することに。

フェーヴは、北部のガレットは夫が、南部のブリオッシュは私が勝利。

そして、今月13日の夫の誕生日にもガレットでお祝いしたら、フェーヴは私がゲット。
しかも、OMG、今回はなんと”キリスト”! (実は、前回はマリア様だった)
これでは王座は譲れず、私が女王蜂、夫は働き蜂の日常が続く……(苦笑)

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