「アラカン」~お楽しみはこれから volume68

『夏の読書感想文』

夏休みが終わり新学期を迎えた9月の朝は、残暑厳しい中でも活気が戻ってきたような気がします。
たまたま登校日初日に近所の小学校の前を通ったのですが、夏休みの宿題と思しき大きな工作物を抱えた子供たちが口々に「おはよう!」と挨拶しているのを見て、一人微笑んでしまいました。(変なおばさんに見えなければ良かったけど…)

夏休みの宿題と言えば、私の頃の定番の一つは「読書感想文」。
個人的には、『最後の一週間の悪夢』でしかなかった夏休みの思い出の中でも、比較的に早くに片付けることができた唯一(⁉)の宿題だったのですが、どうやら最近の親子の間では不人気宿題のトップらしいです。
なぜなのかしら?
「無理やり読ませるから、本を読むことが嫌いになる」というのが主な理由のようですが、課題図書を出さないと、どんな本を読めばいいのかわからない、と文句が出そうだし、そもそも宿題にしないと本すら読まずに夏を終わらせてしまい、それこそ『本嫌い』ならぬ『本読めない』人種ができてしまうと思うのですが…

とまあ、世の中にケチをつけるのは置いておいて、私も夏に何冊か面白い本を読んだので、そのうちの一冊の「感想文」を書きたいと思います。
ただ、いわゆる小学生の感想文だとネタバレになってしまうので、なるべく内容を深く紹介せずに面白みだけをどうにか書き連ねてみますね。

題名: もしも徳川家康が総理大臣になったら(2021.3 サンマーク出版社)
作者: 眞邊明人

コロナ中に結構話題となった本なので、読んだことがある人も多いかも。
かなりふざけた題名が気になりますが、まさしくその通りのことが起きるので、初っ端から一気に引き込まれます。

前書きで紹介されている部分なら少々詳し目に触れても問題ないかな。
<物語に入る前に> ~要約
事の発端は、世界中を襲った2020年の新型コロナによるパンデミック。世界の主要国は、国民の外出を禁止したり経済活動に制限をかけたりするなど経済成長を止める動きに走らざるを得なくなる。
もちろん日本もご多分に漏れず同じ行動に走り、大きなダメージを被る。
ここからフィクションの始まり → ただそれだけにはとどまらず、感染症の初期対応を誤ったことから、総理官邸ではクラスターが発生してしまい、現職総理大臣が死亡するなど、国内政治情勢もかつてない混乱の極みに達した。
そこで日本政府は、秘密裏に画策していたAIとホログラム技術で過去の偉人たちを復活させる計画を発動させ、最強内閣を組閣することにした。
内閣総理大臣: 徳川家康
官房長官: 坂本龍馬
経済産業大臣、副大臣: 織田信長、大久保利通
財務大臣、副大臣: 豊臣秀吉、石田三成
厚生労働大臣、副大臣: 徳川綱吉、緒方洪庵
外務大臣: 足利義満     等々リストは続く…
選出されたメンバーは、その時代の荒波を潜り抜けてきた錚々たる歴史上の人物である。
「時代を超えたオールスターは、未曽有の危機にどう立ち向かうのか!?」
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と、ここまでが小説の入り口。
かなり奇想天外な前提条件ですが、日本史好きは、結構心を鷲掴みされたのではないでしょうか。
半信半疑、盛大なツッコミを入れつつも、私も本を置くことができずに一気に読み進めてしまいました。

そもそも、数多くいる偉人の中で、徳川家康をトップに据えたのがなかなかの策略ですよね。そして、坂本龍馬が官房長官って?
これについては、作者自身が<物語に入る前に>で触れています。 「(抜粋)家康は意図的に当時の“領土を拡大して成長する”ことをやめた、世界でもまれに見る異質なリーダーであった。結果、江戸時代は265年間も続き、太平の時代になった。」と。 私はこのような視点で徳川家康を見たことは無かったな。 もちろん、太平な世の中の基盤を作った人、との認識はありましたが、鎖国を「国の成長を意図的に止めた」とはあまり思っていませんでした。 小説の展開としては、この点は作者にとっては重要なポイントだったようです。また、家康が作った江戸幕府を終わらせた坂本龍馬に総理大臣の補佐役を務めさせることにも意図があったようです。 この他にも、歴史好きの心躍るポイントが、歴史のお歴々がどの要職についているか、ではないでしょうか。 上記に主要どころを書き出しましたが、その他にもなかなか興味深いメンツが選ばれています。「なるほど」とすぐ合点いく人もいれば、「なんでこの人?」となる人もいました。 この辺りは、本を取ってみてのお楽しみ、ということにしましょう。 最後に、私がこの小説を推そうと思った一番のポイント。 それは、単なる「歴史ファンタジー」で終わっていないところです。 徳川家康率いる最強内閣が、新型コロナやそれを取り巻く経済・世界情勢をバッタバッタ解決していく部分は、一種の戦国物を読んでいるような感覚になり、歴史上の人物の活躍に酔いしれます。 でも、この小説はそれだけには終わらず、「その後」が書かれていることが秀逸だな、と思いました。 この手の本は出版のタイミングも大事なので、かなり書き急いだのでは、と感じるところも多々ありましたが、「ビジネス小説」と銘打っているのは、作者のこだわりでしょう。 現代日本の政治やビジネスのシステムは本当にこれでよいのか。 過去から偉人たちを連れてきたくらいで、改善するものなのか。 日本の歴史は一本の線で結ばれているが、その時々ですさまじい決断力と実行力が発揮されて大きな転換点があったはず。 その荒波に今の日本はさらされているのではないか。 結構、ヘビーな課題を突き付けられてこの小説は終わります。 読後感はスカッとする部分と悩んでしまう部分に分かれますが、それだけに、すこし「賢く」なった気にもなります。 ビジネス書らしからぬビジネス小説を読んでみたい人、特に日本史好きにはおすすめです!

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