「アラカン」~お楽しみはこれから volume48

『Dear Evan Hansen』~心の救いとは

2022年もいよいよ幕開けとなりました。
皆様、今年もよろしくお願いいたします。

今年は、カレンダー上では少々短めなお正月でしたね。
でも個人的には、年末年始の夜の会合は昨年よりは増えたもののごく限られていたため、あまり時間に追われることなく過ごすことができました。

ということで、少し時間ができた年末に、新しい年に向けて気分を上げるためのミュージカル映画を鑑賞することにしました。
当初観たいと思っていたのは、ジェニファー・ハドソン主演の『Respect』。
でも近隣ではすでに終了していたので、代わり選んだのが『Dear Evan Hansen(ディア・エヴァン・ハンセン)』という映画です。
トニー賞を何部門も受賞しているブロードウェイの舞台版ミュージカルを映画化したもの、ということ以外には事前情報を仕入れていませんでした。
ミュージカルだから「陽性」だろう、という思い込みが先行していたのですが、私が思い描くミュージカルの題材からは少し外れていて、軽い驚きを経験することになりました。

まずはネタバレしない程度にあらすじを。
高校生のエヴァン・ハンセンは友達もおらず、家族にも心を閉ざしている気の弱い青年。心療セラピーとして、自分の心の内を自分宛ての手紙(Dear Evan Hansen)で吐露することを課されている。
新学期の日、その一通をほとんど話したこともない同級生のコナーに取られてしまうが、その数日後にコナーは自殺してしまい、彼の形見としてこの手紙が見つかる。コナーの両親はエヴァンがコナーの親友だと勘違いし、またエヴァンも親切心+勢いに負けて親友のふりをすることに。エヴァンが作り上げていく架空の親友話はコナーの家族だけでなく多くの人々の共感を呼び、『コナーのような自死を二度と起こしてはいけない』との善意の輪に広がっていく。ただ、この流れはエヴァンの作り話を助長することになり、本当のことを言えないエヴァンを苦しめていく。そしてある日、これが全部ウソであることがバレてしまい…

このあらすじからも想像できるように、普通のミュージカルではあまりお目にかからないタイプのお話です。
そもそも、主人公がかなりの「陰キャ」。ほぼ全編にわたって、フラットな重低音がか細く鳴っているようなストーリーが続き、負の心の内面に主なフォーカスが当たっています。
歓びや悲しみや怒りや恋心などの感情の爆発を高らかに歌うのがミュージカルの原点だと思っていた私は、完全に足元をすくわれてしまいました。
こんなにも内向きの話がミュージカルになるとは。
でも、意外に「悩」は音=歌になりやすいのですね。
その「悩」の辿り着く先が希望か絶望かも分からない、単なる混沌であっても、長調でもない短調でもない曲調の歌で人の気持ちを惹くことができる・・・そのことをこのミュージカルは教えてくれました。
やはり、だてにトニー賞をとったわけではないわ。(←偉そうな発言で失礼!)

個人的に少しびっくりしたのが、主人公・エヴァン役の役者さんがどう見てもおじさんであったこと。
ただこれは調べてみたら、ブロードウェイの舞台で初代の主人公を演じた人が映画でも同じ役を演じたからこうなったそうです。
確かに繊細な演技と歌唱力は抜群でした!
その他の脇役は案外有名人が多く、キャスト一覧を見なくてもジュリアン・ムーアとか、エイミー・アダムスなど、顔だけで認識できる人がいました。
また映画用に、『ラ・ラ・ランド』を手掛けたベンジ・パセック&ジャスティン・ポールによる曲も幾つか追加したようです。
このあたりは、映画という媒体を意識したのですね。
(でも映画にこだわるなら、主人公だって若手の俳優さんを見つけてきても良かったのに… 何しろ、舞台と違って映画はドアップになるからな~)

まあ、年末に少し気持ちよくなろうと思って観に行ったミュージカルとしては、思っていたような「歓びの歌」は聞けませんでしたが、それなりに心の『ほっこり』は体感できました。
人生、良い事そんなにないかもしれないけれど、悪いことばかりでもない。
どんなに成功しているように見える人だって、悩みや卑屈になってしまう一面は持っている。
真実が親切とはかぎらないけれど、親切からの嘘が善意として理解を得られることは難しい。
そんなこともひっくるめて、「自分らしく生きる」ってどういうことなのだろう。
本当にそれが世の中で上手く生きていくためのカギなのか。
そんなことを悩んだ青年の心情を歌にした良質なミュージカルでした。

今年は、不朽の名作『ウエストサイド・ストーリー』がスピルバーグ監督によってリバイバルされるようですね。
私は、全曲歌えてしまうほど好きなミュージカルなので、絶対観に行こうと思っています。
(映画館では声に出して歌わないように気を付けます!)

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