「アラカン」~お楽しみはこれから volume43

【音楽編⑦】『蜜蜂と遠雷』by 恩田陸

久しぶりの音楽編 … のはずでした。
でも先日「蜜蜂と遠雷」という小説を読み終え、ちょっと音楽を語る自信が萎えてしまっています。ごめんなさい!
と言うことで、今回は、この名作から感じた『音楽の力』を。

「蜜蜂と遠雷」は、2017年の直木賞と本屋大賞のダブル受賞をした恩田陸氏の作品で、2019年に映画化もされました。
世に出ているこの小説の紹介文を読むと「ピアノコンクールを舞台として、それぞれの交わりと過去と進行を描く青春群像小説」(ウィキペディアより引用)とされています。
確かにそうなのですが、さらに忘れてはいけないのが、これはストイックな「音楽小説」であること。(こんなジャンルあったけ?)
なので、私の紹介文は、「舞台は、無名な若手ピアニストを発掘することで有名な芳ヶ江国際ピアノコンクール。ここに参加している天才ピアニストたちや、このコンテスタントを取り巻く人々を、細やかな心理描写を通じて語る群像劇であり、音楽(特にクラシックピアノ音楽)の奥深さを堪能できる音楽小説である」となります。ちょっと気持ちがこもり過ぎでしょうか。

では、『音楽の力』を何から感じたのか。
まずは、圧倒的なピアノ楽曲の数々。
恩田氏はその全てについて、筆数を惜しまず一つ一つ細やかに紹介していきます。
私のように、残念ながら曲名だけではメロディーが浮かばない人間でも、それを丁寧に読み解いていくと、不思議と「音」を感じることができるのです!(実際には聴こえていないのに)
私は、すでに音響効果の良い映画館で映画版は鑑賞済みなのですが、その時の感動とはまた違った音楽体験ができたことには、それだけで驚きと歓びでした。

また、 “音楽の神様の祝福を受けている” 主人公の天才ピアニスト3名が三者三様描き分けられていて、「音楽の天才は多種多様なんだ…」と(多分当たり前のことに)改めて気付かされました。
「天才」と一括りで表しても、生い立ちによる差、環境による差、教育による差など、様々な要素の融合と化学反応で、音楽の感じ方や醸し出され方が変化します。
それは、音楽への向き合い方にも差をつくるようで、ある人は己を表現することに集中し、ある人は自然を感じながら奏で、ある人、はそれこそ音楽の神様と対話をすることで目覚める。「間違えずに完奏する」とは次元の違う、右脳と左脳の違いなのでしょう。痺れるわ~。
また、仕事関係でスポーツや科学やビジネスの世界の「極めた人」を目撃してきましたが、音楽も含めて、「天才は他の天才を認め、刺激を受け、高めあう」という法則も成り立ちそうですね。これは残念ながら個人の実感ではなく、あくまでも観察結果なので仮説の域を出ませんが。

そして3つ目。コンクールという競争の世界が、「音楽」が人間の感情の根幹に訴える芸術(? ←ごめんなさい。良い表現が思い浮かばない)であることをより際立たせてくれています。
それを実現しているのは、天才三人を取り巻く周囲の人たちです。
例えば、このピアニストたちを採点して順位を着けなければいけない、同じく天才とされている審査員たちの葛藤や悩み。また、常人では理解できないレベルでの圧倒的な力を見せつけられてしまう「天才ではない」音楽家たちの嫉妬やあきらめ。
でも最後は、このネガティブで複雑な感情も、天賦の才に恵まれたピアニストたちが奏でる音に屈服していき、純粋に魅せられていく。
いかに音楽と言うものが、人間の内面に直接訴えかけることができるか、と言うことを表していると思います。

そもそも恩田氏は、「ピアノコンクールの話を最初から最後まで書いてみたい」と言って3年に1回開催される浜松国際ピアノコンクールへの取材を始めたのが2006年。ここからが長い道のりであったことを、幻冬舎の担当編集者であった志儀保博氏が文庫本の巻末で語っています。
実際の連載が始まるのが2009年。さらに取材や出張を重ねやっと完結するのが2016年。ざっと7年間かけたため経費が嵩み、初版の利益見積もりがマイナスの1,057万円だったとか!どうやらこれは滅多にないことらしく、社長のOKが無ければ絶対に日の目を見なかったそうです。
作者ご自身が「これ、面白いのかな。こんな音楽と演奏が延々、続くだけの話」とおっしゃったそうですが、結果は直木賞であり、2回目の本屋大賞。よくぞこの「音楽小説」を世に出してくれた!と私は多くの関係者に感謝しています。

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やっぱり、読書感想文みたいな音楽編なってしまいました。
でもここは開き直らせていただきます。
クラシック音楽を、力強い文章を通じて想像・創造力で楽しみたい人は、ぜひ一回読んでみてください!

<追記>
本を貸してくれた姪っ子によると、小説に合わせたCDが売っているらしい。買おうかな…  迷える凡人より

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