「アラカン」~お楽しみはこれから volume54

『町おこしの成功事例になりますように』

先日、2年ぶりに飛行機を利用した出張に出かけました。
あまりにも久方振りすぎて、前日の夜は「遠足前夜の子供」みたいに寝つきが悪く、当日も飛行機からの風景に心奪われていました。修学旅行生か!(笑)

とまあ前置きはさておき;
今回の出張のテーマの一つが「町おこし」だったので、以前から気になっていた Azumi Setodaに泊まることができました。
Azumi Setodaを簡単に紹介すると、アマンリゾーツの創始者であるエイドリアン・ゼッカ氏が日本で初めて旅館ブランドとして作った日本風旅館。しまなみ海道のサイクリング以外にはあまり知られていない、人口8000人強の生口島に2021年3月オープンしました。
『世界最高級なホスピタリティ』と『リゾートのある土地の文化や伝統を重んじた共存』(ゼッカ氏のこだわり=理念)を企業価値として世界中にファンを作ってきた超高級リゾート&ホテルのアマンの創始者が、日本の『おもてなし』に惚れ込み、アマンの経営から完全に手を引いた後も、日本に旅館を建てることにこだわったと言われています。
それだけに、アマンで働いていた数名と立ち上げた会社が運営しているAzumi Setodaは、ゼッカ氏の理念が色濃く反映された第一号旅館として、内外のアマンファンの間で話題となっています。

Azumi Setodaが如何に工夫を凝らした施設であるかは他の文献に譲るとして、ここで私が紹介したいのは、「町おこし」の観点。
先ほど触れたように、瀬戸内海にある生口島は、ガイドブックの目玉となる観光資源や直島のアートのような造形物もありません。
ただ、島民の生活の営みが感じられる古い商店街の街並みの中に、島の歴史を背負った築140年の豪奢な日本家屋から転じた高級旅館=Azumi Setodaが存在します。
このようなハイエンド宿泊施設を突然ポーンと建てるだけで人を呼び込めるのか。地産地消や新たな雇用創出などはある程度期待できても、新しい人の流れまで生み出せるのか。
実は私、半信半疑でした。
ということで今回行ってみたわけですが、素直な感想は『まだ道半ば。期待を込めて結論は保留』というところかしら。
理由の一つは、コロナ禍という不測の事態があったこと。特に最大ターゲットであるインバウンドが完全に途絶えてしまったのは痛手でした。まだ時間はかかるでしょう。
もう一つは、島の魅力づくりがAzumi Setoda以外はまだ発展途上であること。
当初は、この一点において致命的ではないか、と考えていました。
だって、世知辛い言い方になるけど、高級宿でのんびりしてお食事を食べるだけでは、街の周辺施設にお金が落ちる可能性は極めて少ない。本当の意味での「地元の潤い」が無い気がしたからです。
ただ地元の喫茶店のマスターから聞いた話では、街の人々はそんなに悲観的ではない模様。例えば、コロナの最中でもこれまで見たことのなかった遠方からの若者たちが来島していたようです。この若者たちは、明らかにAzumi Setodaを「見に」来た人たちで、「我々、それだけでも結構刺激を受けているのよ」と笑っていました。とても前向きだったのが印象的です。
Azumi Setodaの運営会社もその辺りは考えているようで、しまなみ海道のサイクリング者たちが利用しやすいグレードの銭湯併設宿も建てました。こちらは朝食のみで、若者が外に出るように仕向けているようです。
街並み全体は、にわか作りのお土産屋さんやスイーツ屋が乱立しているわけではなく、これまで島にあったお店が昔のまま営業している感じ。
それが古びた雰囲気にしてしまう要因でもあるのですが、逆に言えば、島民がAzumi Setoda の存在にあまり浮足立っていないのかもしれません。
無理やり不自然な観光名所を作ったりして本来の島の良さを壊すのではなく、新しい旅館と自然体で付き合う変化を選ぶ。これも一つの姿かもしれない、と思うに至りました。
さらに「将来に期待してみよう」と思わせてくれたのは、Azumi Setodaの素敵な女将さんの存在。女将さんと言っても私よりかなり若く、ブータンや米国、東京などのアマンホテルを歴任し、ゼッカ氏の理念を体得していらっしゃいます。もう、サービス業の鏡のようなお方!
この方の下での宿泊エクスペリエンスが最高なのは当然ですが、この方の島の人々や歴史に対する深い敬意は聞いていて気持ちの良いものです。
いきなり売り上げ倍増を狙うのではなく、徐々に地元とのつながりを作り(例えば、地元の高校からのインターン生の受け入れ)、長い目でwin-winな関係を築いていく、という長期的な展望も、私は大いに共感できました。

ということで、私は応援団の気分で、Azumi Setodaの動向をフォローしていくことにしました。願わくは、新しい「町おこしの成功例」として育ってくれるように。
それだけに、ここの運営会社や投資家たちが、長期的視点に立ってビジネスと町おこしの両輪を成功させるよう、じっくり構えてくれることを切望する次第です。
やっぱり、町おこしは一朝一夕ではできないものですから。

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