「アラカン」~お楽しみはこれから volume65

『「脳」って面白い!』

今始まったことではありませんが、近ごろ何かと『頭の回転が遅くなった』とガッカリすることが増えました。
例えば、この間目にした若手俳優さんの名前がすぐに思い出せない。
友人に伝えたくても、「ほら、○○のドラマで××の相手役やったイケメンの彼よ」と、周辺情報しか説明できない始末。
ただこれは私だけでなく同年代の友人にも多々見られる現象で、私の説明を聞いて、「あっそうそう、あの△△のCMに出ていた人でしょう!」と、最後まで名無しで理解し合ってしまうこともあります。
夫婦間の会話を「あれ、それ、これ」で済ましてしまうのも同じことかも。
歳を重ね、緊張感から解放された(楽な方へ流される)生活を送っているうちに、脳の反射神経が鈍くなってしまったのかもしれません。
以前の職場に、日米の大学院で脳科学の博士号を取得した変わり種の同僚がいて、常々、「脳が汗をかくくらい使わないとダメ!」と語っていました。
その当時は『毎日、頭がパンパンになるくらい使っているわよ!』とアドバイスを無視していましたが、20+年経った今、彼の言わんとしていたことがおぼろげながら分かります。
今さらですが、反省!

ということで、反省ついでに、過去に少しばかりハマった脳科学の本を引っ張りだして最近は読み返しています。
(一度読破したはずなのに、新鮮な驚きとともに再び面白く読めていること自体問題かもしれないけど、まあそこは置いておいて…)
私が特に好んで読むのは、池谷裕二先生の「進化しすぎた脳」(朝日出版、2004年)という、少人数の中高生とインターアクティブに行われた脳科学の講義をまとめた一冊。
もう20年も前の本なので、「脳科学の研究紹介」という意味では古いかもしれませんが、脳の基本機能などを素人が理解するには図解も多く分かりやすい。
それだけではなく、『脳と心の関係とは』など、哲学的・心理学的な命題についても、「あまりに不思議すぎて、正直言っていまの脳科学ではここは全然解明できていないんだ(文中引用)」と断りながらも、臆することなく中高生と語りあっているところに凄く共感できました。
そうなんですよ。
私は典型的な文系人間なので、「人間は他の動物と何が違うのか」みたいなお題目に惹かれてしまうところがあります。
ただ、「人間は神によって特別な力を与えられた」という宗教的な回答では納得できないので、「脳の構造として、人間は他の動物より重くてシワが多いから優れている」という科学的な解も一部あると信じていました。
ところがこの本を読み、例えばイルカの方が人間よりはるかに大きくてシワの多い脳を持っていると知り、それだけでびっくり。
要は、科学的側面だけでは白黒つけられないことも多いようです。
本書では、いかに人間の脳は、あいまいで柔軟で複雑で抽象的でよくできている装置であるかを語っている。と同時に、だから人間は、あいまいで柔軟で複雑で抽象的で面白い存在なのだということも読み取ることができ、私的には、脳に対する神秘感は増してしまいましたが、それなりに納得した感じです。
今の時代に置きなおすと、差し詰め「人間とAI」との関係を考えるときのヒントになるかもしれませんね。

この流れで、将棋の藤井聡太氏が名人戦を制し二つの最年少記録を打ち立てた時のニュース(2023年6月1日)で目にした面白い話を一つ。
ある脳科学者の研究によると、将棋を指すときは前頭葉ではなく小脳を多用する。つまり将棋を指す行為は、考える(=前頭葉)ことではなく、運動機能を使った行為(=小脳)ということだそうです。
将棋をやらない人には少し分かりにくいですが、盤面を見ていると次の一手のイメージが湧いてきてそれに反応する、ということで、テニスのボールを打ち返すのと似ている行為だとか。
時間制限の中で戦っている棋士には、考える力も大事だけど、少しの力でより上手に(効率的に)将棋を指すことも重要だと言えるでしょう。
巷を賑わしている「AI vs 人間」将棋に通じる話だな、と私は理解しました。
これに対して、藤井名人の師匠でもある杉本八段が、6月2日のTVや新聞で、味のあるコメントをされていました。
「藤井名人のすごいところは、省エネでできるところを敢えて時間をかけて考えることができる、ということ。私から見ると、そんなに考えなくてもすぐ打てそうな手でも、熟考してから打っていることがある。」(TVの情報番組)
「藤井名人は『考える天才』である。あれだけ直観が鋭いのに、正解は分かっているだろうに、対局では更なる最善手を求めて時間を使う。」(朝日新聞)
「この時代だからこそ、人が考えることに意味があるのではないか。考え抜いて指された藤井名人の指し手は『AI越え』と称されることがある。私はそこに人の無限の可能性を感じる。」(朝日新聞)
コメンテーターの脳科学者・中野信子先生が「特急で行かれるところを、敢えて普通列車で行き、じっくり風景を見ながら何か新しいものや珍しいもの見逃さないようにしている、ということでしょうか。面白い!」と興奮していたのが印象的でした。
やっぱり、脳科学的にも、天才は天才の所以があるのだな~

脳は面白い! ← でも、今の私の錆びついた脳の解決にはまだ遠い…

一覧へ戻る