「アラカン」~お楽しみはこれから volume4

『ブラインドサッカー体験談』

「ブラインドサッカー」ってご存知ですか。
アイマスクを着用し、転がると音の鳴るボールを使うサッカー競技です。
2020年東京パラリンピックでは、サッカー競技(男子)として唯一行われる種目で、1チーム4名の視覚障がい者のフィールドプレーヤー(アイマスク着用)と目の見えている状態のゴールキーパーの計5名で構成されます。さらに、相手のゴール裏には目の見える指示役の「ガイド」がいて、声を出してボールの距離や角度を伝えます。まさしく健常者と障がい者が協力して行う競技、と言えるでしょう。

先日、私はブラインドサッカーを体験することができました。それも研修・親睦会として!
状況はこうです。
私の会社では、年に数回、取引先の方々と「仕事を超えた」お付き合いをするために親睦会を開催します。大概はレストランでの飲み会となりますが、今回は若手担当者たちが『いつもと違うことがやりたい!』という思いから、フットサル大会が企画されました。
都内のフットサル場數面と隣接したレストランを確保し、準備を着々と進めていましたが、途中で社内外から「フットサルは危ないのでは?」との否定的な意見が上がってしまったのです。確かに、ケガするリスクはあるし、サッカー未経験者(特に女性)にとっては少しハードルが高い。とは言え、ここまできて担当者としては中止にしたくない。
そこで、第二のアクティビティとして見つけてきたのが「ブラインドサッカー体験会」。会場を二分すればフットサル大会と両立するし、運動量・むずかしさ等ともに「非アクティブ・非サッカー人」にとってもぴったり、という優れもの。うちのニーズに合致したのです。
因みに、私はフットサルをやる気満々だったのですが、ドクターストップならぬ担当者ストップが入ってしまい、ブラインドサッカー組に回されました。でも、おかげで貴重な体験ができました!(多分、ケガ and/or 筋肉痛も避けることができた…)

私たちのやった体験会には、視覚障がい者の日本代表クラスの選手も指導者として来てくださいました。
まず参加者は、あまり接点のないお取引先の方と二人一組のペアに。一人はプレーヤーとしてアイマスクを着用。もう一人はガイドとして声で指示を出して、プレーヤーにボールを蹴らせるのが基本動作です。前に蹴ったり、ターゲットに当てたり、プレーヤー同士でボール交換をさせたり。
言葉で書くと簡単なのですが、プレーヤーはアイマスクをすると真っ暗な状態に陥り、方向感覚が全くなくなります。頼りになるのは、蹴っているボールの音とガイドの声。自分のパートナーの声を必死に聴き分けて、そのガイドの位置から自分が動く方向を判断して、ボールを蹴りながらそちらに向かう。
ところが始めてすぐは、いきなりガイドから「違う、違う!」と叫ばれてしまうことが多い。
そうなると、プレーヤーは立ちすくむしかありません。だって、何が違うのかわからない。向き?距離?蹴っている強さ?
この辺りで、最初の重要な指導が入ります。
「真っ暗な中にいるプレーヤーには、どのようにコミュニケーションすれば伝わるのでしょうか?」
ここから、ガイドは必死に考えるし、プレーヤーも自分が何を理解できないかを徐々に伝え始める。
ガイド:「まっすぐ向いていないので、まず止まってください。そして、少し右を向いてください」
プレーヤー:「少し右、ってどのくらい右?」
ガイド:「うーん、30度くらい右。そうそう、いい方向です。そっちの方向に蹴ってください」
プレーヤー:「あの、ボールがどこにいってしまったのか…」(ボールは動いていないと音がしない)
ガイド:「あっ、左の方にあります。…ではなくて、そのまましゃがんでください。左手を90度前方にうーんと伸ばせば、届くはず。はい、そのままボールを足の間にセッティングして。そうそう、その方向に軽く蹴って進んでください!」

ここまで頑張っても、プレーヤーも慎重になってしまうので、ボールは30センチぐらいしか動いていません。2メートル先のターゲットに当てるのがいかに難しいか!
ただ、プレーヤー/ガイド役を交代しながら続けていると、「真っ暗な状態」というものへの理解が深まり、指示も上達してきます。
そうなると、次の指導が。
「自分のパートナーを信用しましょう!」
これって、知らない者同士が組んでいるので色々な意味がありますよね。ガイドからすると、プレーヤーの脚力やボールキープ力を信用して、怖がらずに蹴ってもらうためには、どのように指示を出せばよいのか。
プレーヤーからしたら、目の見えないことに囚われずに、ガイドの指示とボールの転がる音を信じて積極的に前(と思う方向)に進んでいかれるか。
この「信用」という壁を越えられると、一気にボールを蹴ることも、指示を出すことも楽しくなってくるから不思議なものです。
実際に我々は、ペアを固定したまま1時間ほど色々な「蹴る」活動をしました。サッカーゲームまではとても辿り着けませんでしたが、最後は2グループに分かれて、どちらが早くターゲットまで往復できるかを競い合ったりして大いに盛り上がりました。
おまけに、例えば颯爽としている部長さんが、アイマスクをして動き出した途端にへっぴり腰になったり、這いつくばってボールを探したりなど、結構笑える「絵」もいっぱい。
自分たちが苦労した後に、日本代表選手の華麗なるボールさばきと息の合ったガイドとの連携を見せてもらいましたが、「やっぱりすごい!」と純粋に感心してしまいました。
フットサル組も盛り上がったようですが、我々ブラインドサッカー組も大いに一体感が醸成され、懇親会のイベントとしては、大成功だったと言えるでしょう。

実は私、障がい者スポーツを体験するのはこれが初めてではありませんでした。ただ、今回の活動が印象に残ったのは、これが単なるスポーツ体験会ではなく、チームビルディングやコミュニケーションの研修としてオファーされた、という点です。
きちんと調べたわけではないのですが、ブラインドサッカー協会は、①どうやってブラインドサッカーをもっと知ってもらうか、②スポンサーを集めるか、③選手が活躍できる「収入」の場を作るか、などのいくつか視点から、この研修・体験会を思い付き組み立てていったと聞いています。
「目に障がいがある」ということを、マイナス要因ではなく「コミュニケーション力向上のための武器」という強みに切り替え、スポーツを通じた楽しい場に仕立てるなんて、なんてクリエイティブな発想なのでしょうか!
東京2020に向けて、全国で障がい者スポーツを体験したり見たりする機会が増えていくことでしょう。それに加え、このような努力している団体を見つけて、我々も積極的に参加・協力・利用(良い意味で)していかれれば、本当の意味でのパラリンピック開催の精神に近づいて行かれるのではないでしょうか。
2年後が楽しみです!

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