「アラカン」~お楽しみはこれから volume32

『おすすめ映画』

コロナ自粛が緩やかになったとき、私は映画鑑賞を真っ先に「解禁」しました。
だって舞台やスポーツ観戦は大勢で行くほうが楽しいけど友人を誘うことは憚れたし、歓声や応援を我慢するのは辛い。その点、映画は一人で黙って見ることができて、人に気兼ねしなくて済む。
おかげで、映画館の前を通った時に題名をみて気になるものにフラっと入る「ついで見」をやることが増えました。
ハズレ映画も幾つかあったけど、事前知識が無かった分、すごく印象に残った映画もあります。
その一つが、『ようこそ映画音響の世界へ(原題:Making Waves: The Art of Cinematic Sound)』
普段の私ならスルーしてしまう「ドキュメンタリーぽい」題名でしたが、このエッセイで音楽関係の記事を書くようになってから、「音」というキーワードに敏感になったのかしら。
偶然入ってみてよかった、と思える興味深い映画でした。。

ネタバレしないように紹介を試みますね。
『ようこそ映画音響の世界へ』は、映画の中で登場する「音」に焦点を当てた歴史解説作品です。
映画に本格的な「セリフ」が登場するのは1927年のトーキー映画から。
当初は、セリフと口の動きを連動させるシンプルな技術と定番なBGM/効果音の組み合わせがメインでした。
そこから数十年。監督や技術者のこだわり(ソフト面)とミキシング機材などのハード面での技術革新が合わさり、声(ライブ録音・編集・アフレコ)、効果音(SFX・フォリー・環境音)、音楽の相互作用が高められていきました。
この総称である映画音響(Cinematic Sound)の進化が映画そのものの進化につながったことを映画の中で丁寧に紐解いていきます。

…こう解説すると、お堅いドキュメンタリーに聞こえますが、中身は超エンターテイメント!
何しろ、過去の有名映画の名場面を惜しげもなく使っていて、それを見ているだけでも楽しいこと間違いなし。
私のように古くから映画に足を運んできた者にとっては、知っている映画のシーンが登場するたびにワクワクが止まりません。
また、音がどれだけ映画の質を高めているかを示すために、実際の映画の「音編集ビフォー・アフター」も見せてくれます。
効果音を足していき改善していくことで映画の伝わり方が劇的に変わっていく様は、実際に見て(聴いて)みれば、音響効果についてのど素人でも納得。
(例えば、「トップガン」の戦闘機の爆音は、実際の戦闘音では物足りず、虎と熊と猿の声の組み合わせ迫力を増した!?)
同様に、劇場内の効果音(ドルビーサウンドなど)による臨場感の差も体感できます。
やっぱり大型スクリーンの映画館で堪能する映画なのです。

おまけに、大物監督や俳優、技術者たちのインタビューもテンポよく挿入されていて、新しい発見も多々ありました。
ソフィア・コッポラ監督が「渋谷の街の音」について語っているのはなかなか示唆に富んでいました(『ロスト・イン・トランスレーション』)

最後に。
掘り出し物のように紹介ましたが、実はすでに巷の評判が高い映画のようです。(TBS『王様のブランチ』でも紹介されていた!)。
映画好きの方で見る機会があればぜひ!

一覧へ戻る