「アラカン」~お楽しみはこれから volume2

『ノーベル賞の発表に浮かれて』

先日、本庶佑・京都大学特別教授のノーベル医学生理学賞受賞のニュースが飛び込んできました。科学の進歩や発展の恩恵を受けている一市民として、心からお祝い申し上げます。おめでとうございます!本来、追試常習犯であった私が科学について語る資格は無いのでしょう。でも所以あって科学の仕事に携わっていた時期があったため、科学ネタが脚光を浴びると嬉しくなってしまいます。
なので、一筆お許しください。

まず、本庶先生の功績は何だったのでしょうか。
「体内の異物を攻撃する免疫細胞の表面に、「PD―1」という免疫の働きを抑える分子を発見。この分子ががん細胞に対して働くのを妨げて、免疫ががんを攻撃し続けられるようにする画期的な薬が開発され、複数の種類のがんで使われている。」(朝日新聞電子版より抜粋)

科学用語は調べてもらうとして、要は、下線をつけた部分が重要な成果です。一般人にもわかりやすい、人の役に立つ仕事をしてくれたことが理解できますよね。今回は、メディアの方の事前予習も万端で、読みやすい記事が多かったような気がします。
また私の経験では、医学・生理学の分野は病気治療という日常生活に直結している研究が多いので、成果物=我々にとって有益、が具体的にイメージしやすい傾向にあります。それに対して同じ基礎研究領域でも、物理学や化学は凡人には難解なことが多い!
例えば、2008年の物理学賞は素粒子物理学と核物理学の研究で日本出身の科学者3名が受賞。仕事でしたから、私は必死にその受賞理由を勉強しました。が、全く歯が立たない、とはこういうこと。

周囲に専門家がいる恵まれた環境だったにも関わらず、「自発的対称性の破れ」だの「三世代以上のクォーク」だの、何度説明を受けても??が消えることがありませんでした。本当に残念ですが、この世紀の大発見は、私の直観をはるかに超えてしまっていたのです。ところが科学の基礎研究については、一般人が理解できないからと言って重要ではない、と言えません。多分その逆なのでしょう。

今は何かと応用科学(=AI、ロケット工学など達成目標がイメージしやすい)が重用される風潮で、基礎科学研究に対してのサポートは年々縮小されているのが事実。ノーベル賞受賞者が出ると「日本はアジアのトップ」とか「自然科学分野ではアメリカに次いで2位」などの発言も散見されますが、これは過去の遺産に乗っかっているだけ。ノーベル賞を単なるお祭り騒ぎにしない強い信念を国民含めて日本人全員に求められていると思います。

とか偉そうに言いながら、私は、メディアを賑わしている日本人ノーベル賞受賞者の人物像を読むのが好きです。本庶先生も、ご多分に漏れずお人柄が偲ばれる名言がいっぱいありました。
・「余計なことを考えずに Stick to the Question」― 悩んで先に進めなくなったら、問題の本質に立ち返れ、という意味だそうです。仕事の基本ですよね。
・「研究成果が出ないのをお金が足りないせいにするな!」― 人が足りないからプロジェクトが上手くいかない、と言い訳したくなる自分が叱られたような…
受賞後という晴れ晴れしい場面ですから、否定的なことは書かれません。でも、何かを成し遂げた方は、やはりブレない芯を持っていらっしゃる。例えば「厳しさ」。これは他人に対して、というよりも自分に対して。また物事の本質・心理に対するあくなき好奇心や信念。「絶対上手くいくはずだ」という粘り腰や執念も加えていいかもしれません。また、趣味や勝負事がお好きな方も案外と多いようです。負けず嫌いなのかな。
あと意外に知られていませんが、一流の研究者は得てして名交渉人(good negotiator)です。研究費を集めてくるのは研究室を預かっているリーダーの責任です。今回は、オプジーボという薬を作るための本庶先生と小野製薬の逸話が話題になっていますが、それだって執念+ネゴシエーションの賜物です。
後進の育成についても、心を砕いている方が多いです。「育成」は子育てなど様々な分野に共通する重要テーマなので、また後日取り上げさせてください。
このように羅列すると、「一流の研究者=優秀なリーダー」であることがわかります。象牙の塔にこもっているステレオタイプで研究者を捉えると、それこそグローバルの流れから遅れてしまうことになることを物語っていると思います。

最後に、今回の報道をフォローしていて気になったことを一つ。
ある番組で、「最近の優秀な医学部出身者は、お医者さんにならずに金融工学とかコンサルタントなどの金稼ぎの道を進む人が多い。如何なものか。もっと人の役に立つ仕事に就くべきではないか。」というコメントに遭遇しました。
こんなこと、言っていいのかしら?
・これって、医学部行くのは他の職業に就かないことが前提?
・研究者や医者は志高く貧乏でもやるべき、ということ?
・金融工学やコンサルタントは邪道?   などなど
コメントしたご本人に悪気はなかったでしょうが、私は心の中で突っ込みを入れまくっていました。折角のお祝いニュースに水を差されたような気がしているのは、私だけ?

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