三度の飯より寿司がすき volume3

『まだ、大丈夫』

生まれて初めてのアルバイトはファストフード店だったのですが、まわりは大学生やフリーターが多く、「いくつなの?」と聞かれて「16です」と答えると、決まって「若いな~~!」という言葉がかえってきました。その言い方は若さを羨むような、しかし肯定的なものばかりでした。
「ただ若い」、それだけで周囲の人たちは褒めてくれる(?)ものらしい、ということを学んだ高校時代。

その後、テレビに映る高校球児たちが自分よりも年下になった時はなんだかショックでした。いつまでも子供ではいられないのだな、と寂しい気持ちになったのを覚えています。

大学に進学すると、そこには浪人している人や一度社会人を経験している人、留学生など様々な年齢の人がいました。私は現役進学だったので、入学時は最年少。「18歳」というだけで、これって一生分でしょうか?というくらい先輩たちが、ちやほやしてくれました。
しかしそれも束の間、2年生になると当然のことながら後輩が入ってきます。
いつまでも新入生ではいられないのだな、と寂しい気持ちに・・・(以下同)。

この頃から、現実よりも他の場所に自己暗示の安心材料を見つけるようになりました。頻繁に映画を観たり、音楽を聴くようになったのもその一因です。
安心材料、というよりは、自分より少し年齢が上の同性を指標にするようになった、というのが正しいかもしれません。

フランス映画好き&音楽家のミシェル・ルグラン好きだった私は、「ロシュフォールの恋人たち」に出てくるカトリーヌ・ドヌーヴとその姉、フランソワーズ・ドルレアックも大好きでした。映画公開時(1966年)はたしか23歳と24歳。スクリーンに映る彼女たちは、ものすごく大人びて見えました。
23歳まであと3年。あと2年。あと1年。という感じに、心の中で憧れの人の年齢に近づくまでをカウントダウンしていく癖が、いつからか、ついていました。
その間は「まだ大丈夫」と思えたのです。

何が大丈夫、なのか?

生きている時代も全く違いますし、フランソワーズ・ドルレアックは25歳で亡くなっているので、もうこの世にもいない。私はフランス人ではないし、もちろん女優でもない。
全くの別次元に生きている人の人生に、自分の人生を重ねる。自分を他人の人生の線上に勝手に置いていって、ああ、私はまだこの年齢に達していないぞ、ということを心の中で繰り返す。日本で活躍している、自分と同年代の現実世界の有名人を無邪気に支持することが、若いうちはなぜだかできなくて、おそらく私は、あるようなないような(かつてあったけれどもいまはない)空間に現実逃避していたのだと思います。でも、不思議とそれは私に生きていく力をくれた。

1999年に地球は滅びると(わりと本気で)思っていたのに続いてしまった。小さい頃から、1999年まであと何年、というのを数えていたのに、0を超えてしまった。あのときの「世紀末感」は、恐怖感も少し混じっていたけれど、私にとっては心地良いものだったのです。

ここまで書いていて気づいたのですが、、、あと何年、というカウントダウンしていく私の癖は幼少期からだったのですな。

10代の頃は、中年になった自分なんて全く想像できなくて、頭の片隅にも浮かばなかった。みんな平等に、確実に老いていくのに、自分は若いうちに人生を終えるかも、その「終える」、ということがどういうことかも深く考えずに、能天気にそんなことを思っていました。
それなのに、まさかの2000年を迎えてしまい、20代になってしまい、この先どうしたらよいのかわからなかった私にとって、この「指標探し」は生きていく術だったのかもしれません。

話を戻して、次は、ジャニス・ジョプリン。「27歳」というのは私の中でイコール夭折。若くして世界的な大スターになり、オーバードーズして27歳で亡くなる、という60年代のストーリーが、20代の私にはとても魅力的にみえました。
(この感覚が若いですよね・・・今は断然、「生きてる方がかっこいい」派です。)
その後も「死刑台のエレベーター」のジャンヌ・モロー29歳とかいろいろありますが、
挙げていくときりがないので、かなり飛ばして最近の映画でいくと、「人のセックスを笑うな」に出演していた永作博美さん、38歳。これはもう、年齢とかを超越した奇跡の可愛さでした。そしてやはり私はこの映画でも、魅力的な永作さんを見て心が安定していくのを感じるのです。

でも、いつか私はそこを追い越していく。

私が今いる30代って、「若者」でもないし、かといって「中年」ってわけでもない。
なんだか中途半端な立ち位置だなあと、いつも思います。
でも、この宙ぶらりんな状態をもう少し楽しんでから、いつの日か、近い未来に、過去の作品に逃げ込まず、自分の年齢をものとも思わず、「指標なんて、もういらない!」って堂々と、「今」を生きていけるようになりたいです。

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