随に(まにま-に)volume9

『アムステルダムのヴィンテージショップ』

今年は年越しをオランダ アムステルダムで過ごしました。

年越しの花火、凄まじかったです。何が凄かったかというと、今まで自分の中で花火鑑賞といえば、一方向のみから上がる花火をみるのが普通だったのですが、360度の角度で花火を見たのは初めての体験でした。

市民が自身でそれぞれ購入し、好きな場所、タイミング、順番であげるため、町中いたるところで、花火が打ち上げられていました。そして、年越しの花火と書きましたが、29日の夕方には待ちきれなかった住民がいたのか、花火が既に上がっているのを目にしました。
大晦日の夜は、友人が招かれた自宅でのパーティーに同行させていただいたのですが、31日の夕方、その友人宅に向かう道中も、自分が通った道、これから通る道の前後20メートルの距離で、花火が打ち上げられていて、感動の前に身の危険すら感じた次第です。パーティーに同席したオランダ人によると、みんなその年にためた貯金を全てつぎ込んで、ありったけの花火を購入しているそうです。日本で夏によくやるような手持ち花火や、高くても3、4mしか打ち上がらない花火ではなく、花火大会で上がるものの規模なので、一発かなりの値段がするはずですし、それをなんの資格もなしに一市民が打ち上げられるということにも、驚きでした。

あぁ、やっぱりこの街はクレージーだなぁと、しみじみ思いました。
クレージーって私にとっては、褒め言葉です。
アムステルダムも大好きな海外の街の1つです。

そこで今回、その大好きな街の大好きなヴィンテージショップの店主について書いてみたいと思います。この店主がまた本当にクレージーで面白いんです。クセになるというのでしょうか。私にとってはアムステルダムに行くと会わずにはいられない人です。
お客である私に対して「お前がその服を買うか買わないかは俺が決める。」と、めちゃくちゃな発言をする人です。

アムステルダムに住む友人も、こちらに越してきて偶然にもすぐ、この店を訪れたらしく(お世辞にも決して、有名なお店ではないにも関わらずです!)、このクレージーで愉快な店主の話で盛り上がり、年が明けて1月2日に早速行ってみることにしました。
お店に行きながら話題にあがったのは、「店主が善意ですすめてくる飲み物」についてでした。
まず私の場合1度目は、チャイティーとおぼしきものを店主が飲みながら、「お前もこれ飲むか」と聞いてきたのですが、得体の知れなさに断りました。そして続く2度目は、まだ日も明るい頃だったと思うのですが、「お前も一緒に酒飲むか」と世間話をしにきたと思われる近所のおじさんとソファに座りながら、これまた得体の知れない透明の液体をすすめられました。店主とはだいぶこの時点で打ち解けてはいましたが、得体の知れない液体 (聞いたらヴォッカだと言っていましたが瓶になにも書かれていないのでどうだか、、)と見知らぬおじさんに戸惑いを覚え、これまた辞退。
友人もほぼ同じような状況に遭遇し、同じく今の所毎回、飲み物は遠慮しているとのことでした。「この人(店主)は、お酒あるいは変な薬を盛って商品を買わせようとしているのではないか。」と思ったそうです。
そんな、不信感を覚えながらも私も友人も、またそのお店の行ってしまい、しかもほぼ毎回何かしら購入しているので、やはりこの店主の魅力は侮れないのです。

そんな話で友人と盛り上がったいたこともあり、「Happy new year!!」と我ながらかなりのハイテンションでお店に入ったのですが、それに驚いた様子もなく、同じくらいのノリノリなテンションで出迎えてくれました。挨拶のハグを終えると、こちらに商品を見せる隙も与えずに、「新年だしシャンパン飲む?」と言い出した店主。行きの道中でまさにこの〝店主 飲み物勧めがち〟と友人と話していただけに、私も友人も爆笑でした。
3度目の正直でしょうか。一人じゃない、ラベル付き、未開封ということもあり、初めてこの店主のお誘いを受け入れて乾杯できました。

シャンパンに詳しいわけではないのですが、一口で「おや、これいい値段のシャンパンじゃないかな?」と思わせる美味しさでした。私も友人も、学生と社会人なりたてです。商品を買ったとしても、金額は知れているのに、よくこんなにしてくれるなぁと本当に思うです。それに、毎回長時間お店に居座るのですが、見ていると誰にでも飲み物を勧めているわけではなく、時々相手によって接客の方法を少し変えていることがわかります。ただ決して、接客の様子が礼儀正しいわけでもないのも関わらず、人が集まるのを見ていると、この店主自身の魅力も認めざるを得ないのです。

接客業なのだから接客の際の工夫は当たり前、といってしまえばそれまでなのですが、観光客以外は馴染みのお客様が多数というのは、顧客リストをちゃんと作っているような高級ブランド以外では衣類を扱うお店としては今時珍しいようにも私には感じられ、彼の接客術から何かを学びとりたいという気持ちに駆られます。

彼の接客技術について話していた時に、友人がこんなことも言っていました。
私が、一着とても真剣に購入を迷っていた時に、店主が私の方をじっと見ながら店内でかけられていたBGMの音量をじわじわとあげたそうです。音楽の勢いで購買欲を高めようとしたのではないかと友人は推測しています。

その後も短い滞在中にふらっと何度か立ち寄り、今となっては、お酒を勧めてくるのには全く他意はないのだな、と信じています。ただ、それ以外にきっとお客様の購買意欲を高める種をこの人は一瞬一瞬撒いているのだろうと思い、それを見学しにまたお店に行きたくなってしまうのです。そして毎回もちろん商品の衣類の話でも盛り上がり、なにかしら買ってしまっているので、まさに彼の戦略のループに見事はまってしまった気がしている次第です。

そんな訳で、このクレージーな街のクレージーなヴィンテージショップの店主とは長い付き合いになりそうです。

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