随に(まにま-に)volume8

『ブリュッセルで邦画を』

今年は、クリスマスをどう過ごそうかと12月上旬に考えていた頃、8月から研修でオランダに滞在していた友人より電話があり、長期の労働可能なビザがおり、年末もヨーロッパにいるとの嬉しい知らせを受けました。そこからとんとん拍子に話が進み、クリスマスをベルギー ブリュッセルで、年越しを彼女が生活しているオランダ アムステルダムで過ごすことが決まりました。建築をしている友人ですが、今年の春の時点では、8月に渡航したとしても受け入れ先があるかも怪しい状態でした。一般的な〝卒業と同時に就職〟ではなく、独自の方法で自分の夢を追う彼女に刺激を受けつつも、なかなかスムーズにいかない状況にはらはらしていました。渡航の直前の夏前には、3ヶ月の研修先が決定し、帰国予定寸前の11月半ばにはビザの切替を申請することが決まりました。そして、12月上旬にこの素敵な知らせを受けたのです。

とにかく、ブリュッセルでの再会の日と滞在日数だけを決めて、再会の当日を迎えました。なぜ観光初日にわざわざと我ながら思うのですが、友人も私も慣れない国に、寄る辺なさを感じてなんとなしに通りすがりの映画館で上映されていた、是枝裕和監督の映画『万引き家族』をみました。2018年6月に公開され、第71回カンヌ国際映画祭では日本人監督作品としては21年ぶりに、最高賞であるパルム・ドール賞を受賞。映画を深くは知らない私でも、しばしばフランスでの生活の中、記事やラジオで目や耳に入れることの多かった作品で、ついに11月末にフランスでも公開されるや否や、鑑賞した現地の友人から絶対見た方がいい、と勧められていた作品です。

オランダ語とフランス語の二言語が使われており、首都のブリュッセルでは会話した相手が老若男女問わず英語を流暢に話す印象を受ける国ですが、映画の広告では映画タイトルがフランス語タイトルの『Une affaire de famille』と、英語の『Shoplifters』が大きく書かれていました。そして、映画館で上映されていた映画の音声は日本語、字幕はフランス語とオランダ語の両方が付いていました。クリスマス直前の夜だったため、鑑賞客は私達だけなのではないかとも思っていましたが、ちらほらとカップルだったり家族が数組見えました。

海外で語られがちな日本の良質な生活のイメージを覆す、一部の問題視されるべき実情が描かれている内部告発ともいえる映画であるということは、すでに記事などで何度か目にしていて、私も映画を見る前の予備知識としてありました。見終えた後は、えも言われぬ気持ちで胸が一杯になったのですが、それは自国が抱える問題に対して客観的に向き合ったからではなく、むしろ主観的な視点から、その映画の中に登場する家族にあり、今の自分に無いもの、無くしてしまった気がするものを漠然と感じからだと思います。

思い出されたのは九州の今はもう無い祖父母の家でした。映画の中にある困窮した貧しさや問題はなかったものの、必要不必要にかかわらず古い物に溢れ、その中でみんなで同じ部屋で寝た日々を思い出しました。
祖父が度々、私を含む孫たちを連れて行っていた、〝悪いこと〟を思い出しました。
人の領地に実った柿を、どれが食べごろかと私たちに教えながら採っていた祖父。
地元の蟹食べ放題のお料理屋さんに行く時には、ポケットがたくさんついた上着にビニール袋を敷き詰めて、蟹を持って帰っていた祖父。
仕事場でいたづらをした狸や、カラスは取っ捕まえてペンキで水玉色に染めていた祖父。
誰かに見つかると幼かった私達から見てもいたずらそうな顔で笑っていました。そして見つけた側が厳しく言及していた記憶は少なくとも私の中にはありません。
もし今、特に都会の街で同じことをしようものなら、泥棒ですね。動物愛護団体に怒られますね。
映画の中で、駄菓子屋さんのおじさんは長い間、家族の万引き行為を黙認していたようです。それに相反するように、スーパーマーケットの店員は逃げ道がなくなるところまで、幼い万引き犯を追いかけます。

全く映画とは関係ないのですが、祖父や駄菓子屋のおじさんのことを反芻すると、写真家ソール・ライターの言葉が思い起こされました。
〝The important thing in life is not what you get but what you throw out.〟
〝肝心なのは何を手に入れるかじゃなくて何を捨てるかなんだ。〟

今年も残すところ数日という中で見た映画。間違いなく今年は自分にとって、特別に今まで考えもしなかった物事に出会った、あるいは問題にぶつかった時を過ごしました。
ただそれは、常に目標点にある何か手に入れるために流れた時間だったので、残りの数日を、その中で切り捨てたものや、気付かずに距離をとってしまった物に思いを馳せてみようかなと思います。

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