随に(まにま-に)volume5

『経験とお金』

最近、〝収入〟というものをよく考えるようになり、思いあたったことを書きます。

フランスと日本との間で、仕事、インターンシップ、そしてお手伝いという言葉に対する感覚、ルールの違いを度々感じます。京都でギャラリーや芸術祭の運営局でバイト、あるいはインターンなどをしてきました。
バイトは基本どれも時給制、インターンシップは私の大学の場合、単位化するには無給であることが条件とされ、そうでない場合も、雇用側から出される条件は大概無給に等しい、あるいは出勤に伴う交通費を賄うのでぎりぎり、という契約形態が周囲を見渡しても多かったように記憶しています。そのため、インターンシップ=経験 は、生活の支えになる給与は期待すべきではない、といった感覚を持ちあわせていました。

それに対して、フランスでインターンシップというものは、労働時間に応じてしっかりと保険や給与の最低ラインが定められています。まず、フランスの近年の月の最低賃金(SMIC)が1500ユーロ弱です。それに対して、インターンシップを行っていた友人達(建築、デザイナーなど専門の職種が多かったです)は、受け入れ先の会社や組織として規模に関わらず、2ヶ月以上の場合、少なくともおよそ550ユーロ、つまりは正規被雇用者の三分の一以上を毎月収入として得ていました。更には、学生インターンシップの最長期間が6ヶ月なのですが、みっちり6カ月契約をした子は、夏に2週間有給をとっていました。生活に十分な額ではないとはいえ、あまり日本では考えられない素敵な待遇ですよね。

逆に、私の今回の滞在の始まりは、このインターンシップというものに対しての日本との扱いの違いから、思ったようにいかない点もありました。
というのも、到着後すぐは、とにかく経験が欲しかったので、ギャラリーや文化イベント、展示関係のことなら無給でもあろうと、なんでもさせて欲しいという状態でした。そこで、日本人とフランス人が共同でお仕事をしている環境などにいくと、まず日本の方は「助かるー。よろしくね。」と受け入れていただけるのですが、いざ現場になるとフランスの方から、「だめだよ。ちゃんとした契約がなきゃ。それに、無給のお仕事なんて存在しない!」と言われてしまうことがありました。
結局その場で私に許されたのは〝インターンシップ〟でも〝労働〟でもなく〝見学〟でした。前述のセリフをまさしく言った男性は、中でも一際敏感な方だったとは思うのですが、私が、見学とはいえ突っ立ってるのもなんだからと、ちょっとした洗い物や、整理整頓をしようとしても、「それは僕たちの仕事だから!」と、接客中でも慌てて止めに入ってくる始末でした。きっと、規則としては彼が限りなく正しいのですが、日本だったらつまづかない点だったのではと思わずにはいられない経験でした。
そう、これもまた一つの経験だったとは思えるのです。
ただ、当初はしたいことができないストレスの中、働くということや、私の行為に対してお金が発生することの意味を再考させられました。

それに対して、日本的で曖昧で便利でときに困るのが、「手伝い」という言葉だなと思います。

パリで生活していると、日本ではなかなか出会うことのなかった業種の方との出会いに恵まれ、未経験のお仕事のお手伝いをさせていただくことがあります。
例えば、ファッションウィークの時期になると、ファッションショーのフィッターや、雑誌掲載用の撮影のスタイリストもしくはカメラマンのアシスタント等のお仕事が舞い込んできます。あるいは、大小問わずイベントの受付業、会場案内係などをすることも多々あります。
初めての場合、お給料の相場なども分からず、相手の提案待ちという、受け身な私もいけなかったのですが、
「〝気持ち〟お金を出します」ということでやってみれば、封筒開けてびっくりの少なさだったり(その後も再依頼はあったので、私の手伝い方が評価されなかったわけではないと自負しています)、あるいは日給の金額が提示されていて、その日の終わりに「ごめん、この機材来週中に〇〇っていう会社に届けておいて」と、機材を託されて先方は帰国、などありました。
「え、それ半日かかるんですけど…。無給、、なのかな…? それに預かってる間に壊れでもしたら…でも私以外帰国されるし…」と一瞬パニックになったことがあります。

これは、お金への執着からきた思いではなく、いくら学生である私自身が「今は経験をお金で買う」くらいの気持ちでいたとしても、やはり依頼主はそれではいけないのではなかと強く言いたいのです。特に初対面の場合は尚更です。正直、経験のため、あるいは未経験のことを好奇心でやってみる、という私のような学生は国内外に関わらず、ごまんとおり、代えのきく存在であることが、この優柔なズルくも取れる状況を生み出しているのだと思います。
ただ、〝お手伝い〟させていただく身として、事前にスケジュールや給与の有無が相手からはっきりと提示されることは、相手への信頼に繋がります。それは私の一個人としての弱さでもあるのかもしれませんが、実際の現場で、臨機応変な選択が迫られた際の決断力に多かれ少なかれ意図せずして影響を及ぼしてしまうのです。

また逆に先日、何度かお仕事をさせていただき、既にめいっぱいの信頼を置かせて頂いている方から「今回、お金は払えないのだけど、手伝って欲しい。」と、拘束時間や意図する内容が詳細に送られてきました。
こんな風にはっきりいわれた際には、するのかできないのかは別にして、こちらもそれに対して出来るだけ誠実にあろうと自然と注意を払ったのが心に残っています。

この相手とのやりとりそのものも、とても大事な経験に思えたので、やはりしばらくは『経験とお金』のバランスの難しさに悩むことになりそうです。

一覧へ戻る