パリのマダムの・・・

『数字に弱いか強いか?』

日本では、レストランで支払いをする時「お勘定」「お会計」「おあいそ」などという。

漢字の「勘定」とは元来「色々考え合せた挙句の結論」という意味だが、日本の江戸時代には「代金」や「見積もり」を示すものとして広がり、現代では「物の数を数えること」や「数えた結果」を示す言葉になっている。

「おあいそ」は、それこそ、全く日本的な表現だと思う。
語源を辿ると、「そろそろ支払いをしてほしい」と催促する際に、不躾にならぬよう
「お愛想がなくて申し訳ありませんが」と断りながら、勘定書を出していたことに始まる。
明治時代のタウン情報誌「風俗画報」に、「勘定を愛想といふなど尤も面白く存じ候ふ」と紹介されたのが、全国に広まるきっかけだそうだ。店員同士が、支払いの事を客の前で話すのを遠慮し、隠語として使ったものが、今では、店側、客側に拘らず双方で使うようになった。

一方、フランスでレストランやカフェでお会計をする時、
ラディション・スィル・ヴ・プレ L’addition s’il vous plaît !  という。

文字どおりなら、足し算してください、という意味だが、
実際の行為としては、「お勘定お願いします」が一番近い気がする。というのも、
フランスでの会計は、「色々考え合わせて結論を出さねばならない」代物だからだ。

日本でもフランスでも会計総額を出すのに、足し算をするのは当たり前だが、
フランスでお釣りをもらう段になると、大きな違いを体験することになる。

日本なら、7,850円の飲食をして1万円札を出した場合、引き算をして2,150円のお釣りが暗算できてしまうが、フランス人には、そう簡単にはいかない……ものらしい。

50円足して7,900円になリ、100円足して8,000円、
最後に2,000円足して、1万円だから、
全部で2,150円のおつり〜 で、間違いなし、となる。

そんなことされたら、日本人には逆にややっこしくて、
まどろっこしくて、訳がわかんなくなるというものだが、
習慣の違いだから仕方ない。

先日、デパートで、€249,67の買い物をし、現金を出した。
お財布に、67サンチームあったので、小銭を整理したい私は、嬉々としてそれを出し、「これで€1のおつり!」と微笑んだら、店員はパニックに陥ってしまい、顔を赤らめ、イライラして、レジを打つのも手間取ったのだった。
 
私からすれば、答えは明らかで、打ち込むだけの単純作業と思うのだが、レシート出す操作も間違え、 一時はレシートが出ない、出ても詳細がないものを渡されそうになった。
そこは頑として譲らなかったら、彼女は上司に任せてその場を後にしてしまったのである。客の私に抜かりはないのに、まるでシカトされたようで、後味の悪い思いをした。

加筆するが、デパートでは、支払いがカードか現金かでレジが変わる場合がある。
現金決済の場所には、偽札かホンモノかが認識できる機械があったり、そもそも
現金を操作できる係が決まっていたりもする。

その担当者が自分のカードを認識させて初めて、現金での決済ができる仕組みだ。
いかに盗難やお釣りの計算間違いが多いか、ということが想像できる。

ところで、仏語で数字が言えるか? と日本人に問えば、1unアン、2deuxドゥー、3troisトロワくらいは聞いたことがあると思う。実際には、仏語の数字は、全くもって面倒臭い代物で、仏語を勉強し始めて、皆、だいたい数字でめげるのだ。

1〜16までは普通に数えるが、17〜19は10の合成語となり、20〜60までは普通に
いけるが、70になると、60+10、71は60+11、77は、60+10+7、80は4×20、
90は20×4+10という言い方になる。

これらの現象は、昔の記数法で20進法や60進法が使われていた名残だが、同じ仏語圏のスイスやベルギーなどでは、10進法に基づく、70セプタントseptanteや、90ノナントnonanteという言い方を使ったりする。

100はサンcentで、200や300とちょうどの時は、ドゥサンdeux cents, トロワサン
trois centsと複数形になるが、260のようには数がある時はドゥサン・ソワサント
deux cent soixanteのように、centに複数のsはつかない。

私は通訳の仕事をすることがあるが、大きな金額のやり取りの時は神経衰弱になる。
日本語は千、万、億、兆……となっていくが、仏語では、万の位はなく、
ミリオンmillion 百万、ミリヤールmilliard10億、ビリオンbillion 兆となるからだ。

単に数字を当てはめるだけではダメなわけで、頭の中で、単位を揃えねばならない。

さらに、20億ユーロなら、ドゥ・ミリヤール・ユーロdeux milliards d’eurosだが、
230万ユーロなら、ドゥ・ミリオン・トロワ・サン・ユーロdeux millions trois cent mille eurosとなる。

centやmilleにs が付いたり付かなかったりは、名詞か数形容詞かの違いがある。
表記上、sのあるなしに関わらず、sは読まないのだから、ますますわからなくなる。
これは、千の位milleになっても同じだし、euroの後につくsも発音しない。

しかも、ピリオド(仏語はポワンpoint)とカンマ(仏語はヴィルギュールvirgule)の使い方が日仏では逆で、1.000は千で、1,001は小数点以下3桁まで書いてあることになる。

これらの説明、読んでいる方も大変だろうが、書いている方もこんがらがってくる。

一方、侮るなかれ、デカルトやパスカルの名前を挙げずとも、フランスは世界でも最も
数学が得意な国民でもある。

まず、学校教育でも仏語と並んで数学が最も重視されている。

日本では、高等数学も計算機を用いなくとも解ける問題が出され、答えが合っていなければ0点になるが、フランスでは答えが間違っていても0点にはならない。

三角関数や指数対数まで表示される計算機を使わせ、途中経過に、どういう思考で解こうとしたかが評価される。

最高学府には、数学が強くなければ入れないし、フランス社会では「スコラ哲学」による合理的思考力を身につけたエンジニアは高く評価されている。

40歳以下の研究者を対象とするフィールズ賞の受賞者は、フランスはアメリカに次いで
世界2位だし、数学のノーベル賞と言われるアーベル賞の最初の受賞者はフランス人だ。

フランスには数学者を育成する世界最大の環境が用意されている。
パリ数理科学財団(FSMP)は正会員500人を含む科学者1000人が加入し、パリに9つの
研究所を持つ。純粋数学や応用数学、基礎情報科学に関心を持つ数学者が育成されている。
何れにしても、これがフランス、これもフランス。

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