パリのマダムの・・・ volume2

『パンとは?』

パンと聞いて、日本人なら何を思い浮かべる?
フランス人にとっては、パンpainはフランスパンだ。

フランスパンはバゲットbaguetteでしょう、
と言うかもしれないが、普通に、それはパンでいいのだ。
レストランでも、パンを頼めば、切ったフランスパンが出される。
大抵の場合、副食?として無料でサービスされる。

唯一、パン屋に行って、幾多の種類を前に買う時には、正確にバゲットbaguette何本、と特定する。

一方、バゲットには、普通ものオーディネールordinaireと伝統ものトラディッションtraditionとあるが、後者は、小麦粉の種類、塩分、水、酵母菌の分量から、こね方、
発酵にかける時間など、細かく決まっている。職人の腕の見せ所だ。
(以下は、フランス語だがご参考)

http://www.boulangerie.net/forums/bnweb/bt.php
https://www.youtube.com/watch?v=DkHsbchF2-g

パリは、掃いて捨てるほど(失礼)のパン屋と美容室と薬局で溢れているが
どのパンを買うかによって、パン屋のチョイスは変わるし、何時に焼きたてが買える、
と言うポイントは、至極大事、フランス人にとって、パンはサクレsacré聖なるものだ。

したがって、朝、昼、晩、それぞれに焼きたてを買うのが普通で、そのままとって置こうものならカチカチになるし、ビニール袋に入れでもしたらゴムのようになってしまう。

焼きたてを買ってくる夫は、大抵、素のままで持ち帰ることがない。道すがら食べ歩きで
半分くらいなくなってしまうので、余計に買うことになるが、余るようなら、即冷凍、
そうすれば、新鮮さと美味しさは保たれる。

ところで、日本では、朝食に何を食べる? と聞くときに、必ず、パン派?ご飯派?
と問うが、それなりにボリュームがありバランスのとれた朝食を摂っていると思う。
しかし、美食のフランス人は、意外とご質素な朝食をとる。

コーヒーや紅茶だけ、と言う人も結構いるし、+各種ジュースやヨーグルトを摂る。
食べても、タルティーヌtartineと呼ぶ、バゲットを切って、バターやジャムを塗った
もの。あとは、せいぜい果物を追加するかしないか、だ。

他には、大人も子供も、各種コーンフレーク、或いはビスコットbiscottoと呼ばれる、二度焼きしてほとんど水分が含まれてない

長期保存の効くパンを食べる。カリカリとした歯ざわり、食感が楽しめるが、フランス人はカリポリ食べるものが好きなのかも。

ちなみに、娘は、赤ちゃんの時から牛乳が嫌いだし、大人になった今も、コーヒーはいわんやお茶もあまり飲まないのだが、ジュースを飲んで、コーンフレークを牛乳なしで、カリカリ食べている。

夫は、時に、ビスケットを砕いて、温めた牛乳をかけたものを朝食に食べる。
私からすると、おえっ、となる感じだが、まるで離乳食のような赤ちゃんの食べ物を、
美味しそうに食する様子に、入り込めない領域を感じる。

そう言えば、この流れから、クロワッサンcroissantは? ブリオッシュBriocheは?
パン・オ・ショコラpain au chocolatは? といった質問が出そうだが、期待に反して、
フランス人とて、それらは毎朝の食卓に並ぶものではない。

週末や日曜の朝食に、また来客がある時に、パン屋に買いに走る。人気店には、行列が
できるが、パイ地やバターの感じで風味や味が変わるので、誰しもに好みのパン屋がある、というもの。これらは、学校帰りのおやつだったりもする。

そうしたものは、日本流に言えば、菓子パンのカテゴリーに入り、総称して、
ヴィエノワズリーviennoiserieと呼ばれる。「ウィーンのもの」という意味だ。

フランス革命時、マリーアントワネットは、農民が主食として食べるパンに事欠いていることを知って、Qu’ils mangent de la brioche ! (ブリオッシュを食べればいいじゃない)と言ったとか言わないとか、の話が伝わっているが、

マリーアントワネットが、オーストリアからフランスに嫁いだ時に、デンマークのパン
職人も同行し、ゆえに、デニッシュ(デンマークの)・ペストリーの生地で作ったのが
最初のクロワッサンとされている。

そもそも、伝承では、17世紀後半、トルコ軍とオーストリアハプスブルグ家との関係に
遡る。ブダベストを陥落したオーストリア宮廷が、トルコ国旗の三日月になぞらえて
焼き上げたパンがクロワッサン、というわけだ。


クロワッサンの意味は、三日月だが、形としては、三日月型と菱形ある。

北京語では『羊角麺包』、広東語では『牛角包』というが、いずれも角の形に似ている?
ことが由来になっている。でも、それは中国だけでなく、イタリアでも、コルネットcornetto(小さい角)と言うそうだから、ある意味、*ロールシャッハ・テストみたいだ。

* 注) 抽象的なインクのシミなどが何に見えるかという深層心理テスト

さて、話をパンに戻すが、
夫と生活し始めた頃、私がご飯を作ると、夫は、必ずと言っていいほど、パンも買って
きて一緒に食べていた。

私からすると、主食は、ご飯かパンのどちらかを選ぶもの、と思っていたので、ここでも痴話喧嘩の種になった。

夫はフランス生まれでフランス育ちのフランス人だが、両親ともスペイン人なので、血統的にはスペイン人。夫自身も、生まれも育ちもフランスなのに、自分はスペイン人であると言い張っている。

なぜそんな話をするかと言えば、スペインには、昔から次のような慣用句がある。

“ Pan con pan, comida de tontos.” パン・コン・パン、コミダ・デ・トントス

直訳すると、『パンと一緒にパンを食べるなんて、”阿呆”のすること』となるのだが、
夫はそれを地で行っている。

だいたい、ピザを食べる時にもパンを注文するのである ?!

そんだけ、スペイン人はパンが好きだ、と言うことだが、要は「どんなにパンが好き
でも、パンばかり食べるんじゃなくて、他のものも食べなさい」と言う警告らしい。

その夫、日本にいた時、太るからパンはやめた、と、コンビニで食パンを買ってきて、
ご飯の副食? にしていた。
いくら言っても、『(日本の)食パンはパンじゃない?! から太らない』という……

どうすればいい?

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