パリのマダムの・・・ volume17

『カンヌ映画館』

タイトルから一瞬、“カンヌ映画祭”を想起したかもしれない。脳というのは、聞き慣れた言葉であればある程、勝手な誤読や誤解をする。従って逆に、誤字をしても脳は正しく読んでくれるという現象も起きる。

7月初旬の土曜の昼下がり、娘と二人で映画を見ることにした。で、“カンヌ映画祭”ではなく、“カンヌ映画館” なわけ。

今尚コロナの影響下にある故に、映画館や劇場では採算を度外視
して、ルールも厳しい。座席は、連れ合いや同グループは並んで座ることが許されるも、一人ずつ1座席空けて座るよう、座席にXが貼られている。もちろんマスク着用は厳守。

もとよりガラガラに空いていて、私たちが陣取った後方座席の前は全て空席、全体でわずか5人だけだった。夏至からまだそう経っていない日中の長いフランス、南仏のリゾート地カンヌだもの、多くは海辺で日光浴を楽しむ人々の方が多いのは当然か。

選んだ映画は、”Radioactive”。キュリー夫人を中心に描いた、人間ドラマの伝記である。
ご参考 : https://radioactivethemovie.com/fr/

製作は、イギリスのワーキング・タイトルズ・フィルム社と、フランスの製作・配給会社スタジオ・カナル。Amasonが、作品へ共同出資したことで、フランス、ドイツ、オーストラリア、ニュージーランド、イギリスの5カ国を除く世界配給権を獲得している。

娘は、オリジナルの英語版を見たかったようだが、カンヌでは上映されておらず、フランス語吹き替えを見たが、私にはこっちの方が助かる。英語版をフランス語字幕で見ると、どちらにも集中できなくて難儀するのだ。

作家Lauren Rednissが描いた” Radioactive : Marie & Pierre Curie :A Tale of Love and Fallout”
邦題は「放射能キュリー夫妻の愛と業績の予期せぬ影響」というグラフィック・ノベル(文学的漫画の類)を、プロデューサーのPaul Websterが、ハリー・ポッターの共同収筆者でもあるJack Thorneにシナリオを依頼したもの。

女性監督Marjane Satrapi(イラン生まれのフランスとイランのハーフ)が手がけているが、この監督、自らの半自伝的フランスのアニメ映画「ペルセポリス」も制作している。

ところで、パリが舞台なのに、撮影はハンガリーのブダペストで行われている。
仕事で何度かブダペストを訪れたことがある私にとって、それが納得できるのは、

ブダペストは、パリを見本とした壮大な都市計画もあったことから、パリの街も想定可能だ。フランス、イタリア、ドイツなど欧州各地の建築が混在して、建築マニアにはたまらなく興味深い街なのだ。その街並み故に、映画やTV番組のロケにはもってこいで、ヨーロッパ映画だけでなく、ハリウッド映画も多く制作されている。

これから見ようとする人々の妨げにならぬよう、映画の内容についての話は差し控えるが、いくつかコメントしておきたい。

まず、娘には意味不明だった箇所、キュリー夫妻が、カルトの集会に参加する場面が何度か出てくる。この種の話が大好きな私にとって、そこはピンとくるものがあった。

当時、世界中の多くの芸術家や科学者らに影響を与えた、ブラヴァツキーの「神智学」の流れだろう、と想像できた。ここから、新興宗教、オカルティズム、ニューエイジ運動などにも発展していった経緯がある。
【ご参考:https://ja.wikipedia.org/wiki/神智学#後世への大きな影響

映画は、20世紀初頭の女性差別とフェミニズム運動の一片も映し出す。
特に、その時代のフランスには、特にアカデミズムにおいて、女性軽視の風潮があり、
女性が科学の分野において、独創的な能力を発揮できるとは信じられていなかった。

マリー・キュリーは、歴史に残る著名な女性科学者であり、数々の科学賞や称号を得たが、ノーベル賞では女性初の受賞者であり、これまで物理学賞(1903年)と化学賞(1911年)の
両方を受賞しているのは彼女だけである。

その100年後、2011年に国連はその偉業を記念して「世界化学年」と定めたが、その年に、福島で原発事故が起きたのは、皆さんご存知の通りである。

今尚、放射能についてはわかってないことも多いが、発見当時、ラジウムは危険なものという認識より、「妙薬」として知られて、放射性物質を使った治療が次々に開発された。
皮膚疾患や悪性腫瘍の治療、そして、もちろん、後々の癌治療にも繋がる。

今から考えると信じ難いが、RadioactiveやRadiumが流行語になって、様々な商品も作られた。石鹸や、バイアグラクリーム、ラジウムウォーター、美容クリーム(肌再生)、ラジウム入りチョコバー、ヒートテックのような下着まで製品化されたのである。
ご参考:http://owni.fr/2011/01/23/quand-les-produits-radioactifs-etaient-en-vogue/index.html

さて、日本は、唯一の被爆体験国であり、福島原発事故も起きた関係で、世界でも稀に
多くの人々が放射能被曝を体験した経緯があり、「放射能は怖い」という認識が高い。
その一方で、日本には温泉がたくさんあり、中には、ラジウム温泉、ラドン温泉などと
いうものもあって、「ホルミシス効果」が謳われている。

では、この際、何がどうなっているのか、を見てみよう。

まず、ラジウムだが、キュリー夫人が1898年に発見した個体元素で、半減期は1622年、ラジウムが崩壊するときにできる気体の別元素がラドンで、半減期は3,825日だそうだ。

地下にあるラジウムから生まれたラドンは温泉水に溶けて地上に上がり、皮膚から吸収されたり、空気に放散して呼吸によって取り込まれるが、ほとんどは呼吸によって180分後に体外に排出されるという。

日本の温泉は、入浴が中心だが、外国では、入浴、飲用、吸入の3つの方法がある。
ラドンは気体のため、湯の中に溶けているより、空中に飛散する方が多い。飲用では消化器から入るが、吸入では肺から吸収されて血液循環に入り、全身にラドンが行き渡る。
そのため、全身に対する利用は、吸入の方が効率が良い。

ラジウム温泉と呼ばれているものの実態は、ほとんどがラドン温泉だそうだが、いずれにせよ、放射能が体の免疫力を引き出すなど、様々な機能を亢進する効果があって、これを「ホルミシス効果」と呼んでいる。

実は、人間のエネルギーは二本立て。酸素のいらない解糖系と、酸素に依存したミトコンドリア系、というわけで、酸素の嫌いな生命体と酸素が好きな生命体の共存状態の中で、本体はだんだん酸化して老化する、という仕組みになっている。

ちなみに、男性は解糖系生命体である精子を作り、女性はミトコンドリア生命体である卵子を作る。これが受精で合体し、子が生まれる。子供時代はむしろ解糖系、大人になると解糖系とミトコンドリア系が調和を図る。

ところが、無理をすると、交感神経が緊張し、血管が萎縮して血流が悪化、低体温で低酸素となり、この条件下で生きるために、酸素が嫌いな解糖系生命体で生きることになる、これが発ガンを起こす。

ミトコンドリア系は、酸素を食べ物の水素と反応させてエネルギーを作る。その際、クエン酸回路で取り出した食べ物の水素を陽子と電子に分けるが、その際に放射能が要る。

放射能は、宇宙線(紫外線などの電磁波)だったり、地中にあるラジウムもあるが、野菜に
含まれているカリウムの中には、カリウム40という放射能を出す物質が入っていて、ミトコンドリアをそれを使う。

だから、人間は野菜を食べないと生きていけないことになる。この仕組みを知った上で、
無理な生き方をやめ、体を温めて、深呼吸し、養生すると、ガンも出来にくく、出来ても
攻撃せず、血流を良くすることで癌細胞消滅の可能性も出てくる。

温泉は、体を温めるだけでもプラスで、微量放射線があれば尚良し、ということであり、ラジウム温泉も、電磁波の影響は個人の感受性によって違うのだから、湯に入る時間も
自分で決めるしかない、放射能も付き合い方次第、というのが現時点での結論となる。

最後に一言、「カンヌ映画館」では、上映前に地元商店街のPR映像が流れたのが、地方色豊かで悪くないと思えた。折しも、映画を観終わって外に出ると、19時近いというのに太陽が眩しく、海水浴から引き上げた人たちを含め、街は買い物客で溢れていた。
幸せというのは楽天ということなのかも……

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