パリのマダムの・・・ volume14

『Nana』

もしかすると、日本なら、このタイトルから、同名の漫画の方を想像するかもしれない。
話の中に、タバコのジタン(意味はジプシー)やカルティエの指輪など、フランス”モノ”が
登場するようだが、映画にもなったというのに、こちらのNanaを私は知らなかった。

「Nana」ナナは「女性」を指す仏語のスラングで、「彼女」とか「ねえちゃん」という
ような意味合いで使われるが、今回は、生理用ナプキン”Nana”の話である。
フランス製と思っていたが、メーカーはスウェーデン。

このCMを、初めて見たとき、「えっ、いいの?」が私の第一声。
直視できない感じもあったが、一方で、ここまでやってしまう「あっぱれ」感もあった。

映像を探したら、ロングバージョン(3分)は、年齢制限で規制がかかっている。
(女性誌フィガロMadameの記事中のビデオは、音楽なしだが無登録で見られる。)
いずれかお選びいただいて、まずはご覧ください。
ご参考:
https://www.youtube.com/channel/UC_yh40kKMV8Puf2V260R3jQ
https://madame.lefigaro.fr/societe/vive-la-vulve-la-derniere-publicite-nana-choque-lestelespectateurs-111019-167511

ついでに、このブランドのHP
ご参考:https://www.nana.fr

のっけから裸体に陰部を「貝」で隠した写真が登場する。
このキャンペーンのタイトルは、なんと、”Viva la Vulva !
(女陰万歳!)”だ。

「62%の女性が『女陰』を正しく定義できない。そのうちの半分の女性が
自分のそれは 『パーフェクト』ではない、と思っている。私たちは、タブーを破って、女性たちにそのコンプレックスをなくして欲しいと願っている。」と続く。

こんな直接的で強烈なインパクトのある生理用品のCMはフランスでも初めてだったから、TVの報道番組も取り上げ、CSA(視聴覚規制に関する公的機関)には、1000件以上の 苦情が寄せられ、審議に及んだが、「問題の映像は、驚きに値するものの、なんら女性の 品格を落とすようなものではない」と結論づけた。

女性の「生理」を日本語で「月経」或いは「メンス」mensesというが、フランス語でも menstruation(月経)又はrègles(規則)という。実際、
月経周期は月の満ち欠け周期に近い。
ご参考:https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/topics/html/topics2010.html

未開人の多くは太陽より月を崇め、太陽崇拝の前に月を崇拝していた。
月は海の干満を支配するため、生と死の潮を支配すると考えられ、「月母神」は、
創造、成長、衰退、破壊、という月の周期を繰り返して「時」を作ったという。
古代の暦が、月の相と月経の周期に基づいて作られた理由もそこにある。

エジプト人は月を「宇宙の母」と名づけ、バビロニア人も太陽より月に優位を与えたが、 太陽は昼間だけ輝くのに反して、月は夜、光が必要な時に、光を与えてくれる。
 
これについての実体験。エジプトで開催されたファラオラリーの仕事をした時、VIPと
関係者用のバスで移動し、夜中に砂漠で野営をしたことがあった。短時間だったので、
テントを張らずに寝袋だけで仮眠をとったが、その晩の「月」があまりにも明るくて、
天から紐が降りていたら、それを引っ張って、消したくなるくらいだった。

月がこんなにも明るいというのを意識した初めての出来事だったが、砂漠の日中の太陽が
焼けるように”熱い”のも経験している。暑い国で移動や労働を余儀なくされる民にとっ て、涼しい夜に月の光に照らされることが、どれだけありがたいことか想像できる。

さて、生命の起源は未解決の永遠のテーマだが、創造神話では、
万物生成を象徴的に捉えて、
実話を誇張しながら、想像と妄想の世界が展開されている。

ところで、宗教の始まりは、性と豊穣の呪術だ。
世界各地の考古学発掘で、乳房や腰や性器が強調された
女性像や男性像が出土している。
「ヴィンドルフのヴィーナス」は、両性具有的な像。

「創造」はそのまま「人間の誕生」と結びつくが、「誕生」以前は「混沌」という言葉で表されるように、暗く、液状で、撹拌運動が見られ、永遠の流動があり、それは子宮内の「血の海」を連想させる。

今なら、それは、男性の精液も混じり合った状態でもある、と言えるが、昔は生殖の過程
で果たす男性の役割は何も知られていなかった。原始的環境にある人々は、今でも、性欲
と出産の関係については無知だという。

女性は、シャーマン、女祭祀、巫女であって、全て魔術的な手段をもち、母性だけが唯一
の親子関係の絆として認められ、家族は母親と子供たちから成り立っていた。
女性は、子を産み養う者であり、農作物を生産、貯蔵、配分する、土地の所有者となり、
母権制社会の形態をとり、初期の村落共同体を発展させた。

男性は、通り過ぎる者で、何も持っていなかった。狩猟をし、或いは、群れや村落を守る
防御者として貢献する労働を別にすれば、男性の役割は大きくなかったのである。
「父親であることの秘密」は女性だけが明かすことができた。ん、今も、できる? !
 
中国の『姓』は、「女」と「生」の漢字から作られている。人々が、父親ではなく母親し
か知らなかった過去の時代の習慣が読める。覆せば、男性が多くの女性と関係を持っても
感知しない、ということにもなる。それ故に世界の王侯貴族も後々問題を抱える……

アラビアの夫たちは苗字がなく、子供ができて初めて、abu~「何某の父」と名乗れた。
現在は、『名+父名(母名)+祖父名』で、例えばMuhammadモハメド-Abdulazizアブダア
ジズ- Hussainハッサンであり、或いは、かの有名なOsama bin Ladinウサマ・ビン・ラ
ディンのように、父名、祖父名の前にそれぞれ「息子」を意味するbinやbenなどを入れる
など、出身家族が大事にされている。ただし、定冠詞のalを入れる場合もある。

面白いのは、英語のhusband夫という言葉で、hus=house家に”band繋がれた”となる。
古代サクソン人の母権制社会では、女性の財産を管理するため選び出された家令または
執事であり、「夫」なるものは、家の中では終始「よそ者」の地位に留まった、という。

話を戻して、創造神話の「誕生」場面。暗い形のない母神に裂け目(女陰)が一つ、そこか
ら「光」が現れると、世界が存在し始める。どの神話でも「光」の瞬間が目立って描かれ、
聖書にも「光あれ」の言葉がある。それは光を初めて見た新生児にとっての衝撃、その前
の世界(子宮内での事)を吹き飛ばしてかき消す、凄まじい出来事であるはずだ。

「光」がもたらされた新生児の「目」は、エジプトのホルスの目にある如く「万物照覧」
であり、人間に霊的な火、知性を与える。これが後に、時と場所を超えて別のシンボルに
使われたりするのだが、恐怖を呼び起こす目は、「邪眼」の原型にされてしまう。

そこで、先のCMにも出てきた「貝」だが、タカラガイは、世界の様々な地域で、聖なる
陰門(女陰)を現し、誕生や再生のイメージを与えたようだ。エジプト人は、再生の呪いと
して宝貝で石槍を飾り、インドでは邪眼除けとされ、イスラム教の女性たちは、妊娠中に
身につけ、ジプシーも一番の護符にしている、という。お金として使われた時期もある。

日本でも縁起物として箪笥に入れたり、子安貝と言ったり、地方によっては「ネコ」や「猫
目」と呼ぶ方言もある。これとリンクして面白いのが、傷んだ眼は、魔法使いのパシリ?
の黒ネコのシッポでこすると治る、というおまじないが18世紀のイングランドにあった。

中世の日本でもヨーロッパでも、ほとんどの父権性社会では、”礼儀正しい”女性は男性の
前ではまぶたを伏せるものだと主張する習慣があった。男性は女性に睨まれるのを懸命に
避けてきたようだ (笑)。

霊的な力を与えられている人は、誰でも視線を利用して呪う力を持っている、と考えられ
ていた節がある。しかも、大抵の場合、それは、老いた女性である(苦笑)。
確かに、シャーマンや教祖になるのは、一定年齢以上の女性が多い……
 
ところで、Trinity「三相一体」は、太古の昔に世界を想像した地母神の三相で、3つの
神性が一体として信仰されたもの。月の三相(上弦の月、満月、下弦の月)にして、「処女-
母親-老婆」がシンボル化された。白は「処女」、赤は「母親」、黒は「老婆」で、それ
ぞれ「誕生」と「生」と「死」を象徴。言い得て妙、と感じるのは私だけではないだろう。

女性の人生の第三極面は閉経後、もはや毎月の「賢い血」を流さず、それを内にしまって
おくようになった女性は、「非常に賢明な人間になる」とも信じられたという。

それを証明する手立てはないので、その魔法の血で、「知恵の女神」ソフィアになるか、
「破壊者」ペルセポネーになるかは、あなた次第 ?!

一覧へ戻る