100年の歴史と女性たちDECADE⑲
【2011年(平成23年)~2018年(平成30年) 】

~ 時事 ~

2000年代、不況が長期化し、「男は仕事、女は家庭」といった性別による役割分業という考え方はもはや現実的ではありませんでした。

これまでのように、夫一人の収入で家庭を支えるのは無理があると人々が感じるようになったのです。

さらに結婚率の低下や晩婚化が進んだことで、合計特殊出生率(一人の女性が15歳~49歳までに産む子供の数の平均)はどんどん低下しました。

これは労働者人口が減少することを意味します。そしてこれまで日本社会の成長を支える中心となってきた団塊世代が、2007年(平成19年)、60歳を迎えました。

本来なら一気に労働人口が減少することが予想されましたが、それを懸念した政府がその前年に、高年齢者雇用安定法が改正・施行し、企業に対し65歳までの雇用確保を義務付けました。

この結果、団塊世代の一斉離職は回避され、労働人口の減少は一時的に引き延ばされました。しかしそれも一時的な効果しかありません。

少子高齢化が待ったなしで進む日本、このままでは、将来の働き手がいなくなる。そんな心配から日本政府が「働き方改革」を進めようとした矢先。

大地震が東日本を襲いました。

2011年(平成23年)3月11日 東日本大震災発生 明治以降観測を始めてから日本で最大のマグニチュード9を記録、震度は宮城県栗原市の震度7を最高に東北の太平洋岸や関東地方を中心に各地で震度5弱以上を観測しました。

三陸海岸を中心に10メートルを超える津波が押しよせ、地域に多大な被害を与えました。

さらにこの津波の被害が加わって、原子力発電所の事故が発生。
住民らが大量に非難し、長期にわたって自分たちが住んでいたところにもどれないという事態になりました。

当時は民主党政権。
地震に加えて原発事故が被害を拡大し、当時の管内閣はその対応の不手際を問われ、総辞職しました。
原発事故の影響は今もなお続いています。

年の瀬も押し詰まった12月、北朝鮮で金正日が逝去し、次男の金正恩が最高指導者に就任しました。
新体制のもと北朝鮮は独自の路線を歩み、アメリカや韓国、中国も巻き込み、東アジアに緊張関係を引き起こします。

日本政府はその対応にも追われました。

失政が続いた民主党政権に代わって、2012年(平成24年)には自公政権が成立。
震災からの復興政策を推し進めるとともに、課題であった少子高齢化に取り組み
次々と新しい政策を押しすすめていきます。

2013年(平成25年)
「日本再興戦略」が成長戦略として閣議決定されます

「全員参加・世界で勝てる人材を育てる」。戦略の一つです。
まさに女性に焦点をあてました。

少し長くなるが、引用すると、
「これまで活かしきれていなかった我が国最大の潜在力である「女性の力」を最大限発揮できるようにすることは、少子高齢化で労働力人口の減少が懸念される中で、新たな成長分野を支えていく人材を確保していくためにも不可欠である。
(中略)
このため、保育の受け皿の整備などにより夫婦が働きながら安心して子供を育て
る環境を整備すると同時に、育児休業後の職場復帰の支援、女性の積極登用などを
通じて、女性の労働参加率を抜本的に引き上げることを目指す。」(首相官邸HPより)

はっきりと、環境を整備して女性の力を活かすと書かれています。

具体的には、
「女性の活躍促進や仕事と子育ての両立支援に取組む企業にインセンティブを与える」
「女性のライフステージに合わせた支援」、
「男女が共に仕事と子育て・生活等を両立できる環境の整備」
の3つの柱をたてて、女性の出産・子育て等による離職の減少や,管理職に占める女性の増加のために、保育所の整備や育児休業給付の拡充などが進められました。

翌年の2014年(平成26年)、「『日本再興戦略』改訂2014」では,「女性の力」は,人材の確保だけでなく,企業活動,行政,地域等に多様な価値観や創意工夫をもたらすものとして、更なる女性活躍推進に向けた施策を進めました。

この年は、矢継ぎ早に女性のための施策が行われます。

・首相官邸で開かれた「輝く女性応援会議」
・活躍する女性と応援者のリレー投稿「輝く女性応援会議オフィシャルブログ」開設
・全国6か所で開かれた地域版「輝く女性応援会議」
・世界のトップリーダーが集まった「女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム」
ここでは,日本及び世界における女性の活躍促進のための取組について議論,成果を国内外に発信しました。
・全閣僚を構成員とする「すべての女性が輝く社会づくり本部」設置
早急に実施すべき施策「すべての女性が輝く政策パッケージ」作成

政策パッケージは,
「安心して妊娠・出産・子育て・介護をしたい」,
「職場で活躍したい」,
「地域で活躍したい,起業したい」,
「健康で安定した生活をしたい」,
「安全・安心な暮らしをしたい」
「人や情報とつながりたい」の6つが柱です。

2015年、女性活躍推進法が成立しました。(2016年施行)

当時の日本の女性がおかれた状況をデータでみます。
働きたくても働けない女性が約300万人
第一子出産を機に6割の女性が離職
育児後の再就職はパートが多く、女性雇用者における非正規雇用者は56.6%
女性の管理職は1割程度と、国際的に低い水準

まだまだ女性が活躍しているとは言えない状況でした

そこで生まれたのがこの女性活躍推進法です。
働くことを希望する女性が十分活躍できるよう、企業にそのための取り組みをしてもらおうというものです。

ありていにいえば、女性にもっと多く、もっと長く、もっと高い能力を発揮して「働いてほしい」というものです。

そのために企業に課されたのは、
自社の女性活躍に関わる状況を把握し、行動計画を策定すること。

時間を短縮して働く時短勤務、情報技術を活用する在宅勤務、いつ出勤してもいいフレックス制度など、女性が働きやすくなることで、女性の活躍の場が広がります。

さらに、「女性活躍に関する情報公表」を義務づけました。

従業員301名以上の事業主は就職活動中の学生や求職者の参考になるように、女性活躍に関わる情報を自社ホーム―ページや厚労省のウェブサイトに公表しなくてはならないというものです。

ただ、この法律は10年の時限立法です。
この先10年間で、女性の働き方はどこまで変わるのか。先は見えていません。

性別をめぐっては、結婚をとりまく状況にも変化の兆しが見えました。

2015年(平成27年)、アメリカの連邦最高裁判所は、同性婚を憲法上の権利として認めました。この判決により全米で、同性婚が事実上合法化されることになりました。

しかし、日本では同性婚は認められていません。

憲法の婚姻についての表記には「両性」という言葉があり、それは男女両性という意味に解釈され、男女の結婚が想定されているからです。

しかし、東京都渋谷区が2015年に日本で初めて条例を定めて、同性のカップルを「結婚に相当する関係」と認め、「パートナーシップ証明書」を発行しました。

性的少数者の権利を認めるのが目的でした。

世田谷区では条例ではありませんが、要項として、「パートナーシップ宣誓書受領書」が発行されました。

パートナーシップ制度は、男女間の婚姻とは異なりますが、公的にカップルとして認めることで、緊急時の病院での面会や賃貸住宅の同居などがしやすくなる環境を整えるのが目的です。

こうした社会の変化に対応して、大手企業でも社内同性婚を認める動きや、死亡保険金を同性のパートナーが受け取ることができる保険が売り出されるなどしました。。

国際関係においては日本を取り巻く環境は、厳しさを増していました。

2015年、安全保障関連法が成立しました。

北朝鮮の核問題(ミサイル発射や核実験)に加えて、2013年に周近平体制となった中国が、尖閣諸島をめぐる問題や、南シナ海にその支配権を広げるなどの新たな動きを示し、国内での中国脅威論も出始めました。

そこで、アメリカとの同盟関係強化という目的も含めて、
自衛隊法の一部改正など、国家の安全にかかわるいくつかの法律をまとめて
改正したのが安全保障関連法です。

日本が直接攻撃を受けなくても、日本と密接な関係にある同盟国などが攻撃された場合、集団的自衛権を行使して、武力が使えるようになりました。

国内では、2016年、東日本大震災の記憶もまだ新しい時、熊本地震が発生。
最大震度7を2回記録するなど大きな被害をもたらしました。

関連死も含めると死者は250人を超え、避難者も一時18万人以上にのぼりました。

女性の働く環境をめぐっては、
2016年(平成28年)、安倍内閣は「一億総活躍社会」実現のために、働き方改革担当大臣のポストを新たに作るとともに、「働き方改革実現会議」を設置しました。

働き方改革がなぜ女性の活躍につながるのか。

少子高齢化が進むと日本の労働力人口は減少します。その結果、国内に供給されるモノやサービスが減少し、結果として事業の業績は低下し、個人の収入も低下、消費が落ち込むわけです。

日本の成長のためには労働力を増やす必要があり、戦力として期待されるのは女性です。

女性は家事・育児・介護の担い手になっている人が多く、それを社会全体で引き受けることができれば、女性が労働市場に出てくることができます。

さらに時短勤務や在宅勤務を取り入れ、休暇取得しやすい職場づくりをすれば、これまでフルタイム勤務という選択が難しかった女性の社会進出を促すことができ、女性も管理職を目指すなど第一線で働き続けられます。

少子高齢化をふまえた対策です。

この年、82歳になられた天皇陛下が、ビデオメッセージで、象徴としてのお務めについておことばを公表されました。

陛下は「次第に進む身体の衰えを考慮する時、全身全霊で象徴の務めを果たしていくことが難しくなるのではないかと案じている」と表明。「生前退位」には直接言及されないものの、その意向を強くにじませられました。

陛下がみずからビデオでお気持ちを述べられたことは、国民にとっても大きな驚きとなりました。

2017年 男女雇用機会均等法や育児休業法が改正されました。

マタハラ(マタニティ・ハラスメント)対策が企業に義務付けられるようになりました。

これまでも事業主による妊娠・出産などを理由とした不利益な扱いは禁止されていましたが、今回の改正で、上司や同僚によるマタニティハラスメントの防止策も事業主の義務となりました。

また、セクシャルハラスメントついては、異性だけでなく同性も対象とすることが明確になりました。

育児休業や介護休業を理由としたハラスメントにも防止措置をとることになったので、今回の法改正は、マタハラ対策だけでなく、パタハラ(パタニティ・ハラスメント=育児に参加する男性への嫌がらせ)対策にもなっています。

そのほかにも、介護休業が分割してとることができるようになり、その取得も1日単位から半日単位でも可能となりました。

このように政府が本格的に働き方改革に取り組むようになったことから、日本社会の働き方は常に変化し、今当たり前と思っていることも、数年後には当たり前でなくなっているかもしれません。

働き方改革が進めば、企業の考え方や取り組み方も変わり、女性がもっと活躍できる場も広がるのではないでしょうか。

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