「社会と女性と法律と」その14
【1985年(昭和60年)年金法改正】

~女性にも年金を~

これまで専業主婦には年金というものが存在しませんでした。
そのため、離婚した女性は年金による生活保障がなかったのです。

この年、年金法が改正され、男女それぞれの年金という制度が整えられたことは
女性の生き方にとっても大きな節目となりました。

☆☆☆過去の年金制度における女性の関わり
年金制度が整備されたのは、1942年(昭和17年)のことです。
工場などで働く男性労働者を対象とした労働者年金保険法に基づく制度で、
男性は強制加入でしたが、女性はその適用を除外されていました。

1944年(昭和19年)に法律の名称が厚生年金保険法と変更され、対象がホワイトカラーと女性労働者にも拡大されました。

当時の年金制度は、家計の主たる維持者が長期間就労し、その維持者が受ける年金で夫婦二人の老後生活をカバーするという考え方で設計されていました。

当然ながらその給付額は夫婦世帯をカバーする水準に設定されていたため、専業主婦は年金制度の強制加入対象となっていませんでした。そのため専業主婦は、自営業者を対象とする国民年金への任意加入しか自ら年金を受給する方法がありませんでした。

その結果として、共働き世帯や国民年金に加入した妻がいる家庭は、世帯としてみた場合に過剰給付のケースがあったり、専業主婦が国民年金に加入していない場合、離婚や障害を負った時に年金保障が受けられないおそれがありました。

☆☆☆女性の年金権の確立
年金制度はいくつかの問題点解消を目的に1985年(昭和60年)に改正が行われました。この改正で、これまで自営業者を対象としてきた国民年金を全世帯に適用することになりました。まず、年金の基本部分として基礎年金制度を導入し、個人を対象に給付することとし、合わせて第3号被保険者制度を創設したのです。

自営業者など、これまでの国民年金適用者を第1号被保険者、いわゆる給与所得者を第2号被保険者、そして第2号被保険者が扶養する配偶者を第3号被保険者としたもので、第3号被保険者も強制対象となりました。

この第3号被保険者の費用については、直接徴収せずに、全体の保険料から賄うとなりました。

結果、
1. 単身で働く女性は、基礎年金と報酬比例年金、
2. 専業主婦の家庭は、夫婦それぞれの基礎年金と夫の報酬比例年金
3. 共働き家庭は、夫婦それぞれの年金と、それぞれの報酬比例年金
となります。

☆☆☆これからの女性の年金
女性の就労に対する意識が変化し、結婚をしても職業を持つという考え方の女性が増えています。その一方で、現実は理想通りとはいかず、結婚や出産で退職し、そのままという女性も多いようです。
さらに晩婚化、未婚女性の増加といったライフスタイルの多様化は、年金制度と実態があわなくなってきていという課題があります。

現在の年金は一定期間加入したとの前提で給付設計するモデル年金です。
具体的には40年間働いた夫とその専業主婦という世帯を標準モデルとしているため、
ライフスタイルが多様化している女性の場合、自分が働いて保険料を納めて、将来どういった年金がもらえるかということがわかりにくくなっています。

一方で第3号被保険者という制度は、本人自身が保険料を納付しなくても年金が保障されることから、専業主婦世帯を優遇する制度であり、他の世帯と比べて不公平だという声も増えています。

また、女性の就労数は増えていますが、その働き方は、いわゆるパートタイムが多く、
年金に加入している期間が短く賃金も低いことから、男性と比較して女性の場合、受け取る年金額が低いという問題も残されています。

女性は平均寿命が男性より長く、老後という人生最後の期間を単身で過ごす可能性が高くなっています。こうした高齢女性にとって年金は生活を支える重要なものです。
年金制度がどのように女性たちの老後を保障するのか、これからの大きな課題といえます。

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