「社会と女性と法律と」その13
【1980年(昭和55年)民法改正・配偶者の相続分1/2に】

~配偶者相続の問題~

たとえば、夫が亡くなったときに、夫が残した財産の1/2は配偶者である妻が受け取ることができる。
1980年(昭和55年)に民法が改正され、相続をめぐっては、男女を問わず配偶者の相続分がそれまでの1/3から1/2に引き上げられました。(配偶者と子供が相続人の場合)

相続に関しては、民法が明治31年に施行されて以来、たびたび改正されてきました。
その歴史をさかのぼってみます。

☆☆☆財産はすべて長男のもの
明治31年に公布・施行された民法の「第5編 相続」には、相続については家制度を前提に家督相続が中心とされていました。
簡単にいえば、その家を継ぐ長男が「戸主の地位と財産」をすべて相続するというものです。

昭和17年には胎児(まだ生まれてきていない子供)にも相続が認められました。
これは相続人である長男が戦死した場合に、その時に胎児だった長男の子を相続人と認めるというもので、戦時中ならではの措置ともいえます。

☆☆☆男女は平等に
戦後、日本国憲法が制定されたことで、相続に関する法律も改正の必要に迫られました。
家督制度の廃止、配偶者の相続権の確立(この場合はほとんどが妻を想定しているもので、
それまでは妻には財産を相続する権利が基本的になかったのです)などが改正の要点でした。

そして大きく女性の権利が認められたのが1980年(昭和55年)の民法改正でした。
法律上は配偶者の権利という表現ですが、事実上この場合の配偶者は妻である女性と考えていいでしょう。

それまで法定相続分については、子供と相続する場合は3分の1,直系尊属(親や祖父母)と相続する場合は2分の1,兄弟姉妹と相続する場合は3分の2とされていたところが、
それぞれ2分の1,3分の2、4分の3に引き上げられたのです。

また、このときに、遺留分の割合も引き上げられました。
遺留分というのは、例えば亡くなった人が遺言で他人に全財産を相続させるとしても、
本来の相続人(配偶者や子供)が、一定額の割合を相続分として請求できるというもので、
その割合が3分の1から2分の1に引き上げられたのです。

つまり、法定相続分の2分の1は請求できるというものです。

☆☆☆配偶者の権利とは
配偶者の相続権がなぜ認められるようになったのか。当然といえば当然なのですが、
その理由の第一には婚姻関係にあったときの財産を精算するという考えです。

名義上は被相続人(例えば夫)が単独の権利者であった財産にも、配偶者の権利があるということです。

これは配偶者の家族における立場というものを考えたもので、婚姻中に作った財産は名義が仮に夫であろうとも妻の協力なしではなしえなかったものとして、その権利を認めました。

第二の理由は、残された配偶者の生活の保障です。
被相続人が生きていれば配偶者はその扶養のもとにあったのに、それが無理になったので、
その代わりに配偶者に相続権が認められたと考えられます。

☆☆☆今後の課題
配偶者であれば常に相続人であるということがあげられます。
例えば、50年連れ添った妻であろうとも、1年しか婚姻生活がなかったとしても、
どちらも同じ相続人であるということ。
そう考えると、相続は財産の形成に協力したからという前提がおかしくなってくるという意見もあります。
また、事実上婚姻関係が破綻して、別居状態にあっても、相続においては同様に扱われるということになります。

一方で法律的には配偶者ではないものの、内縁関係にある相手に相続権が認められないという点も議論を呼んでいます。

最近でいうなら籍をいれずに同居というスタイルですが、事実上は夫婦として暮らしているわけで、その一方がなくなった場合に相続権が発生しないとなります。

これらのことは、古い家族観から、現代の夫婦のあり方へと変わってきている中で
法律がまだ追い付いて以内ともいえるわけです。

さらには共有財産と婚姻前から所有している固有財産を分けて考えて、その相続分の割合を変えるという意見もあります。

女性の働き方や、家庭における立場が変わってきていることを考えると、この相続分の割合という問題も、これから議論になっていくと思われます。

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