「社会と女性と法律と」その12
【1976年(昭和51年)民法改正・婚氏続称が可能となる】

~夫婦別性の問題~

離婚をしても姓が変わらないまま仕事を続けている女性が周りにいませんか。
1976年の民法改正まで、離婚すると自動的に旧姓にもどることになっていました。

☆☆☆結婚したら夫の姓を名乗るのがあたりまえ

日本の民法は、導入当初に家督相続や戸主の権利などをふまえて「家制度」というのが、その基本となっていました。

家制度の下で、妻という立場は何の権利もなく、法律的には無能力者と呼ばれる存在でした。当然、相続という権利もありませんし、選挙権もありませんでした。

婚姻にあたっては、家制度の観点からも、夫の姓を名のるのが当然とされていました。

太平洋戦争が終わり、新しい憲法の下、家族の在り方が見直され、個人を尊重するという基本原則に基づいて、婚姻において夫婦は同等の権利を持つことになりました。

夫婦の姓については、民法750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫または妻の氏を称する」として、夫婦で同じ姓を名乗ることを定めています。

夫婦の姓は夫婦で協議の上、決定することになったのですが、合意できなかったらどうなるかという規定はありません。

一方で、戸籍法74条には、婚姻届けの記載事項は夫婦が名乗っている姓となっているため、合意できなければ婚姻届に記載ができず結婚できないことになっています。

同じ姓を名乗ることが原則ならば、離婚においては、元の姓にもどることが原則とされていました。

☆☆☆旧姓に戻ったら不便だ

離婚した女性は自動的に旧姓に戻ることになっていたため、社会生活をする上で、不便なことがたくさんありました。

離婚のときに子供がいる場合、多くは母親の戸籍に入ります。
その場合子供も一緒に改姓することになります。
また、そのまま父の姓を受け継ぐ場合は、親子で姓が違うことになり、説明の必要が生まれるなど、さまざまな問題がおきます。

働く母親が、結婚していたときの姓で社会的に広く認知されている場合は、逆に改姓すると不利益を被ることもあります。
旧姓に戻ることで、離婚したことを周囲に広く知らしめることになり、プライバシーの暴露という考え方もあります。

こうしたことから、離婚したあとも、改姓しないで済むようにしてほしいという声が高まってきたのです。

最初に声をあげたのは、女性の国会議員でした。

結婚していた時の姓で政治活動を行い、広く知られるようになったので、離婚で姓が変わると議員活動に大きな影響が出る、いわば選挙に影響が出るというわけでした。

しかし、最初のうちは裁判所も、離婚改姓しても職業上のキャリアに影響はなく、日常的には、婚姻中の姓を通称として使用できるから問題ないという判断でした。

その後、裁判所も「姓のために人間が難渋することがあってはならない」と考え方が変わり、1964年広島高裁が「離婚改姓は本人に不利益をもたらす」との判決をだしたことで、この考え方が一般的なものとなりました。

ただ、実際には婚姻時の姓を使用するには、手間のかかる裁判所の手続きが必要でした。

そして、1976年の民法改正で、離婚後も申し出れば婚姻時に使用していた姓をそのまま使用できる「婚氏続称(こんしぞくしょう)」が可能となったのです。

裁判所の手続きを経なくても、役所に書類を提出するだけとなりました。

結婚によって姓を変えるのはほとんどが女性だったため、この法改正は、働く女性のための措置だったといえるでしょう。

☆☆☆結婚して姓を変えるくらいなら最初から変えないという案も

離婚して姓が突然変わることが不都合だと認められるならば、結婚によってもともとの姓を変えなければならないのも不都合だとなります。
そう考えれば、夫婦別姓問題も取り上げられてもおかしくないわけですが、その頃はまださほど問題にはなっていませんでした。

当時の人たちは、今より結婚も早く、当然ながら結婚前のキャリアも短いため、
結婚による改姓そのものはさほど深刻ではなかったこと、さらには、結婚したあとも
仕事を続けるという環境になく、続けられないなら職業上の不利益もあまり問題とならなかったのかもしれません。

しかし、その後女性の社会進出はますます進み、キャリアを重ねる女性が増えたことに加えて、晩婚化という背景もあり、1980年代に入ってからは、夫婦別姓についても関心が高まるようになります。

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