「社会と女性と法律と」その9
【1947年(昭和22年)国家公務員法】

~女性が昇進の階段を上っていくのは大変だった~

☆☆☆国家公務員とは
国家公務員とは、日本の行政機関に勤務する人のことで、その人たちの人事や義務・権利について定めた法律が、1947年に制定された国家公務員法です。

国家公務員法がこの年に制定されたということは、公務員制度はそれまではなかったのでしょうか。

戦前の日本にも公務員制度はありました。しかし、戦前と戦後の公務員制度では何がちがったのか。戦前の公務員制度の一番の特徴は、公務員は「天皇の官吏」だったということです。

大日本帝国憲法はその第一条で天皇主権を明示していて、さらに官吏の任用は天皇が行うとなっていました。

また、試験制度も整備され、任用されるにはその試験に合格する必要があったのですが、一部のいわゆる高級官僚については、自由任用制がのこされていました。

その後、官僚の仕事が専門化し、高度な能力が必要とされるにつれて任用の制度の見直しも少しずつ進められました。

それが大きく変わったのが、戦後です。
国民主権を定めた日本国憲法の下で、公務員は「天皇の官吏」から「国民全体への奉仕者」と、概念が変わり、公務員制度も新たな枠組みでの整備が必要となりました。

☆☆☆法律ができるまでの公務員って?
天皇の官吏から全体への奉仕者へと新しい制度の整備に向けて、当時の公務員制度についてアメリカの調査団が勧告した調査結果があります。

その主なものは、
① 職員の数が多すぎる
② 規律が欠けている
③ 市民への奉仕者としての心構えがない
④ 給料が低い
⑤ 職員の不満解消の方法がない
⑥ 高等文官試験(高級官僚採用試験)合格者の優遇
⑦ 研修不足

などがあげられました。

そこで旧官吏制度を否定し、新しく職位・階級制度を導入して、新たな公務員制度を目指したのです。

☆☆☆注目点は
国家公務員法の特徴の一つが、平等な取扱いの原則を定めた第27条です。
すべての国民がこの法律の適用において、平等に扱われなければならないとし、性別による差別も禁じられました。

これまで労働環境における男女の差別については、労働基準法が、賃金については男女の差別をしてはならないと定めていただけで、それ以外は女性を保護する規定はあるものの、差別そのものは禁じられていませんでした。

男女差別の禁止をはっきりと打ち出したのは、1985年(昭和60年)の男女雇用機会均等法になります。
当時、就職先を選ぶときに、職場における平等な取り扱いや昇進などをのぞむ女性は、公務員の道を選ぶしかなかったのです。

地方公務員についても1950年(昭和25年)に制定された地方公務員法で平等な取り扱いが規定されています。

そのほかにも、勤務条件を法律でさだめる「勤務条件法定主義」給与などについて民間の待遇に適応させる「情勢適応の原則」、職員の採用・任用・昇進等に関して受験成績や勤務成績の結果に基づくとした「成績主義の原則」などが人事の基本原則として導入されました。

☆☆☆女性の公務員は差別されなかったの?
法律ができて試験制度が整備されても、女性が昇進の階段を上っていくのは、大変だったようです。

たとえば1975年(昭和50年)の資料になりますが、(国家公務員法制定から30年あまり、初期に任用された人がそれなりの立場に出世するころです)、国家公務員の管理職にしめる女性の割合は、
6,938人のうち20人、その中でも最高の幹部にあたる指定職は、1,271人中1人という状況でした。

10年後の1985年(昭和60年)でも、総数8,118人に対して女性はわずか40人、その割合はわずか0.5%で、国家公務員一般職の総数に対する女性の割合が15%ほどでしたから、それと比べるとその低さがわかります。

最近でこそ係長クラスでは20%を超えるようになりましたが、指定職になると3.5%程度になるなど、平等な取り扱いをすると規定された国家公務員法の下でも、上級職になればなるほど女性の割合が低くなっていて、女性の登用が課題となっています。

☆☆☆国家公務員法のその後
法律は1948年(昭和23年)に公務員のストライキを禁止するなど、一部改正が行われましたが、
大幅な改正は2008年(平成20年)になります。

行政改革の一環として、人事管理や公務員の天下りを原則禁止などが盛り込まれましたが、その一方で、2000年(平成12年)に閣議決定された男女共同参画基本計画に基づいて、女性の採用・登用の拡大も盛り込まれました。

女性の積極的な採用、能力制度の徹底や人材育成の仕組みを整備、さらには育児・介護も含めた家庭生活との両立を支援できるような勤務環境の改善への取り組みが推進されています。

女性の地位向上は、国家公務員法が一つのスタートとなりましたが、その法律でさえ、実際での運用はなかなか難しく、その推進は現在も政府をあげて行われています。

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