「社会と女性と法律と」その10
【1957年(昭和32年)売春防止法施行】

~売春の防止を目的とした法律「売春防止法」~

売春の防止を目的とした法律「売春防止法」、売春をしたり、客になることを禁止している。
ということは、この法律ができるまでは、売春は認められていたのでしょうか。

☆☆☆売春防止法ができるまで。
日本には、江戸時代のころにはすでに公娼制度というものがありました。つまり、公に売春が認められていました。時台劇によくでてくる「吉原」などは江戸の有名な遊郭でした。
公娼制度は、明治になって何度も廃止が試みられましたが、関係者などの反対もあって、最後は認めるという形が続いてきました。

1900年に娼妓(売春婦)取り締まり規則ができ、娼妓は警察に届け出ることを義務づけるなどしましたが、これも公娼制度を前提としたものでした。

戦後、GHQなどの要求で、この規則は廃止され、公娼制度は名目上廃止されましたが、赤線と呼ばれた遊郭などは規制対象から外されていました。

その後売春防止法案は、女性議員らを中心に何度も議員立法で法案が提出され、ようやく1956年に可決、1957年に施行されたものです。
しかし、関係者らからの要求で、刑事処分は1年間猶予され、1958年から適用されました。

☆☆☆売春防止法の特徴
売春とは、「対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交すること」と定められています。

当然ながら、法律に違反すれば刑事罰が与えられます。ところが、単に売春をしたり、その客となっただけでは、この法律では処罰されません。

それはこの法律が、売春を行う女性を加害者としてとらえるのでなく、強制的に売春させられている被害者として救済するためのものだからです。

つまり、取り締まるのは強制的に売春をさせている人であり、働かされている女性を取り締まるものではないのです。

もちろん、法律には、「何人も、売春をし、またはその相手方となってはならない」(第3条)と書かれています。社会道徳上好ましくないだけでなく、法律上も違法行為というわけです。

しかし、売春行為そのものは処罰対象とはならず、よって客となる相手も処罰の対象にならないのです。

☆☆☆処罰されるのは
では、誰が、何をすれば処罰の対象となるのでしょうか。
第5条(勧誘)から13条まで9項目にわたって、対象となる行為が書かれています。

たとえば、「売春」の勧誘をしたら処罰対象です。公共の場で勧誘目的で人に近づいても処罰です。もちろん売春させたり、周旋したり、場所を提供したり、その業務を営むこともすべて処罰の対象となります。

しかし、「売春」は、「不特定の相手」と規定されていることから、18歳以上の女性に対価を払い、同意の上で、性行為などを行った場合は、処罰の対象とならないのです。

例えば援助交際や愛人といった形で特定の女性との関係においては処罰の対象とならないわけです。

☆☆☆法律の効果はあったの
法律が施行されると、売春業者は転業・廃業しましたが、転業の多くは、料亭や飲食店など、ある意味売春行為に親しみやすい業態に変わりました。

それまで売春婦として働いていた女性が、そのままそこで従業員として働き、その影で売春行為が行われていたケースも多々見られるようです。

売春行為は形や場所を変え、その後も続けられてきたとみられます。

☆☆☆売春防止法のもう一つの目的
この法律は、これまで述べてきたような行為等を処罰対象にするとともに、売春を行う恐れのある女性に補導や保護の措置をとって、売春の防止をすることも目的の一つです。

そのためこの法律を根拠に、全国の都道府県に婦人相談所が設置されました。

婦人相談所では、女性に関する様々な相談に応じていましたが、その後夫婦間の問題などの相談も増え、平成13年に成立した配偶者暴力防止法の影響もあって、いわゆるDV(ドメスティックバイオレンス)やモラハラ(モラルハラスメント)などの問題に対しても、積極的に相談に取り組むようになっていきます。

一覧へ戻る