It’s a 笑 time!

Episode 8

娘への誕生日プレゼントに、ピアスを作ってもらうことにした。

その前に、ここに至った経緯を話すと
ある日、夫と娘が二人で、買い物に出かけたのだが
帰りが遅いので、どうしたかと思っていたら

なんとっ!
宝飾店に寄って、二人して耳に穴を開けてきたのだ!!

実は私の耳は未だバージンなのだが(笑)
夫は付き合いだした頃には既に耳に穴が空いていて
私が最初に夫にプレゼントしたのもピアスだった。

ただ夫は、職業上、いつもピアスをつけているわけにはいかないので
いつの間にか片方の穴が閉じてしまっていた。

娘がピアスをつけたい、と
母親の私に内緒で(!)
父親と二人で談合し(?!)
とにかく父娘してあまりに嬉しそうに穴を開けてきたので
怒る気力も、拗ねる気力も薄れ……
まあ、いっかぁ
というわけで、娘の誕生日にピアスをプレゼントすることに決めたのだった。

目的を持つと、ショッピングは俄然楽しくなる。
ところが、アクセサリーを扱うお店を色々とみてまわったが
コレよ、これ、これ
と思えるモノがなかなか見つからない。
初めてのピアスなので
金属アレルギーは避けたいと18K製を探したが
これが思ったより大変で
9K製は結構あるが、いずれもデザインに閃きを感じないのだ。

そんな時、いつも行くスーパーの近くの路地裏にある
創作アクセサリーのお店に思い切って入ってみることにした。

ガラスの扉には鍵がかかっていたのでドア越しに微笑むと
中でアクセサリーを作っていたお兄さんが
工作机からこっちを見て、鍵を開けてくれた。

「Bonjour ! 娘にピアスを作ってもらおうと思うんだけど……」
と、私がフランス語で話し出すと
「英語は話せる?」と聞いてきた。
(あっ、フランス人じゃなかったんだ)
「出身は、どこのお国?」
今度は英語で聞くと、
微笑みながら
「今はもうこの世に存在しない国……名前を聞いても知らないかも」
と言うではないか…

「もしかして、ユーゴスラビア?」
「そう。ユーゴスラビアを知ってるの?」
「うん、もちろん」
と答えると、もう、傍で見ていても嬉しそうな笑顔になった。

『この世に存在しない国』発言から、ふと考えさせられた。
海外に暮らしていると、ひょんなことから話が思わぬ方向に向かうことがある。
学校で習った地理も歴史も、永遠ではないのだ。
国籍の問題も、ある民族にとっては死活問題になる。

後日、この話を日本に暮らす友人にしたら
「ユーゴスラビアと言えば…
私は、そっち系の学校に通っていたからマザーテレサを思い浮かべるけど…
メラニア夫人もそうだし
サッカー好きなら“ストイコビッチ…とかぁ」
なるほど、興味の方向性によって思い描くものが違う
と改めて感じた。

話を戻して…
この彼は、カナダに移住し
ニューヨークの学校で、宝飾製作を学び
フランスに来て3年になるという。

彼はおそらく、カナダ国籍をとったのだろう。
でも、魂はやはりユーゴスラビアのままなのだと感じた。
以前にも、カナダ国籍というシリア人に出会ったことがある。
イタリア人というが、内実はルーマニア人だったということもある。
日本人からすると
なぜ3つも4つも国籍を持っているのだろう
と思うのだろうが
国家とは何か
という根本的な問題の答えは、容易ではない。

そういえば、女性と一緒に仕事をしているのを見たことがあったので
「一緒にお仕事していたあの人は?」
と聞くと
「彼女はハンガリー出身だったんだけど、別れて、国に帰っちゃったんだ」
と…またまた話があらぬ方向へ進みそうになったので
「私は、日本人なの」
と話を別の方に振った。
すると、またまたなんだか、嬉しそうに
「そうなんだ、日本人なんだ。
以前、息子をチェスの大会に連れてきた日本女性がこの店に来て
その時、丁度、BGMに坂本龍一の曲をかけていたんだけど
急にその女性が、坂本龍一のためにアクセサリーを作ってくれない?
と言ってきたんだ。
僕は彼のファンだったし、エキサイトしながら、色々考えて
ブローチを創ったんだけど
コンサートに、それをつけて演奏してくれたらしいんだよ。
とっても嬉しかったよ~」
と、そのブローチの写真も見せてくれた。

何だかとってもご縁を感じたので
私の頭の中では、もうこの人に頼もう、と決めたのだった。

別の日、今度は夫と一緒に、来店し
私が考えたデザインを見せて、見積もりをしてもらうことにした。

娘は、将来歌手になりたい、と言っているので
音楽に関するモチーフをデザインしてみた。
で、出来上がったのが、これ。

左右非対称のデザインは
今どきの流行を追随したわけではないが
こうして、左右、別々のデザインのモノを付けているのもカワイイし
場合によっては、片方だけ…というのもカワイイと思ったからだ。

娘本人はもちろん大喜びしてくれたけど
贈った方の私たち夫婦も超ハッピー
と言うより、贈った親の方が、何倍も嬉しい気持ちになっている。

何より、娘が、ピアスをしたいと自分で決め
その娘の将来がどうなるかもわからないながら
自分がデザインして特注したことで
娘以上に、その状況に浮かれていた気がする(^^;
小さなピアスから生まれた大きな幸せって
こう言うことよね。

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