喚起のしらべ volume9

『お金』

喚起の1曲〜Money Go Round / The Style Council〜

 
 たぶん大半の人が大好きで、たくさんあると嬉しいのが「お金」。
だけど執念を剥き出しにするのは醜いし、無頓着過ぎると損をすることもある。
「お金」との付き合いって、深くて難しいなぁとつくづく思う。

 その「お金」を全面に出した曲の中で、群を抜いてカッコいいと私が感じる1曲は、
英国ロック界を代表する大物、ポール・ウエラー率いるスタイル・カウンシルの
『マネー・ゴー・ラウンド』。’83年発表のファーストEPに収録されている。

 “金は巨大な権力の中でだけ巡る” “ヤツらは武器を作るのに金を注ぎ込んで、
国民のためには金を出さない”。といった内容の、痛烈なメッセージソングだ。
ここにキレのいいビートとホーンを効かせたサウンドが絡み、圧倒的にカッコいい。
典型的な労働者階級の家庭に育ったというポール・ウエラーだからこそ出せる
リアリティだろうか。社会問題を歌うだけではなく、じゃあキミならどうする? と、
聴き手に考えさせる余地が、彼の音楽にはある。ここもポジティヴでカッコいいところ。

 ポール・ウエラーは’77年、英国にパンク・ロック旋風が吹き荒れる中、
3人組バンド、ザ・ジャムでデビューを飾った。(当時17歳)
たちまち時代や若者を代表する存在になったけれど、人気絶頂の時にバンドは解散。
その後、ウエラー氏が発足したのがスタイル・カウンシルだ。
ジャズやソウル、フランス映画など、彼が敬愛する要素を取り込んだサウンドで大ブレイク。
高感度な人が集まると言われていた日本のカフェ・バーで、当時よく流れていたとか。
ザ・ジャム時代のウエラー氏を崇拝するパンクな人々は嘆いたという話もあるが、
それはそれ。彼の本質は変わっていないので、徐々に現実を受け入れたという。
そう、ルーツとなっている音楽へのリスペクトや、常に社会と向き合う姿勢は、
ザ・ジャム〜スタイル・カウンシル〜ソロ活動を通して、ずっと貫かれているのだ。

 48歳の時に女王陛下から大英帝国勲章の授与をオファーされ、
驚き、光栄だとコメントしながらも「自分向きではない」と辞退したというエピソードもある。
本当にブレない、筋の通ったカッコよさ!
音楽やファッション含め、ポール・ウエラーの存在自体に憧れる男性が多いのも納得。
音楽と同じく身に付けているもの全てに信念があり、彼の生きざまなのだろう。
そして、彼には前妻や元恋人、現在の妻との間に、合計8人の子供がいる。
実はここも、「お金」でポール・ウエラーの曲を喚起する理由のひとつ。
大きなお世話ながら、養育費は大変な金額だろうなぁ、なんて想像をしてしまう。
発想が貧しいうちは、お金持ちへの道は遠いかな、私。

 さて、ポール・ウエラーのDNAを受け継ぐ子供の数人は、モデルやミュージシャンとして
活躍している。母親違いの子供同士は仲がいいらしい。
これも父の甲斐性と人格ゆえだろうか。きっと自分の力で得たお金を子供たちのために
正しくカッコよく使い、巡らせているのだ。何より、カッコいい人は「お金」からも好かれる。
今年、レコードデビュー40周年を迎えたポール・ウエラーから学ぶところ、多し。 

 お金を含め養う力がある人以外、決して子供8人の部分だけを真似しないようにね!
生きざまが反映される「お金」って、やっぱり深くて難しいなぁ。

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