喚起のしらべ volume6

『時間』

喚起の1曲〜Friday I’m In Love / The Cure〜

 
 楽しみな日の前日は時間の流れを遅く感じ、「早く明日になぁれ」と、空を仰ぐ。
なのに、寝過ごして焦っている朝は、「わぁ~!! 時間! 止まってください」なんて、
叶わぬ願いをぶつけてしまう。
もし時間の神様がいらしたら、さぞ呆れておいでだろう。
私は時間に対して、いつも自分勝手なことばかり望んでいる。

 思いのままにしたくても、思い通りにならないのが「時間」。
もどかしい反面、“時間が解決してくれる”と言われるように、心構え次第では味方にもなる。
こうして改めて「時間」を考察しただけでも、思いは尽きない。
そして、誰にでも平等に与えられた普遍的なものだからなのだろうか、
「時間」の流れをイメージする名曲は、古今東西数知れず。

 中でもすんなりと共感、感情移入できる曲のひとつは、
’70年代から活動を続ける英国のロックバンド、ザ・キュアーの『Friday I’m In Love』
恋人と過ごす金曜の夜が人生の全て。他の曜日はどうだっていい。無くてもいい。
と言ってもいいくらい金曜日を待ち、金曜日を愛する男性の歌だ。

 ’80年代、パンク・ロック旋風の後に興ったニュー・ウェイヴの代表格として、
よく名前が出ていたザ・キュアー。
ボーカルのロバート・スミスは真っ赤な口紅と黒いアイシャドウでメイクをしていて、
見ちゃいけないような、でも、見ていたいような、妖しげな魅力に満ちていた。
’90年代に現れた日本のヴィジュアル系バンドも、きっと影響を受けたことだろう。
ちょっとダークでヘヴィながら、根底はメロディアス。カルト・ヒーローのような存在の
ザ・キュアーだけど、この『Friday I’m In Love』は狂おしいほどポップな曲で、
全英6位、全米18位という、彼ら最大級の世界的ヒットとなった。

 月曜日、火曜日‥と順番に歌い進んでゆき、金曜日への愛を盛り上げていく、この曲。
全く雰囲気は違うものの、月曜日は市場へ出かけるテュラテュラテュラのロシア民謡、
『一週間』とも、少し共通する歌詞の構成だ。
あいうえお作文や、数え歌然り。ある意味、順番やルールのようなものに沿った進行は、
ポップの定番型なのかも。これも「時間」と同じく、普遍的なものなのかもしれない。
時間の流れがわかりやすく覚えやすいし、じゃあ水曜日は? 木曜日は? と、
次が気になり、テンポよく歌の世界へ入り込める。

 ハッピーな時間、心待ちにしている日を迎える前には、多くの試練があるのが常。
苦しい時間があってこそ、楽しい時間は輝くのだろう。メリハリが肝心だ。
ならば、ただやり過ごすのではなく、ワクワク感を持って立ち向かいたい。
そんな時にも、『Friday I’m In Love』のポップ具合と程よい狂気がピッタリくる。
29秒あるイントロのフレーズを脳内で奏でているうちに気持ちがリセットされて、
乗り越えてみせるぞ! と、闘志がわいてくるのだ。

 「時間」と上手に付き合うのは本当に難しい。
一番大切で、一番欲しいものだから、きっと私はワガママな要望をするのだろう。
まるで永遠の片思いのような状況。改善の時を待つのではなく、自ら努力をしなければ!

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