喚起のしらべ volume7

『結婚』

喚起の1曲〜Wedding Bell Blues / Laura Nyro〜

 
「結婚」という単語から真っ先に思い浮かぶのは、「結婚式」。
祝辞でよく耳にするにフレーズを借りると、ふたりで歩む人生の出発点だ。
自分が未婚で生きているせいか、結婚に対するイメージは、ここで止まったまま。

 その結婚式で、ありがたいことに披露宴やパーティ音楽のセレクトを頼まれることがある。
必ずリストアップする1曲は、ニューヨーク出身のシンガーソングライター、
ローラ・ニーロのデビューシングル、「ウエディング・ベル・ブルース」。
1966年のリリース当時はヒットしなかったそうだけど、後に男女ボーカルグループ、
フィフス・ディメンションが歌い、’69年に全米チャート1位を獲得。
ウエディング・ソングの定番と言われる名曲なのだ。

 初めて聞いたのは中学生の頃だろうか。瞬間、心の中で妄想の鐘が鳴り響いた。
柔らかな歌声、ソウルミュージックのエッセンスが香るメロディー、
シンプルで程よく抑制のきいたサウンドが、全部まとめてキラキラと降り注いでくる。
もし自分が結婚式を挙げるなら‥この素敵な曲を会場に流すぞ! と、決めたのだった。

 しかし現実は妄想の通りにならず、その機会は現在まで無い。
私は他の方々の結婚式で、叶えていない願望を実現し続けているというわけだ。
もちろん、大好きな「ウエディング・ベル・ブルース」を共有したい気持ちが第一。
女性の思いが詰まった深い歌なのだけど、決して重くならず、切なさが美しく際立つ。
これぞローラ・ニーロさんの声と、音作りの為せる業だろう。

 いつも、これからも、ずっと愛していると言える恋人がいて、姿を見れば幸せにときめく。
相手が寂しい時は駆けつけるし、自分には裏切りも嘘もない。
だけど、いつになったらウエディング・ベルを聞くことができるのかしら。
私と結婚してちょうだいと、切々とプロポーズしている歌。
結婚してくれるまで、LOVEやKISSだけでは舞い上がれない。誓いが欲しいのだと。

 想像と憶測と理想で言わせていただくと、「結婚」って、これだろう。
とても愛し合うふたりが、楽しく過ごすだけでは足りなくなり、決め手が欲しくなる。
その先へ進む選択肢のひとつが、「結婚」なのかもしれない。
そして、どちらかがブルーな時は、そばにいて味方になる。当然、浮気はダメ。
教会での誓い、“健やかなる時も病める時も‥愛し、慈しみ、貞操を守る”に通じる要素だ。
この曲が発売されたのは、今は亡きローラ・ニーロさんが19歳の時。作ったのは、さらに前か。若いのに分かっていらして、それを歌にするなんて、素晴らしい才能だなぁと改めて尊敬。

 中学生の頃は妄想したけれど、正直なところ自分自身の結婚式は絶対にイヤだった。
ただ年齢と共に考えが柔軟になり、今は家族やお世話になっている方々に堂々と
“ありがとう”が言える結婚式のことを悪くないと思っている。
演出でも無理矢理でもいい。そうでもしないと素直になれない私は、一生感謝の気持ちを
伝えられそうにもないからだ。
そこに「ウエディング・ベル・ブルース」を流すことができるなら、結婚式を挙げてもいいかな。

 まずは結婚相手か‥。

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