喚起のしらべ volume11

『仕事』

喚起の1曲〜We Hate It When Our Friends Become Successful / Morrissey〜

 
 モリッシーの曲は、長いタイトルのものが多い。
新作が届くと真っ先に曲名チェックをして、「あら。モリッシー様ったら、今回も長いわね」
と、安心するのが自分の恒例儀式。
彼特有のタイトルは単にダラダラと長いのではなく、言葉選びが素晴らしいし、
その歌の真髄が的確に集約されていて、目にも心にも痛快なのだ。

 『We Hate It When Our Friends Become Successful』も、ニヤリとするタイトル。
直訳すると、“友達が成功するとイヤな気分になるね”だろうか。
歌の中では同郷の音楽仲間がメジャーになったことをひたすら妬み、けなしている。
衣装がダサいとか老けたとか、あんなミュージックビデオ作っちゃってお笑いだぜ、とか。
さらに、成功するのは自分だったはずだと負け惜しみ、しまいには高らかに自虐‥

 ほんと、たまらないですね。誰もが持っているかもしれないウジウジした部分や
後ろ暗い世界を歌えばモリッシーは天下一品。
しかもサウンドはカラフルで、歌声が軽やかポップとくればもう、
彼が英国で絶大な影響力を持つボーカリスト、詩人だと評されているのも大・納得大会だ。
さらに、素敵なモミアゲの持ち主。シースルーや光沢あるシャツの胸をはだけ、
体をくねらせて歌うのですよ! 私はモリッシー怪しい魅力にいつも悶絶してしまう。
きっと、ご機嫌のいい時は、いつもよりクネクネして歌うのだろう。

 このシングルが発表された’92年。私は20代半ばで、自分なりに社会が見えてきた年頃。
そういえば嫉妬や自虐って、仕事社会で初めて意識した感覚かなと曲を通して気が付いた。
運動部ではなかったので学生時代に勝敗を意識した経験はなく、
勉強でも受験戦争とは縁遠い成績。競ったり比べたりする感覚がゼロで、
人は人、自分は自分主義に都合よく甘えていた気がする。
しかし、仕事社会ではそうはいかない。
たとえば、同期入社の仲間は責任者になっているのに、自分は努力せず失敗ばかり。
あの人はすごいなぁ。私は大丈夫だろうか思うこと度々。
手柄合戦、出世競争、同業他社に勝ちたい欲が渦巻く中で、人の恨み節も聞いた。
学生時代とのギャップに少し疲れていたところに降り注いだのが、
モリッシーの、このユーモラスな歌だった訳だ。
そうだな。環境や規模は違えども、ドロドロの感情はあるのだな。
自分はダメなヤツかもと思う時は、この曲みたいに流麗に表現すれば楽しいのかも♪
なんて思うと、気が楽になった。

 他に「仕事」に対して感じるものは、正直言ってほとんど無い。
周りが就職するから、先生や親が言うから、勤労の義務があるから‥と、
そこに強い意思も疑問も反発もなく、流されているだけの仕事人生。
ただ、就職と同時に1人暮らしを始めたので、“仕事=家賃・生活” という
具体的な目的ができたのは、小さな進歩かもしれない。
そして、モリッシーの歌で仕事社会の嫉妬や皮肉を認識。
仕事前に音楽を聴いてモチベーションを上げるほど意識が高くない私には、
ピッタリの応援ソングなのだ。
仕事と音楽って、人に成長をもたらせてくれるのですね。

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