喚起のしらべ volume4

『かわいい』

喚起の1曲〜Mr.Telephone Man / New Edition〜

 
 初めて買ったレコードは、沖縄出身の兄妹5人組、フィンガー5のシングルだった。
やがてフィンガー5が意識していたというアメリカの兄弟グループ、ジャクソン5を知り、
マイケル・ジャクソンが大好きになる。

 共通点は、メインで歌っていた晃さんやマイケルが、まだ10才前後で、
変声期前のハイトーンボイスであったっこと。
明らかに“かわいい”のだけど、当時は“かわいい”から好きという訳ではなかった。
自分よりも年上のスターを、“かわいい”とは思わない。
子供だった自分にとって彼らは眩しい存在であり、
あわよくばお近づきになりたい、という淡い恋心に近かったような気がする。

 そんな子供が思春期になって出会ったのは、’83年デビューのニュー・エディション。
ボビー・ブラウンはじめ、メンバーは自分と同年代で、当時は10代半ば。
歌を聴いた瞬間、「わぁ! かわいい〜ジャクソン5みたいだ♪」と、
即、恋に落ちたのだった。

 ここで気付く。
“かわいい”って、自分よりも年下の人や、小さな存在に対して抱く感情なのだと。
女子中高生は、同年代の男子よりもマセていますからね。
だから既にトップアイドルだったニュー・エディションに向かって、
恐れ多くも“かわいい”と感じたのだ。

 “かわいい”の定義は人それぞれで、年齢や時代によって変化すると思うけど、
基本、自分よりも小さくて敵わないものが、きっと“かわいい”のだろう。
『枕草子』の“うつくしきもの(かわいらしいもの)”にだって、
「小さきものはみなうつくし」とあるではないか。

 ニュー・エディションの曲の中でも特に好きなのは『Mr.Telephone Man』。
レイ・パーカーJr.作・プロデュースによる’84年の作品だ。
映画「ゴーストバスターズ」主題歌の印象が強いレイ・パーカーさんだけど、
おそらく、このソフト&メロウな音作りの方が真骨頂だろう。
 「あの娘に電話をしてもすぐ切れちゃうし、あの娘はいないと男の声がする。
この電話、きっと故障しているんだ。助けてミスター・テレフォンマン!」といった内容。

 本当はあの娘に避けられているのだと薄々気付いていても、信じたくない。
この切ない気持ちを思春期の少年が歌い上げると、たまらなくかわいいのだ。
逆に、大人が歌うと危ない人になってしまうので、やはりこの曲のムードと
思春期ボイスとのバランスは絶妙! 永遠の“かわいい”が、ここにある。
子供が大人っぽく歌う姿はかわいくても、大人が子供の真似をしても痛々しいだけ。
そこをわきまえて聴くと、味わいもひとしおだ。

 自分のメールアドレスには、New Editionの頭文字、「NE」が入っている。
かわいくて敵わない存在をいつも近くに置いていたい気持ちと、
自分も“かわいい”を忘れてはいけないぞ、という戒めも込めて。

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