吉村泰典氏
吉村泰典

1975年慶應義塾大学医学部卒。1995年同大学医学部産婦人科教授。
日本における不妊治療の第一人者。2013年3月から内閣官房参与(少子化対策・子育て支援担当)。
日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長、日本産科婦人科内視鏡学会理事長など、数々の学会の役職を歴任。

PMSとピル

また、今多いのはPMS(月経前症候群)という病気。
昔はこういう概念があまりなかった。この10年くらいですね。
日本は遅れていて、昔はなまけ病として扱われていました。月経前になると、学校に行けないとか、お腹が痛い、つらいとかね。胸がはって、腰が痛くなって、鬱になって塞ぐことが多くなります。3日間くらい寝てないとどうしようもない子もいるんですよ。
こういう子は、お母さんとか家族の理解がないと、家に閉じこもってしまう。
病気として捉えてあげないといけない。
精神的な要因もあり、治療してあげないといけない。
ヨーロッパで非常に多くなっています。20%位の女性がPMSではないかと言われている。5人に一人くらい。
日本だとまだ10人に一人くらいですね。
―――(司)PMSみたいな症状って、女性なら多少はありませんか?

程度の差はありますが、少なくありません。
日常生活に支障をきたさない程度ならいいんです。
こういう女性は、お薬、たとえばピルなどを飲んだほうがいいと思うんですよ。現在、避妊のためにピルを飲んでいる人なんてほとんどいないですよ。月経の痛みをとったり、月経の量を減らすために飲んでいるんです。ピルを飲みだすと、月経痛はだいたい3分の1以下、月経量は半分以下になります。
また月経がいつおこるかが大体わかります。ピルを飲むと怖いとか、そんなことを言っているのは日本だけです。

2000年頃にわが国でピルが解禁されて、「性が乱れる」とか言った人もいたんですよ。ピルなんか飲まなくても乱れる時は乱れるんだからね笑。全く別次元の問題なのに、そんなことを考える人がいるんです。

―――(司)笑。全く別の話なのに。

ピルは元々は「経口避妊薬」という、避妊のための薬です。でも避妊のために飲むのではなくて、他の目的のために飲む、副効用のために飲んでいる女性が多いのです。ピルを服用すると、自分の生活の計画が非常に立てやすくなる。月経の時に苦しむことはないし、体育の時の運動のパフォーマンスも良くなる。
欧米のスポーツ選手というのは、ほとんどがピルを飲んでいて、月経を調節して、一番良いパフォーマンスができる時に大会に出られるようにしているんです。こういうことはすごく大事。
私は自分の子供に、16歳から飲ませはじめた。20年間飲んでいて、やめたらすぐに妊娠しました。

??(吉田)吉村先生珍しいですよ。産婦人科に行くだけで「何の病気?」って色眼鏡で見てくるオヤジが多いのに。

それは私達も悪いんですよ。産婦人科の垣根を低めてこなかったんですよ。「妊娠以外でなんで行くのよ?」って笑。 そういう見方する人、多いです。それは事実です。
僕たちは、その垣根を取っていかなくちゃいけないんです。
欧米ではね、月経がおこると小児科に行くよりは産婦人科にまずお母さんが連れて行くんですね。産婦人科で女性の身体のしくみを学び、家庭医がピルを説明し、こういう時に飲むとか、検診はこうやってするとか、そういうことを教える。日本ではまずないでしょ。中学校で産婦人科に行くなんていったら何の病気!?みたいなね。

―――(吉田)もう、処女信仰から消していってもらわないと。笑。

男性の意識を変えるのはね、、至難の業ですよ。これは変わらないですよ。
医学部進学の学習塾みたいなところで、ピルを飲ませているところがありますね。病院に行って、薬を出してもらいなさい、って。大学受験のときに月経にあたらないように、体調を整えている、そういうところもあるくらいです。

―――(吉田)副作用はないんですか?

副作用はあります。でも注意して服用すれば問題ありません。
血栓症は増えます。日本人は元々の遺伝的な病気がある人が少ないので、海外の人より少ないはずです。
ただ、ピルを飲みだした3ヶ月間位は注意した方がいい。長期投用している場合は問題ありません。
いったんやめてまたはじめる場合の、はじめの3ヶ月はまた注意してください。
でも、ピルの副作用は本当に少ないですよ。
先進国における女子労働力率と出生率のグラフ
たとえば10万人の女性が1年間で死亡するリスク。ピルを1とすると、サッカー中に死亡する率が4。交通事故が8。喫煙は167倍ですよ。このくらいのリスクなんですよ。こういった教育が足りなかったというのは、言えるんじゃないですかね。