吉村泰典氏
吉村泰典

1975年慶應義塾大学医学部卒。1995年同大学医学部産婦人科教授。
日本における不妊治療の第一人者。2013年3月から内閣官房参与(少子化対策・子育て支援担当)。
日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長、日本産科婦人科内視鏡学会理事長など、数々の学会の役職を歴任。

インタビュー・テキスト: 司寿嶺

減り続けていく卵子

(産婦人科の)私達のところにくる人たちって、急に子供が欲しいとかね、思ってこられる方が多いわけですよ。35、6歳まで一生懸命お仕事されていて、そして38、9歳になって急に赤ちゃんがほしい、といわれてもね。
なかなかできないということがあるんですね。
産婦人科医が、本来なら若い思春期の男女に対して、正しい知識を教えてこなかったために、こうした悲劇が生まれてきている。それが私達にとって一番の反省点なんですよね。

―――正しい知識とは?

たとえば、精巣と、卵巣。男は精巣を持ち、女の人は卵巣を持っている。
精巣は精子を作るところだけど、卵巣は卵子を作るところじゃないんですよ。卵子を作っていたのは、赤ちゃんとしてお母さんのお腹の中にいたとき。5ヶ月くらいまでなんですよ。5ヶ月以降は、ずっと減り続けているわけですよね。ということは、女の子は、生まれてから卵子を作ることはないんです。そういうことを知らないでしょ。
避妊ということは大切だし、性感染症にかからないということも大事。でも、そういう知識は一生懸命教えてもらったけど、今言ったみたいな、基本的なことは教えてもらってないでしょ?

―――(恥ずかしながら)全く知りませんでした。

女性は100~200万個位の卵子を持って生まれてくるんですよ。
赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいる時(5ヶ月の時)は、700万個くらいあるんですね。それが最高で、以降ずっと減り続ける。
すなわち、20歳で排卵した卵というのは、20年経った細胞ということ。40歳で排卵した卵は、40年前に作られた細胞。

女性が妊娠できる年齢と、閉経の年齢とは違う。大体女性は50歳くらいで閉経する人が多い。長い人だと54歳、短い人は46歳?47歳でなくなる人もいるんだけれども。
閉経の10年前から妊娠できないとかね、生理があっても知らないうちに妊娠できなくなるとかね。
本来ならば一番始めに、中学くらいで教えるべきなんですよね。
皮膚の衰えや、顔の衰えは分かるけれども、残念なことに、卵巣の衰えはわからないんですね。自分では気づけない。

男性はいつも70日~80日で新しい精子が作られているんですよ。60歳になっても、数は減ってくるけれども作られる。要するに男性は、精子は、いつでも作ることができる。
女性は、卵子は、残念ながら古くなってしまう。
こういうことを言うと、女性蔑視だと言う人がいるんですよ。女の人をかき立てて早く妊娠させようとしているとか、「早く結婚しろ」と言っているとか、女性を差別している、と言う人がいます。これは差別ではなく、男女の生まれ持った差異なんですよね。

―――でも、男性も、20歳と80歳の精子では違うのではないですか?

機能は低下しています。最近はそういうデータも出ています。また、ダウン症が生まれることに関して、女性ばかりの原因だと言われています。医学的にみて大半は女性側の卵子の老化が原因なんですが、でも、男性も45歳~50歳を超えてくると子供に染色体異常などの先天異常児が生まれてくる確率は増えるんですよ。
45歳の芸能人、あるいは48歳の芸能人が体外受精で子供を産みました、おめでとうございます、なんていう報道はよく出ますよね。
でもそれは本当にごく氷山の一角で。殆どの人は40歳を超えるとなかなか妊娠できなくなる。体外受精をしても、赤ちゃんをおうちに連れて帰れる割合は、10人にひとりくらい。45歳になると100人に1人くらい。そのくらいの割合だということも、みんな知らないですよね。
私は子供が欲しくて苦しんでいる人ばっかりを見てきた。5年10年、赤ちゃんに恵まれなかった人をみてきたので、こういったことは教えておいた方がいいと思うんです。