小笠原緑氏
小笠原緑

香川県出身。高知大学人文学部国際コミュニケーション学科卒。高松にてホテル勤務、大阪での飲食店勤務を経て2016年渡独。現在はライプツィヒにある日本食レストランのシェフを務めている。

インタビュー・テキスト: 司寿嶺
―――女性が生きていくうえで生きにくいな、と思ったことはありますか?

日本ではおおいにありますね。特に飲食業界って、女性はほとんど辞めていくんですよね。
体力的にも続かないし、結婚して子供ができて夜働けなくなる、とか。あと、舌が、味覚が変わるとか。

―――え?

子供を産むと、味覚が変わるらしいんですよ。そういうのを、いろいろ聞かされて。

―――それを言ってくるのはきっと男の人ですよね?

そうです。料理の世界では、女性はキャリアを積みにくいんですよね。寿司の世界も、友人から聞いたんですけど、本当にもう男社会で。

―――日本だとほとんど男性しかいないですもんね、寿司握ってるのって。あれ、いつもなんでなんだろう?って思うんですけど。

なんか、聞いて「え??」ってなったのが、女性は、体温が高いから、って。

―――え?低くないですか?

ね。その情報もなんか怪しいんです。どこから来た情報なんだろう?って思うんですけど。
「女性は体温が高いから、寿司を握るのに向いていない」って言われるんです。たまにお客さんで、女の人が板場に立っていると、男の人に変更してくれって言ってくる人がいるらしいです。今一緒に仕事している友人は日本でも寿司を握っていたんですけど、そう言われたことがあるんですって。

―――ええ〜!ひどい。ただの女性差別じゃないですか。
私、お寿司すっごい好きなんですよ。酢飯も好きだし、魚も好きだし寿司頻度がすごく高いんですけど、日本のお店で女性の寿司職人さんっていままでお一人しか見た事ないです。むしろ女性であれ!と思うんですけど。おじさんよりよっぽど清潔だし。
話が長くなって申し訳ないんですけど、私、だいたいワイドショーって腹立つんですけど、こないだ見ていて腹立ったのが、時短料理コーナーに女性が出ていて、その後に一流シェフによる低温調理、みたいなのを男性シェフが出て偉そうに解説していて。じっくり時間をかけて低温から調理していく・・・って全くためにならないし、そんなのワイドショーを見ている主婦が家でできるわけないし、視聴者バカにしてんのかこの番組?って思ったんですけど(笑)。そういう、家で作るような、日常のなんてことない家庭料理は女のもので、芸術としての食を作るのは男ですよ、っていわれているような気がして。本当に嫌な番組だなと思ったんです。でもそうやって科学的根拠もない曖昧な理由で女性には寿司職人は無理だ、とか言ってくる人たちもそのワイドショーと同じだなと思いました。

本当に!!めっちゃそう思います!
でも、どちらかといえば、その、家で作るような時間はかからないけど愛情をこめて作る料理の方が、もう何倍も何十倍も多くの人を幸せにしてきていると思うんですよね。そんな一部の人しか楽しめないような高い料理なんかより全然!

―――本当にそうですね。そう思います。

いまのお店自体がオープンして10年くらいたつんですけど、もともとあったメニューを引き継いで、友人が料理長になってから半年後に私が入って。1年前くらいにメニューを一新したんですけど、正直、やり足りないことばかりなので、なんだろうな、アルバイトの人にも作ってもらわないといけないからあんまり複雑なこともできないし、かといって料理人だけでやろうと思ったらお客さんを減らさないとまわせないし、とか、いろいろな葛藤の中にいるんですよね、正直いま。あと値段が、やっぱりどうしても高いんですよね。

―――そうなんですか。

食材の確保にお金がかかる、っていう理由もありますけど。
あと、自分がずっと食べて育ってきたような家の味とか、どんぶりものとか、お味噌汁でもいろんな種類があるし、蕎麦とか、数えたらきりがないくらい日本食っていっぱいあるのに、その中でも寿司とラーメンと鉄板焼きくらいしかスポットライトが当てられないのはすごく悔しくて。もっといろいろな日本食をたくさん、ドイツの人も知ることができたら、もっとみんな幸せになれるのに、と思っちゃう。

―――もし将来、ここライプツィヒで自分の店を持つことができたら、こんな店にしたい、というのはありますか?いまのいろいろな葛藤の中、それを実現する術として。

いまはどうしてもところどころで化学調味料やできあいのものを使っているんですよ。そういうのを一切なくして、本当に自然なものだけで作りたいですね。特にドイツなんて、ビオとか食材も豊富だし、オーガニックなものに敏感な人がたくさんいるので、そういうものを使って、美味しい日本食を作りたいし、食べてもらいたいかな。値段も高くなく、もっと身近な、敷居そんなに高くないよ、っていうお店にしたいですね。それと、日本には寿司以外にも美味しいものがたくさんあるんだよ、っていうことを伝えたいです。

―――煮物とかきんぴらとか魚の煮つけとかね。

そうそう。海外にいる日本の人もそういう味に飢えていると思うんですよね。やっぱり和食が恋しくなってお店に行くけど、寿司とかそんなのばっかりで。でもそういうのじゃないじゃないですか、恋しくなって食べたいのって。やっぱりごはん、みそ汁、焼き魚とか。

―――今だと秋刀魚の塩焼きとか・・・。 
※取材は2018年10月

あ~!!すだち絞って食べたい・・・(笑)!

―――食の世界では女性が生きにくいとのことでしたが、ドイツではどうなんですか?

どうなんでしょうね。あ、でもパン屋さん。ドイツ人の私の友達は女性でパン職人なんですよ。その人はバリバリやっていますね。オーナーの次の、2番手みたいなポジションで。
レストランとなると夜の仕事だし、またちょっと話はかわってくると思うんですけど。

―――子供がいるから女性は夜働けないでしょ、みたいな風潮が変わるといいですね。いや、夫がいるから大丈夫ですよ、みたいに。

本当に。でもやっぱり、ドイツに来てすごく見かけるのは子供とお父さんの姿。公園とかでも、お母さんと子供の姿と同じくらいの割合で見るので、それはすごくいいなと思います。ドイツ人の友達と、ジェンダーについて話すこともあって。ドイツって、日本人からしたらかなり男女平等にみえるけど、まだまだ足りないところがある、って言っていて。
そうなんだ、やっぱりまだ私は表面しかみえていないんだな、と思うこともあります。

―――なるほど。男女関係なく生きやすい世の中になるといいのに、ですね。
最後から2番目の質問です。みどりさんにとって幸せとは?

おいしいものを食べている時と作っている時。食べてもらってその人が幸せになっている時。それに限ります、ほんとに。

―――これを最後に聞くのもなんですが(笑)、みどりさんのいちばん好きな食べ物は?

米ですね。ごはん。で、それをおにぎりにしちゃったらもっと好きだし、それを焼いちゃったりしたらもっと好きだし。米、私ほんとなんぼでも食べられる(笑)。




ごはんの話をする時、とっても幸せそうな表情になる緑さんが印象的でした。これからも食を通してたくさんの人を笑顔にしてくださいね!