小笠原緑氏
小笠原緑

香川県出身。高知大学人文学部国際コミュニケーション学科卒。高松にてホテル勤務、大阪での飲食店勤務を経て2016年渡独。現在はライプツィヒにある日本食レストランのシェフを務めている。

インタビュー・テキスト: 司寿嶺
―――ドイツにおいでよ、と声をかけられたのがいつ?

2016年の9月くらいに声をかけてもらったのかな。

―――それで実際にライプツィヒに来たのは?

11月のおわりくらいですね。30歳の時です。
店側が労働ビザを与えるよりワーホリのビザを持っている人のほうが来てもらいやすいので、それだったらいいよ、っていう話で。ドイツのワーホリビザは31歳までなので、ぎりぎり取れる年だったので。
今はオーナーのサポートがあって労働ビザに切り替えてもらうことができましたけど。

―――なるほど。タイミングも合ったわけですね。ドイツにそれまで行ったことは?

なかったです。

―――言葉は?

もう、ひどいもので、英語も、言ってることはなんとなくわかるけどカタコトでなんとか、みたいな状態。ドイツ語は全くできなかったです。

―――いまは?

いまはなんとか、ドイツ語で言っていることは大体わかります。日常会話なら。

―――住んでみて、どうですか?

一番違うのは、時間がゆっくりなことですね。
日本にいた時みたいに、まわりに家族や友達がたくさん住んでいるわけじゃないから仕事以外やることがなくて、最初は凄く困りました。休みの日に何しよう、ってなっちゃって。
日本では休みがほとんどなかったから、時間の使い方もわからなくて。いまは休みも楽しめるようになりましたけど。

―――お休みはどのくらいあるんですか?

基本は月曜休みです。たまに連休もあります。大阪で働いていた時は朝から夜中までだったのですが、ここではランチ営業はなく夜だけなのでだいぶ楽です。

―――お店が閉まるのは何時?

一応23時閉店なんですけど、なんだかんだ24時くらいまでですかね。平均すると。

―――日本料理店ということですが、どんなメニューを?

私をドイツに誘ってくれた友人が寿司を、私はその他のものを担当しています。鉄板焼きがメインですね。居酒屋メニューもあるし、日本を思わせるようなものならなんでもあるっていう感じです(笑)。

―――ドイツは大阪にくらべても暮らしやすいですか?

めちゃくちゃ過ごしやすいし、すごく健康になったと思います。ちゃんと寝られるし(笑)。

―――心身ともに?

小笠原緑氏
はい。眩暈も全く出なくなりました。 同じ月曜休みのドイツ人の友達もできたので、休日はたいていそのひとたちと料理したりしてるかな。どこかに行ったりもするけど。

―――休みの日も料理してるんですね。料理、好きなんですね。

そうですね。楽しいです。おうちで料理。

―――日本では通用するけどこっちでは通用しないことってありますか?

時間どおりに来ない、とかですかね。レストランだからいろんな業者に発注するじゃないですか、材料とかを。納品の日に「あと30分後に着くから」って電話がかかってきたとしても、余裕で1時間来ないとか(笑)。

―――ドイツって結構ちゃんとしていそうなイメージがあるのですが。

ヨーロッパの中ではちゃんとしてる方だけど、日本と比べたらそんな感じですね。

―――痛い目ににあったこととかは?嫌だったこととか。

なんだろう。嫌なことはすぐ忘れちゃうので(笑)。

―――いいことですね(笑)。では逆にいいな、と思うことは?

小笠原緑氏
ライプツィヒのレストランで働いていてすごく感じるのは、お客さんが「おいしい」っていうことをすごく言葉にしてくれること。日本でそんなお客さんってあまりいなくて、よほど顔見知りだったり常連さんとかなら言ってくれますけど、無表情で食べている人もいるし(笑)。会話はしているけど、料理に対しては何も言わずに淡々と食べるみたいな。
でもこっちではみんな、「おいしいです~」とか言ってくれます。言われると、すごく嬉しいです。

―――私もこれから言うようにします(笑)!これ美味しいな〜!って思っても、ちょっと店員さん忙しそう、みたいになっちゃうから。言っていったほうがいいですね。
日本人とドイツ人の働き方の違いを感じることはありますか?

ドイツ人のスタッフは結構、「それはわたしの仕事じゃない」ってきっぱり言いますね。

―――日本人だったらそう思っても手伝っちゃいますよね。

そうですね。そうやって人の仕事まで手を出しちゃって結局残業、みたいな、そういうことは、こっちではないですね。キッチンとホールがしっかり分かれているから、たとえば洗い物がたくさんたまっていても、「私終わったから、じゃあね~」ってホールの子は帰っちゃう。

―――それはどう思いました?

最初は、「おいおい!見てわかるでしょ!」って思ったけど、それって日本人的な考え方なんですよね。言わなければわからないんですよね。「大変だから手伝って!」って言わないと絶対手伝ってくれないし。

———言ったら手伝ってくれるんですか?

言ったら手伝ってくれます。大切な用事とかがあれば別かもしれませんけど。

———たしかに日本だと、たとえば新人の子が、先輩が仕事しているのに「じゃあ私帰ります~」とか言おうものなら、いやいや、手伝うことはありませんか?くらい聞けよ(笑)!みたいな風潮ありますよね。

私もレストランでしか働いたことないからわからないですけど、自分の仕事が終われば、帰る、だと思います。アルバイトの子とかでも、「私はもう帰りたいから帰ります」ってはっきり言いますね。そうなるともうなにも言えない。「あ、OK~・・・」って言うしかない(笑)。

———でもそれは精神的には健全なのかもしれませんね。空気読めよ的な嫌なプレッシャーが無いというのは。

逆の立場の時に自分も断ることができる、という安心感があります。

———たしかにそうですね。

だからホールの人がいくら忙しくても自分の仕事さえおわっていればもう帰っていいよね、って。

———あんたもそうしてるよね?っていう。

そうそうそう(笑)。

———日本って、みんなの首をみんなで締めている気がしますね。日本人は、なんであんなに忙しいんでしょうね。忙しいというより、忙しくしていなければならない、みたいな風潮なんでしょうね。

ね。ほんとに。休みをエンジョイしているのがなんかちょっと、なんだろう・・・悪い気がしてしまうというか。
むしろこっちでは、長期休暇から帰ってきたら自分がどれだけ楽しかったかということをみんなで言い合う集まりがあるらしくて。職場の人とか、友達とレストランとかへ行って、土産話をする文化があるらしいです。

———いい文化ですね・・・。私は今回ライプツィヒに来るために休暇をとって来たんですけど、事前に上司に報告して許可を取っているにも関わらず、来る直前にちょっと嫌な顔をされましたよ・・・。

休暇って権利なのに!
ここでは有休が年に24日必ずもらえるので、それを消化しないと逆に怒られます。月の労働時間も175時間と決まっているのですが飲食店だとそうもいかないので残業時間を記録に残しておいて、その分は暇な夏にまわして休みを取ったりしています。

———夏は閑散期なんですか?

みんなバカンスで南ヨーロッパとかへ行ってしまうので、夏は街から人がいなくなるんです。そうなると逆に月の労働時間が足りなくなるので、そこへ繁忙期の残業時間を充てて、一年を通して調整しています。
こういうことがきちんとできるのも、オーナーがドイツ人で、法律をしっかり守っているからだと思います。

———ドイツだと、病休が有給休暇扱いにならないって聞きました。すごいですよね。

そうなんです!
クランクシャインっていうんですけど、お医者さんが「病気だからこの期間は働けません」っていう証明書を出してくれるんです。私もそれで一回、ぎっくり腰をやってしまった時に3日間くらい有休と別で休ませてもらいましたが、この期間は給料が出ます。

———日本だと労働基準法で病気休暇は認められていないので、会社の就業規則に基づく雇用契約次第になるんですよね。なので基本的には有休扱いになる。有休がなければ欠勤扱い。

おかしいですよね!!本当におかしい。