吉村泰典氏
吉村泰典

1975年慶應義塾大学医学部卒。1995年同大学医学部産婦人科教授。
日本における不妊治療の第一人者。2013年3月から内閣官房参与(少子化対策・子育て支援担当)。
日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長、日本産科婦人科内視鏡学会理事長など、数々の学会の役職を歴任。

インタビュー・テキスト: 司寿嶺

やむを得ず中絶する女性を救うためには

今、毎年18万人の女性が中絶しています。戦後は100万人くらい中絶してたんですよ。
ずっと減ってきたんです。今はね、10代の妊娠も減ってるんですよ。
ただ、中絶の中に占める10代の割合は多いんですけど、全体の中絶が減ってますから。若い世代のクラミジア感染症という性感染症も減ってるんです。2002~2003年がピークで、ずっと減り続けている。
このことは性教育が徹底してきたことも一因です。もう1つは、今の若い人たちは昔に比べてセックスをしないということもあるかもしれません。性行動が変わってきているんですね。いずれにしても、10代の妊娠は減っている。それでも、いまだに18万人が中絶してるんですよ。
この中の3分の1はね、経済的な理由とか、社会的な理由とか、シングルマザーで産めないとか、そういう理由でね、やむを得ず中絶している人がいると思うんです。
そういった人に手を差し伸べるのは大切なことだと思います。
しっかり産めるようなシステムというかね、サポート、支援するシステムが、欧米ではできていると思うんですね。そういうことをわが国でも考えていかないといけない。
女性が一人でも育てていけるような環境を整えないと、簡単に少子化の危機は突破できません。

―――以前、お金をばらまきましたよね。

昔、民主党政権時代に子ども手当で1人1万5千円が出ていました。現在は児童手当になっています。
これ大体、ほぼ3兆円出てるんですよ。そういったお金が必ずしも有効に子育てに使われているとは思えません。でも、現金給付をなくせというと非常に大きな問題で、やはり貧困家庭もあるのだから。
子育て、子どもの教育などにお金がかからない、といった現物給付を増やすことも考えなければなりません。
待機児童問題なんてね、子育ての1丁目1番地です。待機児童で汲々としてたら、若い人に子供を産んで下さいとも言えません。
両親がこういうところに子供を預けたいと思ったら、預けられるシステム、お金もかかりませんよ、と。どうぞお産み下さい、というシステムにしないと。無償で学校もいける、幼稚園も保育園も行ける。そういうシステムが必要ですよね。