吉岡春菜氏
吉岡春菜

東京都出身。東京外国語大学外国語学部トルコ語学科卒。在学中トルコを中心にドイツ、ポーランドにもボランティアとして滞在。
卒業後代理店勤務、広島県尾道市でのゲストハウススタッフを経て2016年に渡独(ライプツィヒ)。

インタビュー・テキスト: 司寿嶺
―――新卒で入った会社を辞めて、その後は?

会社を辞める直前に広島の尾道に旅行したんですよ。学生時代にも一度行ったことがあったんですけど、やっぱりすごく印象がよくて。
そして会社を辞めて、とりあえず気分転換でドイツとイタリアへ友達に会いに行きました。それと、トルコの数学サマーキャンプ施設に3ヶ月滞在して、海外からのボランティアのまとめ役みたいなことをしたり。気分転換となったらとりあえずトルコに行く、っていうのが自分の中にあるので。日本に帰国する1ヶ月くらい前に、Facebookで尾道のゲストハウスの住み込みスタッフ募集の記事をみて、これだ!と思ったんです。帰ってからのことも何も決まっていなかったし、ちょうど帰国後の秋からでも入れるということだったので。トルコの山の中からスカイプで電話して、ゲストハウスのスタッフをやりたいんですけど、って連絡したら、「履歴書ください」も何もなく、「じゃあ11月からお願いします」って、あっさりと尾道行きが決まりました。

―――尾道での生活はどうでしたか?

合わなければ東京に帰ればいいと思って、最初、3ヶ月の住み込みという約束で何も考えずに行きました。そしてその3ヶ月が終わるくらいのタイミングで別のアルバイトのスタッフが辞めることになったのと、姉妹店ができることになって人が足りなくなったので、結局合計1年くらいいましたね。2015年11月からだから、11ヶ月間か。

―――春菜さんは尾道が気に入ったんですね。
吉岡春菜氏

気に入りましたね。東京の無機質な新興住宅地みたいなところで育ってきた身としては、山があって丘があって、海がすぐ近くで、古いお店もいっぱいあって。町の自然環境とか景観の良さもありますけど、やっぱり人がすごく良かったですね。とにかく方々から移住してきている人たちがまわりにいるので、刺激的でもありました。尾道、いいところです。

―――外国人観光客も多い?

もともといるし、増えてもきていると思います。サイクリングで来る人が結構多いです。しまなみ街道が有名なので。

―――そんなに気に入った場所でも、やはり辞めてしまう?

そうなんですよ(笑)。2016年の春に、ベルリンでアーティスト活動をしている日本人の男性と、ライプツィヒに「日本の家」という場所を作って活動している大谷さんという方が、尾道でトークショーをすると聞いて。ベルリンにはいつか住んでみたいなと思っていたので、「ベルリン」というキーワードに惹かれてそこに行ったんです。尾道と共通する空き家問題がライプツィヒにもあって、空き家を再生して地域の住民と関わる「日本の家」についての話をされていて、なんというかライプツィヒについての部分のインパクトがすごく大きくて。ちょっと調べたら、ベルリンの次に注目されている都市らしく、でもベルリンより物価は安い、「日本の家」という場所がある、ワーキングホリデーで行ける、っていろいろと考えて。尾道もすごく好きだし、心苦しい判断ではあったんですけど、夏の繁忙期が終わってからゲストハウスを辞めて、ライプツィヒに行くことにしました。




2016年10月にワーキングホリデーのビザで渡独した春菜さん。ライプツィヒで新たな生活を始めることに。



―――ライプツィヒではどんな生活を?

最初の3ヶ月間は、住み込みですぐに入れる場所があった方がいいと思ったのでベビーシッターをやっていました。「日本の家」にも顔を出していたんですけど、大谷さんが結構長めに日本に帰る時期があったので、彼が住んでいた部屋に代わりに私が入る形で引っ越しました。そこから「日本の家」をスタッフとして手伝い始めた感じです。

―――「日本の家」ではどんなことをしていて、どんな人たちが利用するのですか?

吉岡春菜氏

撮影:Mako Mizobuchi

「ごはんの会」というのを週2回開催しています。誰でも手伝いに来ていいし、誰でも食べに来ていい。その時のメインシェフによって日本食だったり違う国の料理だったりを作るんです。料金は一応3ユーロ程を推奨していますが、基本は投げ銭制で。それ以外にも展示やワークショップ、勉強会など、友人や地域の人たちのオファーがあればその時々に合わせたイベントをしたりしています。
いろんな人が来ますね。学生とか、普通に働いている人もいますけど、日本からの留学生や、近所のおじいちゃんとか。高齢の移民や難民の方で、自分で働くこともできなくて、国から補助は出るけどこれ以上ドイツ語を勉強するというモチベーションもなく、ただ時間がすぎてしまっているといったら悪いですけどそういう方とか。難民としてドイツに来た人たちを受け入れるインテグレーションというか、社会に溶け込ませることがうまくいっているような例もあればうまくいってないような例もあって。日本の家に来る人で孤立している人の率は高いと思います。孤立しているおじさんの集まりみたいな時がたまにあります(笑)。でも、そういうところに存在意義があるのかな、と思います。

―――ライプツィヒでの生活費は?

尾道も安かったけど、同じくらいですかね。今住んでいるところの家賃は日本円にすると1ヶ月2万5千円くらい。シェアフラットで、10平米くらいしかなくて狭いですけど、キッチンとお風呂は広いです。東京で一人暮らししようと思ったら5万円でもどうにか学生向けのワンルームがあるかどうか、って感じですよね。そう考えると設備のわりには安く住めるし、どこに行くにも自転車で行けるので交通費もかからないですし。お金をあまり使わなくてすみますね。

―――いらなくなった家具とかを家の外に出して、テイクフリーとか書いてリサイクルしますよね?よくドイツで見かけるんですが・・・。

そうですね。今日の私の服全部、靴下以外拾ってますね。

―――え??

服や靴もあるんですよ。私、ライプツィヒに来てから服を買ってないです。

―――全身?!そのカーディガンも?かわいいんですけど!
吉岡春菜氏
はい。日本の家のスタッフが、私のために拾ってきてくれました、これ。

―――(笑)。

それが習慣というか。外に出ていればそれは持っていっていいもの、という感覚です。持ってっていいよ、って書いてある時もあるし、何も書いてない時もあります。ただ単に玄関の外に置いてあったり、アパートの踊り場に置いてあったり。公園とかにブースが設けられている時もありますね。棚みたいな。そこにみんないらないものを持ってきて置いておくと、必要な人が持って行くシステム。

吉岡春菜氏

「訳:ぬいぐるみ譲ります。洗濯したのできれいです。」

―――それって、いちばんエコで、理想的なリサイクルですよね。今回ドイツ滞在中に私も見ました。おもちゃが歩道に置いてあって、メモがついていました(上記写真)。女の子2人組が通りかかって、持っていってました。

日本もそうすればいいのに、って思います。みんなあれだけものを持っているんだから。

―――逆に行政がやるなっていいますよね。人が捨てたものを持っていくなって、ゴミ置き場に書いてあったりする。そのへんの感覚がすごく違いますね。家具を捨てるのに逆にお金かかりますからね。必要な人に持っていってもらった方がよっぽどリサイクルになるのに。

ドイツでも、ちゃんと捨てようとしたらなにかしらルールがあるのかもしれないけど、ソファでもマットレスでもなんでも落ちているので(笑)

―――食べ物はさすがにない?

東の方の地区に、コミュニティガーデンみたいな団体があるんですけど、外の通りに面して棚があって、買ったけど食べきれない食べ物とかを置いて、食べ物が必要な人はそこから持っていく、っていうのはありますね。あとは普通にお店として、いろんなスーパーから賞味期限ギリギリのものを集めて安く売っているお店とかもあります。ものによってはその日とか次の日が賞味期限だったりしますけど。

―――あるんですね・・・!

食の面でも、意識的には同じかもしれないです。果物だったら、底の方にカビが少しあるかな?くらいのものでも全部が食べられないわけじゃないし、みんな得しますし。もともと賞味期限って消費期限より前に設定されているはずですよね。そういうところの合理性は日本にも多少インストールされたらいいと思うんですけど、ちょっと無理でしょうね。

―――ドイツで新しいものはあまり売れない?

そうかもしれないです。拾わなくても、古着とかを着ている人は多いです。個人間でやりとりできる、いらなくなったものを譲ります、みたいなサイトも発達していますね。写真と値段がサイトに載っていて、自転車10ユーロとかで、直接やり取りできます。「明日のこの時間に見にきていいですよ、よかったらそれで持っていってください」って知らない人の家に行って「連絡した者ですけど、自転車みせてください」みたいな。そういうことが普通にありますね。引っ越しする人が食器から何から、いらなくなったものを出していたり。そういう環境だから、お店に行って買うのは最終手段。とりあえず中古をみてみよう、ってなりますね。

―――日本にも個人間で中古販売するサイトはあるけど、あれは人に会わないですしね。

そうですね。全然知らない人にメッセージを送って普通に会いにいくって不思議なんですけどね(笑)。気に入らなければ買わなければいいし。
このシステムはいいですね。

―――日本でやったら犯罪に使う人が多そう・・・。知らない人のところにいくのが、日本だと怖いって思っちゃいますよね。

ね。なぜなんでしょうね。
それと、物だけじゃなくて、普通に「家」とかもお宅訪問みたいに見せてもらいにいったりするんですよ。

―――不動産屋ではなくて?

個人間です。もちろん不動産屋もありますけど、シェアハウスの店子っていうんですか?借りている人が変わる場合、他の部屋のメンバーと合うか合わないかっていうのもあるので。それもウェブサイトを通して見に行って、会ってちょっと話したりして。
なんですかね。知らない人のところへなんやかんや、行きますね(笑)。