吉村泰典氏
吉村泰典

1975年慶應義塾大学医学部卒。1995年同大学医学部産婦人科教授。
日本における不妊治療の第一人者。2013年3月から内閣官房参与(少子化対策・子育て支援担当)。
日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長、日本産科婦人科内視鏡学会理事長など、数々の学会の役職を歴任。

インタビュー: 司寿嶺 吉田みか    テキスト: 司寿嶺
―――(吉田)今になってママ友と話すと、20年前に産婦人科の先生に言われていたことがみんな違うんです。

子育てに関する母乳の考え方とかも違うしね。あなたの時はそんなに母乳母乳って言われなかったんじゃない?

―――(吉田)社会は言わなかったけど私の先生は言っていました。

ああ、そういうお医者さんによっての違いは少しあるかもしれないね。
でも母乳の方がいいに決まっているわけだし。だけど、僕がいつも言うのは、母乳を1年間やっていたらね、育休とらざるを得ないでしょう。一生懸命働いている人に対しても、多様性を考えてあげなくちゃいけない。その女性に合ったライフスタイルを提供してあげなくちゃいけないと思いますね。
僕は「絶対母乳じゃなくちゃいけない」とは言いません。母乳の中の大切な成分が赤ちゃんに移るには3ヶ月くらいかかります。赤ちゃんは、はじめ免疫がないので、お母さんからもらうしかないんですね。母乳からもらうことになるんです。 初乳、つまり1~3ヶ月間は大事だけど、それ以降はね、その人のライフスタイルを考えて、仕事をしたい人には母乳を止めるということだって必要だし。そういうことを考えてあげるべきだと思います。

―――(吉田)こちらは医者に言われるがままなので。母乳とかいわれても出すのこっちだし。男の先生に言われても、いやいや、あんた母乳出したことないだろ、って。笑。

たしかに、おっしゃる通り。
やっぱり、企業なんかも、もう少しいろんなことを考えるべきだよね。
いろんな意味のハラスメントってあると思うし。それは肉体的とか精神的とかそういうことじゃなくてね、たとえば不妊治療をやりたいなと思っていても、その人が明日会社を早引きするとか、遅れてくるとか、そういうことってなかなか言いにくい。不妊治療なんていうのは、3週間後のこの日休みますから、とかって言えないんですよ。タイミングがありますから。要するに月経周期とのタイミングで、急に来週の月曜に来てください、とか言われるわけですよ。そうしたらなかなか休めないとか、そういうことになってしまう。そういうことってやっぱり企業がケアすべきですよね。

―――(司)妊活で仕事を辞めてしまう子もまわりに結構います。

―――(吉田)上司に言いたくないっていうのもあるよね。

それは、日本独特ですね。海外では自らの意志で休暇を取ります。社会が許容しています。

―――(司)女性の上司ならまだしもオジサン上司に言いたくないです。笑。

でもね、今はね、少しずつ変わってきてるんですよ。男性の管理職、上司に対して、そういった教育もあるんですよ。要するに、男性に女性の体の特徴を知ってもらう、それも大事なこと。そういったことも始まりつつありますから、少しずつではあるけれども変わってきている。

―――(吉田)今の管理職世代は「男だから泣くな」とか、「女だからちゃんとしろ」とか刷り込まれているから可哀想ではありますよね。


性別役割分担意識が強い日本人

内閣府の意識調査データ「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」円グラフ
本当に、日本人独特のことなんだけど、性別役割分担意識が刷り込まれているんです。これ、僕は非常に驚いた内閣府のデータなんだけど、「夫は外で働き妻は家庭を守るべきである」と男性は40%以上そう思ってるんですけど、女性もそう思ってるんですよ。

―――(吉田)役割分担って言われたら子供は夫よりも私が育てたほうがいいし、女性だからこそできることとか、女性で得してることっていっぱいあるので。そう思う女性を生きやすくしてくれれば産むと思いますけど。鼓舞するばかりじゃなくてうまくすくい上げてくれれば。

一世代前の女性ですね。笑。
今の女性はそう考えないですね。

―――(司、頷く)

―――(吉田)そう考えないので、自分で自分を辛くしてるな、って思う。

それは男性にとって都合のいい女性ですね。
今はね、随分変わってきているけど、やっぱり子供を持つということを言えないようなね、状況になってるんですよ。 子供を持つか持たないかは自由でしょ。でもね、子供を持った人は、持って本当に良かったと思っているんですよ。苦労しても、やっぱり素晴らしいと思っているわけです。それがなかなか言えない。ですから、言い方としてはね、「子供を持つということを選択されるならば」と、前置きが必ず必要なんですね。そういう言い方をしないといけない。僕は子供を持たなかった夫婦をたくさん知っている。そういう人に対して子供の話はできないですよ。非常にデリケートな問題ですから。

―――(吉田)僕がいうと差別だって言われるって先生はおっしゃってますけど、私が言っても「あのおばちゃんうるさいな」って言われるけど差別とはとられない。