吉村泰典氏
吉村泰典

1975年慶應義塾大学医学部卒。1995年同大学医学部産婦人科教授。
日本における不妊治療の第一人者。2013年3月から内閣官房参与(少子化対策・子育て支援担当)。
日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長、日本産科婦人科内視鏡学会理事長など、数々の学会の役職を歴任。

インタビュー・テキスト: 司寿嶺
戦前の女性と戦後の女性を比べるとね、初経は、3年ほど早くなったくらいで、閉経の時期は全くかわってない。
この間に平均寿命は20~30年くらい伸びていますよね。
ところが生殖年齢は全く変わっていないんですよ。
昔は20代の頃からたくさん子供を産んでいましたよね。今は30代後半から1人産むか2人産むか、が多いですよね。
月経にさらされている期間というのは、昔はものすごく少なかったわけです。妊娠中はないでしょ。母乳をやっていると、なかなか月経はこないでしょ。
つまり、初経が早くなったことと、初産が遅くなったこと、出産回数が少なくなったこと。これにより、今の女性は月経にさらされている期間が非常に長くなっています。そうするといろんな病気がおこりやすくなってくる。その典型が、子宮内膜症です。ある種の現代病ですね。

また、性成熟期に出てくる病気、子宮筋腫とかね。こういった病気はある一定の年齢になってから発生してくるわけですよ。
昔は筋腫ができる頃には分娩が終わっていました。30代でお産を終える人が多かった。
今は筋腫ができているときに、ちょうど妊娠するという状況になってくるわけです。子宮筋腫というのは3割から4割の人が持っていますから、珍しい病気ではありません。
40歳とかになって、筋腫が大きくなってから妊娠するということになると、妊娠合併症も増えてくるわけですよ。
ライフステージの変化によって病気も変わってきている。
こういったことをしっかり理解していかないといけないですね。


子宮頸がんは将来日本の風土病に?

子宮頸がんワクチンについては、ワクチンがダメだと言っている人の声は聞くけれど、いいと言ってる人の声は何も聞かないでしょ。これだって非常に大きな問題ですよ。子宮頸がんを予防できるのはワクチンしかないんですね。
今4年間、子宮頸がんワクチンの積極的勧奨を中止しているわけですよね。今の若い人たちはほとんど打ってないんです。10年後には日本の女性しか子宮頸がんにならない状況になってしまうおそれがあります。今、欧米では子宮頸がんはどんどん減ってきています。4年前に積極的勧奨をやめたというのは大変大きな問題だと思いますね。
子宮頸がんになる年齢はというと、20代の後半から30代にかけてピークがあります。
20代に子宮頸がんになった場合、妊孕性の温存ということを考えなければなりません。進行していれば子宮をとらなければならなくなる人も出てくる。だから乳がんよりも問題なんですね。
子宮頸がんワクチンを打つというのは、妊孕性を守るという意味でもすごく大事なことなんですよね。女性を守るという意味でね。
でもそういうことって、マスコミも事実を伝えようとしないんですね。
子宮頸がんワクチンを打てなかったことによって、子宮頸がんになりましたといって訴えられる時代がくるかもしれません。わが国は、WHOからも何度もワクチン接種を再開するよう勧告を受けています。

———(司)ワクチンによる副作用とか、悪いことの方が伝わりやすいですよね。

そう。日本では、10万人のうち数人に副作用が起こった時に、これを大きな問題とするわけですよ。たとえば欧米では、10万人のうち5人おこっても、99,995人が助かればいい、というものの考え方をする。でも日本は5人に副作用が発生すると大きな問題だ、ということを言うわけですよね。
ワクチンの副作用がゼロ、ということはないと思います。10万人に5人とか、数人の割合で起こりえます。しかしその時にやめるか、やめないかっていうのはね、やっぱり国として考えなければならない。そうじゃないと、99,995人を守れなくなる。現在でも子宮頸がんで3,000人の女性が毎年亡くなっているわけですから。
風疹がそうでしたね。今から4年前に先天風疹症候群という、小さな子供の耳が聞こえないとか、心臓に奇形があるとか、いろんな病気をもつ子どもが生まれました。日本しかないんですね。世界では起こっていないです。なぜかというと全員ワクチンを打っているから。

面白いことにね、子供が1984年にアメリカに行ったんですね。そして小学校に入る。日本では、検査で普通は抗体価があるかどうかを調べますよね。抗体がついているかどうかね。
抗体を調べてくれと言ったんですよ。そうしたら、アメリカの小児科医はそんなことは面倒くさいと。「だったらはじめからワクチンを打て」と言ったんです。
ワクチンを打ったという証明がないなら、何度でもワクチンを打つんです。

わが国では先天風疹症候群を40人もおこしたわけですよ。その子供達は可哀想ですよ。そういうことに対して問題視する人はいないんです、マスコミも含めてね。

天然痘って病気は撲滅しましたよね。これはワクチンでなくなったんですよ。要するにみんなが免疫を持つようになって天然痘にかからなくなったら、天然痘って病気は発症しないですよね。感染症をなくすにはワクチンしかないんです。これは検診では治らない。検診では、早期発見はできても治らないんです。