嶌田陽子氏
嶌田陽子

広島県出身。
青山学院大学文学部日本文学科卒。東京学芸大学大学院教育学研究科修士課程修了。
日本語教師としてベトナム、マレーシア、中国へ赴任。2005年よりJICA日系社会青年ボランティアとしてブラジルで日本語学校教師を勤める。
現在は2児の母として子育てをしながら日本語学校に勤務中。

インタビュー・テキスト: 司寿嶺
―――陽子さんが日本語教師になろうと思ったきっかけは?

高校の時に、「蛍雪時代」っていう本を見ていたら、そこに「日本語教師」という仕事が紹介されていたんです。もともと、海外で仕事がしたいと思っていたので、日本語教師なら海外に行けるかなと思って。

―――海外への憧れみたいなものは、昔からあったのですか?

海外の旅番組のレポーターとかに憧れていました。いろんな国に行けていいな、と思って。いろんな国に行って、いろんな人やその生活を見たかったんだと思います。

―――初海外は?

大学の時に、友達と、パリ、イギリス。
アビーロードの横断歩道で写真撮ったり。普通の観光旅行です(笑)。

―――日本語教師になってからはいろんな国に行かれていますよね。

最初はベトナムに派遣されて、その後マレーシア、中国。一番滞在期間が長かったのはブラジルですね。

―――日本語を現地の人に教えるんですよね?対象はそれぞれどんな方達だったんですか?

ベトナムでは、ホーチミンにある「さくら日本語学校」というところにいたのですが、社会人が多かったです。マレーシアでは、高校を卒業したばかりの子たちへの留学前準備クラスを担当していました。

―――中国はどちらへ?

吉林省の長春です。中国の優秀な人材を留学させる団体があって、中国全土から選ばれた優秀な医者が日本に研究のために留学するんです。その直前の日本語研修という形で教えてたんですけど・・・ものすっごく頭がいいんですよ。

―――覚えるのが早いとか?

すっごく早い。「今日はすごい寒いですね~」って私が言うと、みんな「えっ?」ていう感じで頭を上げるんです。「それは文法的に間違っているのでは・・・!?」って。正しくは「すごく寒い」なのでは!?って。
そういう細かい言い回しにもすぐ気づくし、それをすぐに吸収していくんですよね。13億のトップってすごい!!と思いました。

―――それぞれの国にはどのくらい滞在していたのですか?

ベトナムは100日間。マレーシア3ヶ月、中国には半年いました。
家庭を持っていると難しいけれど、その時の自分は独身で身軽だったので。「今度ここ誰か行ってきて~」「はい!私行きます~」みたいな感じで派遣されていました。海外赴任して、戻って日本で教えて、そしてまた海外赴任して、を繰り返していましたね。

―――中国から戻ってきてからは?

高田馬場にある日本語学校で教えていました。中国人、韓国人、ベトナム人など、アジア系の生徒が多かったのですが、その中に日系ブラジル人の男の子が1人いたんです。その子が、どの生徒よりも礼儀正しくて。授業が終わるといつも私のところに来て、「ありがとうございました」ってお礼を言って帰るんです。それがすごく印象的で。その子に出会ったことがきっかけで、ブラジルの日系社会に興味を持ったんです。そして27歳の時にJICAの青年海外協力隊に応募しました。

陽子さんの転機は27歳の時。
青年海外協力隊に所属し、長期的に海外に行くことを選択。
ポルトガル語研修、南米に関する一般知識研修などを経て28歳から2年間、日系社会青年ボランティアとしてブラジルへ派遣されます。

嶌田陽子氏
―――ブラジルはどうでした?

面白かったです!はちゃめちゃで。
カポエイラを習っていたので、現地のブラジル人の人たちとの交流もあったのですが、彼らは本能のままに生きていて、日本人とは対極的。
それに比べると日系人で、日本人の血が流れている子たちはやっぱりちょっと控えめな感じでしたね。
でも、基本的にはみんなポジティブ。国土が広いからなのか、とってもおおらか。
買い物に行って、いきなりぺちゃくちゃ店員さんとしゃべりだすから、「友達?」って聞くと「ううん、初めて会った。」って(笑)。
子供たちがサッカーをしていると、大人が入ってくるんです。「入れて~」って言って。その逆もある。全然知らない人なのに、そうやって大人も子供も一緒にサッカーをしているんです。

―――垣根がないんですね。

そうなんです。買い物をしていた時、パン屋のおばちゃんが「私、あなたの学校のなおみと友達よ。」って話しかけてきたので、「ん?なおみって幼稚園のなおみ??」って聞いたら、当然よ、っていう顔で「そう。友達なの。」って言うんです。
ブラジル人って年齢関係なく友達っていうんだ・・・!パン屋のおばちゃんと幼稚園児が友達だなんて、すごく素敵だな、と思って。 人と人との壁がないんですよね。それはすごく、いいことだな、って。

―――世話焼きな国民性なんですかね?

そう思います。すごく、世話を焼きたがる。道をきいても、知らないって誰も言わないし。

―――知らなくても?

そう。知らなくても(笑)。
なんか、みんなで相談して、教えてくれたりします。でも間違っていたりする(笑)。
なのに知らないとは言わないんですよね。悪気はないの。

―――なんでですかね?

人を助けたいんじゃないかな。

―――いい文化ですね。

北東部にレンソイス・マラニャンセス国立公園っていうところがあるんですけど、雨季には砂丘の中にエメラルドグリーンの湖が現れるんですね。
晴れると水の反射ですごくきれいなのですが、私が行ったときは曇り空。バスツアーに私ひとりで参加して、まわりは知らないブラジルの人たちで。
そのうち雨が降ってきて、バスの中で「あ~、もう。せっかく来たのに全然綺麗に見えないよ」と思っていたら隣の人が、「ようこ。私たちは本当にラッキーよ。こんな天気のこんなレンソイスで、雨を浴びられるなんて!こんなレンソイスはなかなかないわよ!」って言われました。

―――ポジティブ・・・(笑)!

なんかうらやましい、このひとたち。って思いました(笑)。
バス旅行とかでも、到着まで12時間かかってやっと着いたら「着いたぞ~、イェ~イ!」みたいにいちいち盛り上がる。
「ようこはポジティブだ、ラテンぽい」って日本では言われていたけど、ブラジルに行ったら、わたし全然ラテンじゃない!と思いました。レベルが違う(笑)。