スプツニ子!氏
スプツニ子!

アーティスト。テクノロジーによって変化していく人間の在り方や社会を反映させた映像、音楽、写真、パフォーマンス作品を制作。最近の主な展覧会にバイオ技術から生まれるファッションの未来を想像する展覧会「bionic by sputniko!」「第3回瀬戸内国際芸術祭」(ベネッセアートサイト常設作品2016)など。2017年より東京大学生産技術研究所RCA-IISデザインラボ特任准教授に就任。2016年4月〜NHK「スーパープレゼンテーション」のMCを務める。著書「はみだす力」(宝島社)

インタビュー・テキスト: 司寿嶺

母がイギリス人、父は日本人という環境で育ち、日本の公立小学校に通っていたというスプツニ子!さん。
両親ともに大学教員で忙しく、子供時代に日々食べていたものとは・・・?

私の母は、全然お弁当とか作らなかったです。両親はよく仕事帰りにケンタッキーとかスーパーのお弁当とかを買ってきてくれていました。
クラスメイトの家に行くと、豪華な手料理とか出てくるじゃないですか。たまに友達の専業主婦のママに嫌みを言われるんですよ。「あなたのお母さんはこんなご飯作らないでしょ?」って。

———子供に言うんですか、親が?ひどいですね。

結構言われたのを覚えてますよ。
そんな嫌味を言われた時は「うちのお母さんは頑張って仕事してるんだから!!」って口に出しては言わなかったけど、心の中で思っていました。
母からは、変に「ごめんね」なんて言われずに「お母さんは大好きな仕事を頑張ってるから、だから今日のごはんはケンタッキーなの。誇りに思いなさい!」って言われて、ポジティブに洗脳されたのも良かったんだと思います(笑) とにかく当時はチキンを頬張りながら「うちのお母さん、かっこいい!」って思ってました。

「頑張りすぎないことが大切」

イギリスとかアメリカってお弁当とか適当じゃないですか。
りんごとピーナッツバターサンドイッチだけとか。
そもそもお弁当の社会的な期待値が低い。(笑)
でも、日本って求めるクオリティが本当に高いですよね。
中高時代は、ランチ代をもらってサブウェイのサンドイッチを買って食べてました。それで私も育ったし、育ち過ぎて身長が174センチもあるし、なんだかんだいって子供は勝手に育つんですよ。
日本の女性って「母たるもの、毎朝お弁当をつくらなきゃいけない」とか、「これをやるのが母親の最低ライン」とか、自分を追い込んだり、どれだけ母親業を頑張っているかをSNSで見せてあっていて窮屈になっていそうだな、と思います。「全てを頑張りすぎないこと」って大事だと思いますけどね。

「家事は女の子だけのものじゃない」

料理を子供に教えるっていいことだと思うんですけど、日本でちょっと気になるのは・・・女の子だけに教える家庭、あるじゃないですか。男の子には教えないで、女の子にだけ教える。料理とか、お片づけとか。
そうすると男の子は、子供の頃から「俺はやらなくてもいい」って思っちゃうんですよ。それはおかしいですよね。あれは悪ですよ。

―――うちの両親がまさにそれでした。あの価値観がとっても嫌で。「女の子なんだから」っていう枕詞をすぐつけてくるんですよ。「女の子なんだからきちんとしなさい」とか。

いまだに若いママでもそういう人いるじゃないですか。
女の子にしか家事を教えない人。
料理や片付けは、女性だけの役割じゃないですよね。
私が女性だからって、「こうしなさい。これはダメ。」とかいう空気は、私の家の中には微塵もなかったです。

―――2013年から2017年までマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ助教を務めていたスプツ二子!さんですが、日本とアメリカを行き来する中で女性に対する社会の価値観の違いを感じることはありますか?

アメリカの学生の女の子たちはパンクだし、挑戦的なことも言うし、挑戦的な作品も作る。社会的にもアファマティブ・アクション(積極的差別是正措置)が浸透していて、新しい先生を採用するときも男女比率をちゃんと考えて採用します。
そもそも男性が多い形で学問や経済がこれまで何百年も続いてきているので、評価軸というか、評価する側のコミュニティに男性がやっぱり多くて、どうしても男性を評価して入れてしまいがちなんですよね。考え方も似ているし。
でもそこは意識して、女性だったり人種にも配慮して採用比率をあげて、教員のダイバーシティにつなげようというのを意識的にやっています。

「女性の声を反映するという意識を」

日本の場合、東京オリンピック関係で未来を語る会議があったとしても、会議のメンバー7人全員男とか、シンポジウム登壇者20人全員男、とかで構成されてしまっていますよね。
開催側がアメリカやイギリスなら、ふと立ち止まって「女の人が1人もいない」と気づいて登壇者のバランスを考えると思うんです。日本はまだそれさえも自覚がない。
20人全員男性でも、平気でやってしまう。
いませっかく未来の東京を考える時期なのに、そうやって日本の男性中心で考えていろいろやってしまうと、女性の問題がうまく解決されないんじゃないかなと思います。保育園の問題もそうですよね。
いままでずっと足りてないのに、しかも少子化で、子供の数も減っていて。それで「女性が働こう」とか言ってるのに保育園が足りないって、マヌケですよね。いままで女の人の意見をちゃんと聞いてこなかったツケがまわってるんだと思うんですけど。
「多様な声を反映させよう」という意識が、もっと日本にあったらな、と思います。