佐藤珠江氏
佐藤珠江

岡山県出身。
7才より、クラシックバレエを始める。2004年渡独。ジャズダンスをDarren Perkinsに師事。
師のグループで活動しながら、DANCEWORKS berlinでグラハム、カニングハム、ホルトンなどのモダン、ヨガ、ピラティス等を学ぶ。
2006年より、オランダのCodartsでコンテンポラリーダンスを始め、現在は関東を拠点に、バレエやコンテンポラリーの舞台に参加。

インタビュー・テキスト: 司寿嶺

2015年に結婚し、第1子を出産。妊娠中も臨月まで踊っていたという珠江さん。

―――妊婦さんだとやっぱり動き方って変わりますか?臨月までレッスンを受けていたということですが、おなかをかばった動きになったりするのですか?

ううん。かばいはしないんだけど・・・

―――足があがらなくなったり?

上がるんですよ!それが。

―――えー!

逆に、後ろには上がらないんです。おなかの皮膚がひっぱられているから、後ろに足をあげるとおなかがつっぱるみたいな感じになって。前は上がるんですよ。

―――バレエのバーくらいあがるんですか?

あがるあがる。

ーーー妊婦さんすごい!!

でも、ジャンプの着地がきつかったですね。バレエなのでつま先をピンって伸ばしておりる、つまさきでとんでつまさきからおりる、っていう動きをするんですけど、自分の体重を足でクッションにしてさらに膝もクッションにして受け止めてさらに次のジャンプを飛ぶ、みたいな感じなんですね。体重が妊娠によって重くなっているから、その着地が辛くて。
あと、16~32回まわり続けるっていう振りがあるんですけど、いわゆるバレリーナ的な、つま先を立ててくるくるまわるのをやると、おなかが置いていかれて、ぶん、ぶん、みたいな反動があとからくるのが面白くて何回もやっていました(笑)。

―――出産後、体は変わりましたか?

おそらくすごく変わったと思うんですけど、前はこんなことできたのに!って思わないようにしていましたね。筋肉も落ちているし、妊娠前にできたことが産後できなくなるっていっぱいあると思うんですよね。
出産して1か月後にレッスンを受けたんですけど、なんにもできなくて、体がバラバラ。どこになにがあってどうやって立てばいいのかわからない、定まらない感じでした。
でも、せっかくだからこれを機に以前の感覚を取り戻すのではなくて、なにか新しいことができないかな、と思って。産後1年間は授乳もしているし、女性っぽい身体つきになって、その後断乳してやっと少しずつ体も締まってきて。これからどんなふうに踊れるようになるのかな、と思っていたら半年くらいしてまた妊娠しちゃいました(笑)。

―――2人目の時も臨月まで踊っていたのですか?

いいえ。今度はちょっと事情が変わって、上の子を保育園に入れるために自分もフルタイムで働かなくてはならなくて。週4フルタイムでバイトして週1でレッスンの講師をしていて、自分のレッスンをする時間が全くなかったです。1人目の妊娠中は週3でレッスンを受けていたので、それが月1くらいに変わってしまって、全く体を動かせていない感じでしたね。
時々しかレッスンを受けられないから毎回しんどくて。踊っていて恥骨とか仙骨あたりが痛くなってきてしまい、これは踊るなっていうことだな、と思ってやめました。
だから2人目の時は、生まれる1か月半前くらいから全く踊っていなくて・・・つい最近やっと復帰したんですよ。

―――フルタイムで働かない、専業主婦という選択肢はなかった?

レッスンにも通えなくなってしまいますしね。一時保育にちょこちょこ預ければ行けるけど。舞台になんて立てないですよね。実家が近ければまだしも。
それよりはフェルデンクライスを生かしたことをお家でお客さんを呼んでやりたくて。ということはもうちょっと広い家に引っ越したい。だから今はお金を貯めたいですね。それもあって働こうと思って、専業主婦ではなく子供を保育園に入れて自分も働くことを選びました。

―――バレエ教室で子供たちにも教えている珠江さんですが、ご自身の息子さんたちに教えたりはしないのですか?

うーん、、、なるべく私を介入させないで、彼らが自分で成長していってほしいし、それをみていたいっていう感じかな。私がこうしなさい、って彼らにいうのはちょっと違うというか。
教えるって、すごく・・・なんだろうな・・・子供っていろんなもの秘めていて、いまから何色にでも染まることができて、たくさんの可能性があるから、それをこうだよ、っていうふうには言いたくないんですよね。あなたはそういうこともするのね、そしてこういうこともするのね、すごいねえ、って見ていたいかな。
彼らがどうやって何を選ぶのかな、って見ていたいです。それが一番の希望ですね。

―――お子さんたちは、ママが踊っているところもみているんですよね?

みていますね。舞台で私が踊っているところも上の子は見ています。

―――それで自分で興味をもってきたら?

その場合は教えるかな・・・でもあまりバレエは教えたくないかな・・・。バレエって型があってルールと決まりがいっぱいあることだから、これはこうこれはこう、って教えるのがあんまり・・・やりたいならいいけど・・・。

―――よくなさそうな言い方(笑)

(笑)。それより、もうちょっと自由に踊るとか動くってことをやってほしいな、息子たちには。

―――バレエという基礎があったほうが、強みになるような気もしますが。

基礎があることの良さと悪さがあるんですよ。バレエをやっているからこそできないこともあって。

―――たとえば?

たとえば、、、私の場合ですけど、、、ヒップホップダンスが本当にできないんですよ(笑)。

―――へえ!

そういう感じ。バレエをやっているがゆえに。音どりが根本的に違うので。それに、まず立ち姿からして違う。バレエって上じゃないですか。背筋が伸びて、上、頭が天井にひっぱられているイメージ、そこからさらに上に上にあがっていくイメージでしょ。でもこのヒップホップって、なんていうの?・・・横?
猫背気味でこう揺れる・・・独特な立ち姿(珠江さんちょっとやってみてくれています)・・・できないんですよ(爆笑)!カッコいいしやってみたいな、って思っていざやってみたら全然できなくて笑っちゃった。

―――(笑)!頭でまわるみたいなのも?

そう。そういうのもやってみたいじゃないですか。
ヨガもやっていたから、頭で立つこと(ヘッドスタンド)はできるけど、ヒップホップダンサーみたいににまわることはできない(笑)。鏡に映る自分の姿の不細工なこと不細工なこと。それが本当にショックで(笑)。

―――ダンスにもいろいろあるんですね(笑)。
さて、最後から2つ目の質問なのですが、珠江さんにとって幸せとは?

幸せ・・・私もだけど、夫と、息子たちが、幸せだと感じることが、私の幸せかな。これからも夫とお互いのやりたいことを尊重し合って、サポートし合っていきたいです。お互いが生きたいように生きていきたいな。どちらかが我慢する、とかではなくて。
そして息子たちにも、元気で、たくさんの素敵な人に出会って関わっていってほしいなと思います。
日々過ごしてる中で、自分はこういう生き方ができていて幸せだな、と思います。
努力する、挑戦する、学ぶ、考える、新しいことを吸収する、そういう欲求が尽きない生き方をすることが、イコール幸せ、なのかも。

―――最後に、今後の夢、または目標は?

フェルデンクライスを生かした仕事をしてみたいのと、ダンスは本当に細く長くでいいので、続けていきたいです。自分の体を動かすことには、ずっと興味をもっていたいですね。
あとはチャンスがあれば、自分に子供がいることをわかってくれる人で、スケジュール調整してくれるところがあれば舞台に立ってみたいっていうのもなくはないけど、とりあえずいまは、もう少し広い部屋に引っ越したいです(笑)。

本当に踊ることが大好きな珠江さん、インタビュー中も身振り手振りで語ってくださり、その表情と口調にはダンスへの情熱があふれていました!