Yumi Nagashima氏
Yumi Nagashima

東京都生まれ。4歳より埼玉で育つ。
バンクーバー初の日本人女性スタンドアップコメディアンとしてその稀有な存在感とユニークな視点がいま注目されている。2016、2017年ともにスタンドアップコメディの登竜門であるYuk Off Competitionのファイナリストに選ばれる。
女優としての代表作はドラマ「高い城の男」ドラマ(原題:The Man in the High Castle) 映画「Dark Harvest」など。

インタビュー・テキスト: 司寿嶺

普段はカナダに住んでいるYumiさんがちょうど日本に帰国している時に、インタビューをさせていただきました。
「日本人で、女性で、カナダで、スタンドアップコメディアンとして活動している」 と聞いただけで、質問したいことが山のように頭に浮かんでくるのですが、順を追って、ひとつひとつお聞きしていきたいと思います。

———Yumiさんは、もともと日本で芸能活動をされていたんですよね?いつ頃の話ですか?

大学在学中です。事務所に所属して。再現VTRに出たり、ちょっとした雑誌の「ダイエット体操頑張ろう!」みたいなモデルの仕事をしたり、CMに出たり。

———小さい頃から芸能界に憧れがあったのですか?

小学校の卒業文集には「サーカスの空中ブランコの人になりたい」って書いていました(笑)。今思えば、昔からパフォーマーという枠に憧れていたみたいです。本当は大学も演技の方に進みたかったのですが、落ちてしまって。教科で一番好きだったのは英語だったので、英文科に進みました。

―――大学卒業後も芸能活動を?

いえ、一旦辞めたんです。でも、企業に就職するっていうのはなんか違うなと思って、最初は洋服屋さんで働いて、その後事務職を経て、英会話の子供校の先生になりました。そこで、カナダ人の元夫に出会ったんです。
彼はバンクーバーの人で、1年間教師として日本に滞在していたんです。
契約満了で帰国することになって、彼に「バンクーバーに一緒に来る?」って誘われて。それでワーキングホリデーのビザを取って、今度は私が1年間カナダに住むことになったんです。

———それが最初にカナダに行かれたきっかけなんですね。

はい。

———ワーキングホリデーでの滞在中は何をされていたんですか?

日本食レストランでウェイトレスをしていました。
1年後、今度は私のビザが切れるっていう時に、じゃあ結婚しようか、という流れになって。

———なるほど。

結婚してからビザが出るまで9ヶ月間くらいかかるんですけど、その間働く事はできなくて。何もしていないと気が狂ってしまいそうだったので(笑)、ネイリストの学校に通いました。その後、資格を取得しネイリストとして働き始めたのですが、いざ働いてみると肉体労働なのに賃金が安かったので、辞めて日本語教師になりました。33歳の時かな。

———ものすごくいろいろなことをされていますね。

そうかもしれない(笑)。

———さきほど「元夫」とおっしゃっていましたが、、、離婚されてしまったということですよね。原因は何だったのでしょうか?って、こんな不躾な質問をすみません・・・。

大丈夫ですよ(笑)。
彼は、すごく理想的な旦那さんだったんです。
市役所に勤めていて、毎日定時に帰ってくるし、将来も安定しているし。
「なんで別れちゃったの?」って友達にも言われるんですけど。

日本にいた時は、女の人の幸せは結婚して家庭を持つこと、それがまず土台としてあって、その上から何をするか、ということが人生だとずっと思っていたんです。
でも、カナダで生活していくうちに、自分の考えが変化していって。
女である、というのは2段目の段階で、まずは自分自身が、ひとりの人間として何をしたいのか?と考えるようになったんです。

ターニングポイントは35歳の誕生日でした。
「もう35歳になるなぁ」って考えていた時に、「私はいま100%正直に、本当に自分がやりたいことに向き合えている?」と疑問に思って。
一生に一回しかない自分の人生、私の本当にやりたいことは何なんだろう、とあらためて考えた時に、

「そうだ、私女優になりたかったんだ」

って思い出したんです。
それで、今やらなければ後で絶対後悔すると思って。
50歳になった時に「私、昔女優になりたかったんだよね」って言うだけの人生か、とりあえず一生懸命やってみる人生か。
私は後者を取りたかったんです。

———そして実際に後者を選択して、それが離婚につながってしまった?

はい。
夫は安定した毎日を繰り返すのが好きなタイプで、でもやっぱり私は違った。
私はどうしても生活に冒険を求めてしまうんだなって。
改めて夢に飛び込む時に、離婚という選択をせざるを得なかったんです。
それで、7年間の結婚生活を一旦終わりにしたんです。

忘れていた夢に気づいたのは35歳の時。年齢で躊躇し、夢を諦める人は少なくないかもしれません。でもYumiさんは挑戦する方に賭けました。そしてカナダで、女優として様々な舞台、ドラマ、映画などに出演していきます。

「高い城の男」(原題:The Man in the High Castle)というドラマが今まで演じた中で一番大きい役ですね。日本人の役で、台詞も日本語だったんですけど、オーディションに受かって。
第二次世界大戦でアメリカが敗れた後の戦後、という設定のドラマです。アメリカの西海岸を日本が、東海岸をドイツが占領するんですけど、日本側の憲兵隊幹部、木戸憲兵隊長の妻役でした。

———そうやって、カナダで女優として着々と新境地を切り開いていく中、今日いちばん聞きたいのはこの質問なのですが・・・なぜ、スタンドアップコメディアンになろうと思ったのですか?

ドラマだけではなく、舞台もやっていたんですが、初めて主役を演じさせてもらったのが、コメディだったんですね。
シリアスな演技をしている時は普通に聞いているだけなんですけど、面白い台詞を私が言うと、お客さんは笑うんですよね。
そうなると、みんなが笑い終えるまで次の台詞を言うのを待たなければならなかったりして。お客さんと一緒に舞台を作り上げていくような感じがあって、毎回違うものができあがる、っていう経験をして。それがすごく面白いなと思ったんです。コメディって面白いなあ、と思っていた矢先に現在の彼氏に出会ったんです。ティンダー(オンラインデートアプリ)で(笑)。

———その彼は、どんな方なんですか?

カナダでは有名なスタンドアップコメディアンなんです。
2回目のデートで、彼のショーに連れて行ってもらったんですけど、すごく面白くて。
ショーのマネージャーに「日本人の女の子でスタンドアップコメディやっている人なんていないからYumiもやってみたら?」って言われて。
「うん、わかった。じゃあやってみる」って軽く返事をして、2週間後にその舞台に立っていました。2週間でネタを作って。

———早っ(笑)!
やってみて、どうでした?
Yumi Nagashima氏
それが、すごくウケたんですよね・・・!
初回ですごくウケるって珍しくて、大抵お客さんに引かれちゃうらしいんですけど。ネタの書き方とかもわかっていないし、自分が面白いと思うものが必ずしもお客さんも面白いと思うとは限らないじゃないですか。
でも、私は舞台も経験していたので、なんとなくリアルタイムでお客さんが期待しているものを意識してパフォーマンスをしたら、それがうまくいってしまって。あ、これはいけるな、と思いました。

———その後、何回くらいライブを?

100回位ですかね。

———着々と経験を積まれていますね。
ドラマや映画よりも、Yumiさんは舞台の方が好き?

そうですね。ライブパフォーマンスに惹かれます。テレビや映画は残るけれど、ライブは1回やったら終わり。
1回で、キラキラっとして消えちゃう、みたいなところにとても魅力を感じます。
ものとして残らなくても、人の記憶に残る。
同じネタでも、毎回観客も違うし、自分のコンデションも違うし、箱も違う。
毎回違うものができあがる。
いつもウケるところがウケなかったり、いつもウケないところなのに急に笑われ てびっくりしたりとか。同じことをやっても毎回感じることが違う。毎回勉強になるし、何より楽しいです。