勝又友子氏
松橋萌

埼玉県生まれ。多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒。2012年に渡独。2015年ドレスデン造形芸術大学ディプロム修得。2016年公益財団法人ポーラ美術振興財団在外研修員。2017年ドレスデン造形芸術大学マイスターコース修了。現在はベルリン在住。

インタビュー・テキスト: 司寿嶺
―――ドイツに来て良かったと思うことは?

ベルリンは特にですけど、いろんな国籍の人がいるじゃないですか、難民もいっぱいいますし。やっぱり社会問題に対してすごく興味が沸きますね。近所のお店の人で、トルコ人かと思って話を聞いたら少数民族のクルド人だったり。彼らは独自の国家こそ持っていないけれどその民族の人間であるということに誇りを持っている、ということなんかを身近なところで知ることができる。そういうことに自分自身関心を持つことができるようになったのはドイツに来てからの良い変化だったかなと思いますね。

―――ベルリンの魅力ってなんですか?

いろんなひとがいて、いろんな可能性が隠れていることですね。自分にもできるんじゃないか、みたいな感じで。

―――絵を描くことを生業とすることについて、日本との違いは感じますか。

ドイツではみんな普通に絵を買うんですよ。職業として認められているというか、そういう感じを受けます。私も食べていけるほどではないけれど、収入のたしにはなっていますね。でも日本では無理ですよね・・・売れないじゃないですか、買う人がいない。

―――日本で絵は売れないですか?

もちろんコレクターはいますが、年齢の高い方が多いし、たとえば裸の女性の絵を集めるコレクターとか、日本だとそういう偏りがある気がします。ドイツの方が、もっと一般教養として美術を楽しんでいるという印象を受けますね。それが社会的なステイタスでもあるので。コレクターでも一般家庭でも、家に絵が飾ってあって、それを人生の楽しみのひとつとしている、というのは嬉しいですよね。

―――子供への美術教育もきっと違うんでしょうね。ヨーロッパの美術館でよく見かける、絵の前に座り込んで模写とか、日本ではやらせてもらえないですもんね。

子供たちに考えさせるために、どの絵を気に入ったかをクラスで発表させるという授業も多いみたいです。 知り合いのドイツ人のお子さんが、授業で現代美術作家を1人とりあげて調べて発表するという宿題で私のことについて発表するって言っていて、いろいろ質問されました。

――そういう勉強の仕方はとてもいいですね。

どこに興味を持つかというのも人それぞれですしね。
美術館のガイドも多いですよ。どういう意図で作家がその作品を作ったかということを説明してくれるので、ただ見るだけではなく教養も得られる。すごく面白いと思います。

―――日本とドイツの違いを特に感じるところはどこですか?

言葉ですかね。ドイツ語は文脈を大事にするけど日本語は感覚的な部分があると思います。日本だと、話していて相手がわかってくれればもういいかな、ってなりますけどドイツで人と会話をしていると、自分の意見を相手が理解するというよりは、意見を率直に話してそれに対して相手がどういう反応を返すか、という事の方が大切というか。
日本だと、「うん、わかる」と同調すること=相手が理解してくれた、ということになると思うんです。でもドイツでは、自分の意見に対して相手がどんな意見を持っているかを聞く方が価値があるというか。自分と違う意見を聞くことで、また違った角度で物事を見ることができますし、議論もより深まると思うんです。そういう意味でドイツ人は「話す」ということをすごく大事にする。カフェで3〜4時間とか、とにかくしゃべりまくるんです。最初は疑問だったのですが、やっぱりそれって「自分と違う意見を聞くという事を大事にしている」ということなんだな、って思ったんです。

―――それはとてもいいことですよね。一方、「わかる」と言われることに重きを置く日本人・・・だから日本では同調圧力がすごいのかもしれないですね。それで「空気読めよ」みたいになっていく。この風潮って、みんなで同じことをさせられる幼稚園〜小学校の教育から始まっている気がします。ドイツでは、そういうことはなさそうですね。

そうですね、ないですね。考える方法が違うのかな。ドイツ人はとにかく意見をぶつからせたいと思っているというか。

―――それでも喧嘩にならないんですよね、やっぱり小さい頃からの教育でしょうね。萌さんのお子さんはドイツで育てるんですよね。意見を闘わせる事ができるようになるでしょうね。

そうですね(笑)。

―――日本という国は女性がまだまだ生きにくい、と私個人は思っていて。子育てや家のことは女性の仕事、と思っている人がまだまだたくさんいるし、水着や半裸の少女の写真が載った広告などがいまだに公共の場所に貼ってあったりする。「性的な目で若い女性を見るのが普通。それが日本という国ですよ」と言いふらしているようなもので非常に恥ずかしいと常々思っているのですが、ドイツの人たちはそのへん、日本をどう思っていると感じますか?

それは気づかれているというか、普通にそのようにみられていますね。日本は小児性愛者が多くて、女性の地位が低い、と。逆にそういうことを求めてアジア人女性に声をかける人も多いですね。「日本」というフィルターをそのように使われていることもあるので、残念だなと感じます。ただ、ドイツとは距離があるので、「日本って変な国だよね」と面白がって見ている部分もあると思います。
日本の伝統的な部分を尊敬している人も多いですが、日本文化の良いところと悪いところが両方存在する国だというふうに、客観的にわかっていますね。

―――ドイツでそういう目はないですか?女性を性的に見る目、というか。

あることはありますね。ポルノショップってドイツにも結構あるんですよ。ただ、裸のブロンドの女性の写真が外に貼ってあるみたいなもので、これは性を売り物にしている店ですよ、ってわかりやすいんですよね。中が見えないようになっていて、店に入れるのは18歳以上って決まっていますし、そういう意味で「子供が来るところではない」という区分がはっきりしています。性教育がドイツでどうなっているのか詳しくは知らないですが、本屋さんとかに行くと、ティーンエイジャー向けにわかりやすく性の説明をしている本があったりするので、隠すのではなく教育の一部としてちゃんとしている印象がありますね。

―――逆に、日本のいいところってなんだと思いますか?

人がすごく穏やかですよね、日本って。私が住んでいる地域はアラブ系の人が多くて、人によってはすごく気が荒くて道が狭くて車が入れないところとか、クラクション鳴らして喧嘩がはじまる(笑)。そういうことは日本ではなかなかないですよね。

―――萌さんにとって、幸せとは?

自分が自然に生きていて、無理をしないでうまくやっていける状態っていうのが一番幸せなことかな、って最近思います。すべてうまくいくことってないけど、ドイツ人の素朴な感じとかが、自分に合っているのかなって。東京にいるとストレスが多いじゃないですか。それがないのが自分にとっては居心地がいいです。ここでは否定的に「え、美術やってるの?」って言われない。そういうのは生きやすいですね。

―――萌さんの今後は?

4月が出産予定日なんですけど、その直前にグループ展があるんです。(※インタビューは2018年10月)

―――臨月で展覧会・・・!無理されないよう、体に気をつけてくださいね。
最後に、お子さんをこんな風に育てたい、とかありますか?

やっぱり、日本の価値観におさめたくないって言うのは正直ありますね。そういう意味でも、こっちで子育てしたいというのがあります。当然のことだけど、差別はしないとか、いろんなことに興味を持ってほしいなって思っています。

今年4月に無事、娘さんが生まれたという萌さん。新しい家族とともにこれからもベルリンでの生活を楽しんでください!そして引き続き、創作活動も頑張ってくださいね!!